第15話 コーネプロスに到着
「疲れたぁ……」
ここはコーネプロスの国境を守る城塞都市デインホン、グラインハイド帝国を発ってから3日で到着した。
疲れている理由は、その足でデインホンの『連合』支部に顔を出すと市長に挨拶をしておけとのことだったので、諸々手続きをして挨拶を終えたところだからだ。
唯一助かったことといえば、僕がCランク冒険者になっているおかげで、物凄く面倒な入国手続きがかなり簡易化されていたということだろうか。
それと、気づかなかったけどテヘンブル支部長の手紙をサラが持っててくれたのが効いたみたい、そんなのがあるなら言っててほしかったよ。
とにかく無事に入国出来てよかった、でもまだCランクの実力があるとは思えないから、これからも精進しなきゃね。
「しかしまぁ、クレイグと思わしき人物が既に捜索されているとはね。
思った以上に手が早いわ、でも『連合』は帝国にクレイグを差し出す義理は無いし、コーネプロスの住民も敵国の手助けをするような真似はしないはず。
ただの金稼ぎや悪党は少し怖いけど……それは返り討ちにすればいいだけだから」
「物騒だなぁ、そんな事が起きないのを祈るよ」
「でもサラの言った通りになったわね、『教団』の研究発表もあったみたいだし。
戦争に巻き込まれないうちに帝国を出れたのは良かったわ……貧民街の子達が心配だけど」
僕も孤児院が心配だ……でも先生は元Sランク冒険者だし何とか守ってくれるかもしれない。
国と国の戦争を止める術なんて持ってないし、無事を祈るしかないよね。
「クレイグ、そういえば市長から何か預かってたわよね……なんだったの?」
「あ、そういえば」
宿のソファでだらけてた僕は、サラの言葉を聞いて預かった手紙のようなものを鞄から取り出す。
封を開けてみると……そこには通達と書かれた紙が1枚、内容はこうだ。
『コーネプロスに入国した冒険者に通達する文書
冒険者各位
コーネプロスは現在グラインハイド帝国と冷戦状態が続いているが、近々戦火を交える可能性が充分に考えられる。
それに伴い以下の事を遵守してもらう事を臨時規則とする。
1. 国境付近の活動を控えること。
2. グラインハイド帝国の利になる依頼を受けることを禁ずる、もしそのような依頼を発見した場合は直ちに最寄りのコーネプロス支局まで報告を。
3. グラインハイド帝国との関係が回復・及び戦争の終結までグラインハイド帝国側への国境を通過することを禁ずる。
最後に、可能ならコーネプロスに冒険者の戦力を貸してほしい――よろしく頼む。』
「コーネプロスも戦力流出を防止するために必死ね、それで『連合』支部に居た冒険者の一部がかっかしてたんだわ」
「ま、仕方ないでしょ。
この3項目さえ守れば活動は実質自由だろうし、事前に教えてくれただけ感謝しないとね」
2人は納得してたけど、しばらく帝国に帰れないのが確定してしまった。
さっき孤児院や貧民街の話をしただけに心配が少し膨らむ。
……無事を祈るって決めたところだし、切り替えないとね。
「さて、とりあえず今日はこのまま休みにして、改めて明日依頼を見に行こうか」
「そうね、それじゃお風呂に行ってくるわ」
「私も行くわー」
これ以上話すことはないだろうし休むことを提案したら受け入れられ、2人ともお風呂に行くそうだ。
僕もお風呂に入ってしっかり休むとしよう、新しい土地での活動だし元気な状態でこなしたいからね!
次の日。
テヘンブル支部でもらったお金の残高がまだまだあるので路銀の心配は無いけど、コーネプロス・デインホンでの信頼を得て活動しやすいようにするために、いい依頼が無いか『連合』支部へ見にきている。
もう僕はCランク冒険者だからDランク以下の依頼は受けれない……本当に大丈夫かなと不安になるが、1つ剥がせないように固定されている依頼書を見つけた。
内容を読んでみるとデインホンにあるダンジョンの踏破だそうだ、それもデインホン市長直々の依頼。
街中にダンジョンがあるのも驚きだけど、その踏破の依頼書がここにあるのがもっと驚き。
これがあるということは、このダンジョンは現状未踏破ということ……コーネプロスにも熟練の冒険者や凄腕の魔術師が居るはずなのに未踏破なんて……相当な高難易度ダンジョンなんだろうなぁ。
そんなダンジョンは行けるわけがないし、別の依頼を探さないと――。
「すみませーん、私達デインホンに来て日が浅いですけど……このダンジョンってCランク冒険者が居るパーティなら挑戦していいんですか?」
「ちょっ、サラ!?」
僕がダンジョンの依頼をスルーして他の依頼を探そうとすると、サラが受付の人へダンジョンについて質問を投げかけていた。
「えぇ、現状そのように承っています。
ですがSランクとAランクで組まれていたパーティでの到達点が8層ですので……無理をされない程度に。
未踏破ダンジョンだからと欲をかいて命を落とした冒険者は多いですから」
SランクとAランクで8層までしか潜れないって……ダンジョンの平均最下層は20層って聞いたけど、どれだけ高難易度ダンジョンなんだ。
「分かりました、ありがとうございます!
それと、このダンジョンを何層まで潜れたら周りの信頼を充分得れますか?」
「4層まで行ければBランク相当、それ以降はAランク以上の実力者として扱われるでしょう――充分という意味ではCランクでも充分だとは思いますが。
ですけど、先程も言ったとおり欲をかいて命を落とさないようにしてくださいね」
サラは受付の人と話を終えてこちらに戻ってきた、周りからは心配するような憐れむような……そういった視線が送られてくるのが分かる。
「あいつら大丈夫か……」なんて小声も聞こえてくるくらいだ、やっぱり相当危険なダンジョンなんだろう。
「さて、それじゃ準備を整えてダンジョンに挑戦しましょうか!」
「ちょっとサラ、受付の人の話聞いてた!?
それに周りの反応も、かなり危険なダンジョンだよ!?」
僕は慌ててサラの提案を止める、僕らが挑戦したって返り討ちあうだろうし最悪命を落としてしまう。
コーネプロスに来て早々そんな危険な場所に行かなくてもいいはずだ、それより帝国側じゃない平原や森に生息している魔物の討伐とかもあったのに。
「あら、私もサラに賛成するわよ?
ただ……クレイグが来てくれたらっていう条件付きだけどね」
「もちろん私だってクレイグ抜きで挑戦するつもりはないわよ。
この中で一番実力があるのはクレイグなのは分かってる、ただそこまで高難易度ダンジョンなら私とジェマの道導紋章を早く成長させれるんじゃないかなって思ったから……もちろん無理はしないわ、ダメ?」
「うっ……分かったよ……」
ジェマの賛成とサラに上目遣いでお願いをされて折れてしまった。
2人が僕の実力を認めてくれてるから、っていう嬉しさもあったけどね――命を落とさないどころかケガもさせない勢いで2人を守らなきゃ!
「Cランクの登録証、確かに確認しました――お気を付けて」
ダンジョンに必要な道具を一通り買い揃えてダンジョンに挑戦、守衛の人に登録証を見せないと通れない仕組みになっているみたい。
そりゃそうだよね、高難易度ダンジョンなんだもの。
しばらく魔物の気配も無く歩いていると、サラが口を開いた。
「さて、このダンジョンでやりたいことは3つあるわ。
1つは最初に言った私とジェマの成長、後衛の私がこんな事提案するのは厚かましいと思われるだろうけど……出来れば倒しやすい魔物を限界まで弱らせて私に回してほしい。
それをクレイグの補助魔術で強化された私が倒すから」
「僕はもちろんいいよ、ジェマは?」
「恢復術師の成長はパーティの生存率を引き上げるのなんて百も承知よ、その提案を蹴るなんてとんでもないわ。
ただ、倒しにくい魔物は私が倒すからね」
「うん、分かってる……ありがとう2人とも。
2つ目は4層まで潜ったという証拠の入手、恐らくこれは魔物の一部を持ち帰れば証明出来ると思うわ。
それがあればBランクと同程度の扱いを受けれるはず……いい依頼が舞い込んできたりする可能性を上げることが出来るから可能なら達成したい。
そして3つ目、これがある意味一番大事かもしれないわ――クレイグの補助魔術でどこまで能力を底上げできるかと、現状何が出来るかのテストよ」
僕のテスト?
そんな試すほど大それた能力は無い気がするけどね……強いて挙げるなら
この2つは確かに試していいかもしれない。
「あ、私も魔縁の言葉が気になって。
そのタリスマン……良くない何かがあると思うのよね、そうじゃないと魔縁があんな事言わないと思うし」
「それは気になったけど、これを手放すつもりはないよ。
子どもの頃一番可愛がってくれたメイドからの贈り物なんだから」
「クレイグの体に異変が起きないならいいけど、もし起きるようだったら身に付けるのをやめてね?」
メイドがそんな変な物を送るとは思えないから考えなかったけど、魔縁の言葉を聞く限りその可能性も否めない。
僕は不服ながらもジェマの言葉へ首を縦に振って返事をした。
「さて、それじゃ魔縁の話も出たし……まずクレイグのテストから!
補助魔術の多重付与、出来るはずよね?」
「うん、ジェマとの模擬戦闘中に懐かしい声が聞こえて……そこで思いついたんだ。
そういえばあの声、メイドの声だったような……」
「一応確かめさせてもらっていいかしら?
クレイグは知らないかもしれないけど、補助魔術の多重付与って普通は出来ないの」
え、そうなの?
思いつかなかったからじゃなくて、そもそも出来ない事だったんだ……補助魔術師の文献に出会えなかったからそのあたりの知識があまり無いんだよね。
普通は出来ないってことは生かせる場面は多そうだ、それに魔縁が指摘したのも頷ける。
このタリスマンは手放さないけどね。
「僕のテストを先にするなら提案があるんだけど、
「え、本当に何かしらそれ……」
「とりあえず試してみれば?」
サラは疑問を浮かべ、ジェマはやってみれば分かるだろうの精神みたい。
とりあえず試してみるとしようか、2人とも知らないってことは使ってみないと効果も分からないからね。
なんだかんだ使ってないし、とりあえず使ってみよう――それっ。
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