夏の終わり、夏のはじまり

かなぐるい

夏の終わり、夏のはじまり

濃厚で熱い甘美さが確立された、

もう夏も終わりに近い、ある日の夕暮れ。


太陽の射す茜色にも負けないほどに、

頬を朱に染めた彼女が告げた一言に、

俺は青春の情熱を燃えたぎらせた。


寝台の上で隣り合って肌を寄せ合う二人。


彼女はこちらへ向き、笑顔を見せると、

胸の中に飛び込んできた。


慈しむ様に頭を撫でる。すると彼女が顔を上げた。

上目遣いに見つめてくる潤んだ瞳に、

俺の心はいとも容易く奪われるのだ。



手首を掴むと強引に場所を入れ換える。

彼女は寝台を背にしたまま、その黒目がちな瞳をゆっくりと閉じた。


夕暮れ特有の妖しい空気の中、

心なしか彼女の身体は熱を帯び、吐息が甘くなる。


俺はそっと首元に顔を寄せ、優しく口付けした。

首筋から頬、耳と啄ばむように口付けを繰り返す。


そのまま身体を密着させたまま衣服を脱がせる。

しかし、俺がまるでガラス細工を扱っているかのような手つきで彼女に触れていると、我慢しきれずといった様子で彼女はケラケラと笑い出した。

途端に部屋を包み込んでいた妖しげな雰囲気が霧散していくのが分かる。



───お風呂にでも入ろっか


彼女の提案を受けて、俺は照れ隠しするように頷いた。

もはやもう、とてもそんな雰囲気ではない。


先に彼女へシャワーを譲ると、

汗を吸ってジメジメとしたシーツを洗濯機へと運んだ。

ついでに今度こそ衣服を脱ぎ捨て、シーツと共に放り込む。


もう何度目かも分からないというのに、

未だに初々しさの抜けない自分に恥ずかしいやら情けないやら様々な感情が渦巻く。

そんな俺を見越してか、浴室内から彼女の声が反響するようにして囁く。


───気にしないでね。それも個性だよ


雰囲気が流れてしまった時には、

決まって慰めの常套句として伝えられる言葉だ。

でも、いつまでもそれじゃあいられない、とも思ってしまう。



浴室へ入る。

シャワーを浴びる彼女は無防備な背中をさらけ出していた。


ごめん


───どうして謝るの?


キミを満足させられてない気がして


卑怯な言い方だ。

まるで許しを請う哀れな生き物だ。


シャワーを止めた彼女はこちらを振り向いた。

髪の先からはぽたぽたと水滴が零れ落ちる。

落ちた水滴は俺の足を濡らした。


気付けば水滴が俺にかかるほど、

すぐ近くまで彼女は近づいていた。


しかし、肌と肌の間はあと少しというところで触れ合わない。

彼女の熱を感じるほどの近さにいるのに、

そこから先はただ黙って俺を見上げていた。


挽回のチャンスを与えてくれたのだ。

ごくりと唾を飲み込むと、

腕をゆっくりと持ち上げる。


震える指先を陶磁のように透き通った肌へと伸ばす。

彼女の白い肌はシャワーを浴びたせいか、柔らかな赤みを帯びていた。



浴室の二人の熱気は、

もう夏も終わりに近いというのに、

まるで盛夏と見まがうかのように熱く燃え盛っていた。

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夏の終わり、夏のはじまり かなぐるい @kanagurui

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