号外:七十三番目の神
“号外!! 中央都市ハイセントラル強襲!! 黒幕は堕剣ネビ・セルべロスか!?
階歴662年、11月17日、連合大国ゴエティアの首都機能を持つ中央都市ハイセントラルが、
七大都市の一つ、要塞都市ハイゼンベルトで時空を繋ぐ門が魔物によってつくられ、その次元の狭間を通って魔物達が雪崩れ込んできたという。
連合政府の若き俊英、アンジェラ・ギルバート中佐(事件発生当時は少佐)の指揮によって、中央都市での無辜の民たちへの被害は最小限に抑えられた。
要塞都市ハイゼンベルトこそ半壊状態に陥ってしまったが、事態の深刻さに比して、これほど犠牲者が少なく済んだのは奇跡的といえるだろう。
事実、ギルバート中佐本人も、率直な意見を公表している。
『今回の防衛戦においては、
ギルバート中佐が簡潔に語った中にあるように、今回の事件では加護持ちと
要塞都市及び、中央都市の防衛に貢献したの加護持ちは、“
聖騎士協会からは“水の騎士”サウロ・ラッフィーの一名。
彼らの活躍なくして、中央都市の安寧が保たれることはなかったはずだ。
しかし、今回の事件において、依然として謎は残っている。
まずは、事件の緻密な計画性についてだ。
要塞都市と中央都市を結び、軍勢を率いて襲いかかる。
軍略に長けた知性ある指揮官がいなければ、到底実行にまでは至らないだろう。
つまりは、黒幕がいる。
悪意を持って、魔物を率いた何者かが存在しているのである。
そして、我々は“将軍”ことリオン・バックホーンから実に興味深い話を伺うことに成功した。
『……そうだな。今では、もう夢だったんじゃないかと思い始めている。顔のない魔物。どんなに傷をつけても、すぐに再生する怪物。そんな信じられないような化け物を、たしかに鍛えてる、そう言ったんだ。でも、俺には、怯えてるように見えた。俺では手も足もでないような魔物が、怯えていたんだ。たしかに命は救われた。感謝もしている。だけど、ありえるか? 魔物を鍛え、従える、人間なんて。なにがなんだか、わからないんだ、本当に。……誰かって? さっき言った通りだ。ネビ・セルべロス。今は堕剣と呼ばれている、元剣聖だ』
堕剣ネビ・セルべロス。
なんと要塞都市ハイゼンベルトの近傍で、あの堕剣の目撃情報があったという。
堕剣の出没と魔物の軍勢。
これらの二つの事柄に関連性がないと言い切るのは、ほとんど不可能と言っていいだろう。
だが、実際には堕剣が要塞都市や中央都市に実際に姿を現すことはなかった。
また、目的も不可解だ。
市民を見境なく脅かすことを狙ったのだろうか。
謎は深まるばかりだが、さらに今回の戦線で大活躍をした一人の若き英雄からも貴重な話を伺うことができた。
『ああ、強かったぜ。あれはヤバかった。自分で言うのも情けないけど、おれ一人じゃ勝てなかったっすね。黒い山羊の頭をした魔物。すげぇ強かった。実力不足を痛感したっす。ノアとなぜか今回は味方をしてくれた顔のない魔物。あいつらがいなかったら、確実におれは死んでた。だから、おれはもっと強くなるっす。次会ったら、あの顔のない魔物にも、ノアにも勝つ。絶対に勝つ! ここ、記事にしてくれていいっすよ! ……え? そんなことより堕剣? あー、おれは今回会ってないっすけど、なんか近くにいたらしいっすね。神下六剣の座とか、おれは興味ないからなー。でも、ノアは会ったみたいっすよ。……どうだった? どうって言われてもな。なんか、ネビ様は神、とか言ってたかも。ノアは変人っすからね。顔のない魔物と一緒に修行の旅に出るとかよくわからんこと言ってたし』
皆さん、お気づきだろうか。
“
堕剣ネビは神。
ノア・ヴィクトリアはたしかにそう、口にしたらしい。
加護の剥奪と神殺しの罪。
これまで、なぜ剣聖ネビ・セルべロスが堕ちてしまったのか、それに関して明確な理由は不明瞭なままとなっていた。
しかし、今回の堕剣ネビの暗躍とノア・ヴィクトリアの言葉から、ついにその目的が明かされたように思える。
そう、それは神の座の強奪。
七十三番目の神として、堕剣ネビは世界に君臨することを野望としているのではないだろうか。
もちろん、神の座を奪うことが可能なのかなど、具体的にどういった手段で人から神になろうとしているのかなど、説明の困難な箇所は残る。
そこで著名な世界史研究家であり、優れた
『デュフッ、デュフフフフッ! それは実に、実に実に興味深い質問ですねぇ〜! 堕剣ネビ・セルべロスが神の座を狙っている。とても面白い考察です。そもそも、神とは何か? 人と神の境はどこにあるのか? 今は神々の時代と呼ばれていますが、それ以前の時代、我々世界史研究者の中で“
人類最強という地位に満足できず、堕剣ネビはさらなる高みを目指すために禁断の手段を選んでしまったというのだろうか。
そのためには神を殺し、人をも殺す。
いよいよ、堕剣ネビは私たちの知る剣聖の誇りを捨て去ってしまったようだ。
さらに恐ろしいのは、堕剣ネビが今やもう、力を得ようと暴走するただの悪徒というわけではないということだ。
神の座を手にいれるために、入念に策を練り、虎視眈々と計画を積み重ねていく知能犯。
剣聖時代はあまり知略の方面で目立つことはなかった堕剣ネビだが、今となってはその眼光紙背ともいえる並外れた才気が発揮されているように思える。
事実、今回の事件では“剣姫”タナキア・リリーが参戦していたが、堕剣ネビは彼女の追跡を免れたらしい。
いったいどんな策謀を用いたのかは不明だが、神下六剣ですら容易に堕剣に近づくことはできないのだ。
もはや、力だけでは、堕剣を止めるには足りない。
読者の方々よ、我々は心して備える必要がある。
最後に、忠告ともいえる、“水の騎士”サウロ・ラッフィーからの言葉を載せて、この記事を結ぼうと思う。
『僕から言えるのは、ただ一つ。気をつけてください。僕らは今、おそらく堕剣の手のひらの上にいる』
著 ジョン・ライター”
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