第16話 補助・附与:自由の使い方が判明した

補助・附与:自由フリーダムを発動させてみた結果――何も起きず。


「何かしたの?」


「うん、発動させてみたし魔力を使ったのは感じたんだけど……」


もしサラが前に言ってたように、詠唱が必要で発動に失敗してるなら魔力を使った感触は無いはずだし……一体なんなんだろう。


「とりあえずそれは後回しにして、補助魔術の多重付与を試しましょ。

 出来ない事より出来る事を先にして戦略の幅を広げるほうが先決だわ」


「うん、わかった」


ジェマは冒険者としては先輩だし意見も的確だ、僕とサラはジェマの意見に賛成して休憩がてら多重付与がどこまで出来るか試すことにした。


ダンジョンに入って少ししか経ってないけど、何かあった時にすぐ逃げ出せる場所だからいいよね。




「嘘でしょ……何これ」


「有り得ないわよこんなの……」


「そんなに引かないで!?」


僕は出来る限り補助魔術の多重付与をするテストだと言ったので、3人に恐らく限界だろうという回数を使用した。


その回数は5回、本来1回しか付与することが出来ない補助魔術が5回――しかも嬉しいことに僕の補助魔術はかなり質がいいらしく1回でも相当な効果が得られるそうだ。


「これだけ動ければ恢復術師の私でも前線で戦えそう……」


「実際出来るかもね、低層の魔物は弱いだろうし試してみれば?

 クレイグの補助魔術があれば負けは無いわよ――っと、クレイグの魔力が持つかどうかだけど」


「僕は平気だよ?」


そう言ってすぐ、ふとサラから教えてもらった言葉を思い出す。


補助魔術って発動させている間ずっと魔力を消費し続けているから物凄く燃費が悪いらしい、確かに魔力を使っている感じはあるけど底を尽きそうな気配は一切感じられないなぁ。


それに、魔力切れが近くなったら体調も悪くなるって聞くし……今のところそんな兆候は無い。


「つくづくクレイグってすごいと思うわ……何でこんな規格外をマクナルティ家は追放したのかしらね」


「あの頃の僕は何も出来なかったから仕方ないよ、父上は武を貴ぶ人だったし……僕は剣を全然使えないから。

 もし剣を使えたらもう少し様子を見てくれてたのかもしれないけど、ないものねだりはダメだよね」


「ないものねだり……そうだわ!」


僕とジェマが雑談していると、サラが何かを思いついたのかいきなり大声を出した。


洞窟なので声が響く、魔物がこっちに来たらどうするのさ!


「……っと、ごめん。

 補助・附与:自由フリーダムについて思いついたことがあったのよ」


「え、どんなことを思いついたの?」


「あの付与魔術は現状完成してない、そのまま使っても効果が無いのよ。

 クレイグが付与したいものを思い浮かべて、補助・附与:自由フリーダム

を発動させたらどうかしら?

 それなら魔術の名前にも納得がいくと思うんだけど……どうかな?」


「それならさっき何も起きなかったのも納得ね。

 さっそく何か試してみましょ――そうね、クレイグは短剣使いでもあるからリーチが短いのが難点だし……魔法剣のようなものを付与してみたら?」


「え、えぇっ!?」


魔法剣……文献では読んだ事あるけど実際に使われたのを見た人は少ないって書いてあった。


魔法の威力に物理的な速度と威力が相乗されて非常に強力らしいけど、そんな簡単に付与出来るなんて有り得ないよ。


でも、本当に使えたらすごいよね?


試すだけ、ちょっと試すだけだから……。


僕は文献で読んだ魔法剣を思い浮かべる、属性は分かりやすく火でいいかな……短剣も構えたし、補助・附与:自由フリーダム発動!


次の瞬間、構えた短剣には火属性の魔法剣が付与されていた――嘘でしょ?




「らっくしょー!

 ここまで調子良くダンジョンを進めると気持ちいいわねー!」


「本当にね、でもクレイグとサラの魔力が切れる前に撤退するわよ。

 当初の4層まで潜ったっていう証拠の確保は終わって、今は6層まで来てるんだから」


「僕はまだまだ大丈夫、2人とも安心していいよ!」


「私だって!」


補助・附与:自由フリーダムがどんな補助魔術か分かって、無数の戦術を手に入れた僕らは怒涛の勢いでダンジョンを踏破していった。


補助・附与:自由フリーダム、これは僕が思い浮かべた補助・付与魔術を自由に使う事が出来る魔術だった。


欠点は2つ、他の補助魔術みたいに多重付与は出来ないのと違う効果で2回以上発動出来ない。


火の魔法剣と水の魔法剣を同時に付与は出来ないみたい、それが出来たら強かったけど出来ないのは仕方ないよね。


魔法剣の付与だけじゃなくて、速度増加スピードアップを5回掛けた後に補助・附与:自由フリーダム速度増加スピードアップを思い浮かべて追加で付与……なんて事も出来たし。


これが出来るだけでもかなり違うと思う、ただ通常1回しか出来ないのを5重に掛けれるんだからそこまで必要性は感じないけどね。


それはそうと、僕の補助魔術が上手く噛み合ってサラの紋章も10画まで進んだ。


新しい恢復術をいくつか覚えたみたいで、その中でも継続回復が出来る再生リジェネレイトを覚えたっていうからすごい。


継続的に傷を癒すことが出来るらしいから、とりあえず掛けておけば多少のダメージは相殺出来る。


僕が皆に各補助魔術と補助・附与:自由フリーダムで魔法剣、サラが再生リジェネレイトを掛けてジェマを先頭に魔物を倒していく流れが出来てから本当に安定しだした。


サラも補助魔術があれば弱い個体なら充分倒せるし、もしかして僕たちは強いのかもしれない。


そう思うと、安心と嬉しさが込み上げてきて自然と顔がにやけてしまう。


僕の力に気付かせてくれたサラ、仲間になってくれたジェマに感謝しないと。




その後も調子よくダンジョンを進み、7層に到着。


デインホン支部の話では、4層以降を進めればAランク以上の実力者として扱われるって言ってたよね……こんなあっさり辿り着けていいのかな。


「さて、ここの魔物を数体討伐したら戦利品を回収して帰りましょう」


「え、なんで!?」


ジェマの提案に間髪入れずサラが疑問を投げかける、僕としてはジェマに賛成なんだけど……。


「私達は確かにここまで簡単に辿り着けたけど慢心はダメ。

 今は大丈夫でも、帰りにどんなトラブルがあって2人の魔力を消耗するか分からないんだから。

 結界の準備も扱える人材も無いし野営の準備も充分じゃない……なら、余力が充分あると認識しているうちに引き上げるのがいいと思うの。

 サラが焦っているのは見てて分かる、けど命あっての物種なんだからここは分かってほしい――ここの魔物の戦利品を見せたら私達の実力はコーネプロスに充分知れ渡ると思うし」


ジェマはサラの疑問にしっかりと返答、流石冒険者としては一番の先輩だなぁ。


貧民街からあまり動けなかったとは言っても、ダンジョンに潜った経験もあるからこその意見だと思う……僕はSランクの人が限界を感じた階層に行くのが怖かっただけだし。


「うぅ……分かったわ」


サラはジェマの返答を聞いて渋々承諾、その後ぽつりと「もう少しだったんだけどなぁ」と呟きながら僕の後ろへ下がっていった。


何がもう少しだったんだろう?


誰にも聞こえないようにというか、無意識に出た独り言のようなのであまり深く追求しないでおこうかな。


誰にだって踏み入られたくない部分ってあるだろうし。




しばらく進むと魔物と遭遇、同じ流れで討伐出来るけど……6層と違って明らかに魔物が強くなってるのが実感出来た。


同じ3体の魔物でも討伐にかかる時間が体感で結構違ったし、何より動きが早い。


補助魔術を掛けてれば十分対応出来るけどね。


ジェマは討伐した魔物から戦利品を剥ぎ取る、結構グロテスクな作業だけど淡々とこなすあたり慣れてるんだろう。


僕も出来るようになったほうがいいのかな……でもちょっと苦手かもしれない。


「角に牙に魔石……うん、これで充分ね。

 じゃあ来た道を戻って帰りましょう、これを見せたら支部は大騒ぎするんじゃないかしら?」


ジェマはいたずらっ子のような顔をして笑う、案外相手を驚かせるのが好きなのかな。


「待って、ここに隠し通路があるみたい」


サラが帰ろうとする僕とジェマを呼び止めるので振り返ると、何も無い岩壁を指差している。


「どう見たって何も無いじゃない、どうしたの?」


「ううん、ここに通路がある――見てて」


そう言ったサラは目を閉じて岩壁に触れる、僕の目から見ても変哲もない岩壁だけど……本当に隠し通路なんてあるんだろうか?


しばらくサラが岩壁に触れていると、サラの特徴的な青い髪が淡く光り出す……何が起こっているんだろう。


サラにこんな能力があったなんて知らなかった――というか、どんな能力なんだろうこれ。


隠し通路を見つける能力……そういえば最初の洞窟でも隠し通路を見つけたのはサラだったし。


でも、あんな体の一部が発光するなんて聞いたことも見たことも読んだこともない。


なんて色々考えていると岩壁が崩れ、サラの言う通り隠し通路が現れた。


「せっかく見つけたし、帰るにしてもここを調べてから帰りましょ?

 今まで隠れてたんだからすごいお宝があるかもしれないし……ってジェマ、何してるの?」


そうサラが言ったのでジェマに視線をやると、魔縁を眼前に構えて目を閉じている。


お願いだから、ここでケンカはやめてね?


「ごめん、魔縁に少し呼ばれて対話してたの」


「魔縁に呼ばれるって、どうしたのさ?」


少し不安になったので聞いてみる、あいつが何か口を出す時はかなりろくでもないか物騒な事だけだし。


「単刀直入に聞くわね――サラ、あなた何か私達に隠してない?」


疑問を投げかけられたサラは体をピクンと跳ねさせて固まる、表情も強張った様子だ。


本当に、何か隠してるのかな……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る