第13話 ゴブリン以上に危ない奴が居た

「ふぅっ……これで全部かな?」


あの洞窟に現れていたゴブリンじゃなく、普通に生活してても平原で見るゴブリンの群れだったので難なく撃破。


気になるとしたら、あまりに見ない規模の群れだったってことかな……全部で20匹くらい。


いつもなら1~5匹くらいなんだけど。


なんて考えてる場合じゃない、馬車に戻って報告しなきゃ!


僕は補助魔術を掛けたまま馬車を追いかける、すると自分でも驚くくらい早く馬車に追いつくことが出来た。


あれ、僕の速度増加ってこんな効果高かったっけ……。


まぁいいや、とりあえずまだ気づいてないみたいだし報告して隣国へ向かってもらおう。


「すみません、ゴブリンの群れの討伐が終わって戻ってきたんですけど……」


「え……うわぁぁぁぁっ!?」


荷馬車の運転手さんは僕の言葉にびっくりして、あわてて馬の手綱を引いたのだろう……馬もそれに反応して急減速。


「危ないっ!」


僕は一緒に乗っていた商品が倒れそうになるのを支える、速度増加をかけっぱなしにしておいてよかった……普通にしてたら反応出来てなかったよ。


荷馬車が止まると、運転手さんが震えながら振り向いて恐る恐る口を開いた。


顔も青ざめてるし……怖かったのは分かるけど助かったんだし安心してほしいな?



「な、何でここに!?

 さっきゴブリンの群れに向かっていったはずじゃ……」


「うん、倒したから戻って来たよ。

 僕は附与魔術師だからね、自分に補助魔術を掛けてサクッと終わらせたんだ――ちょっと効果が少し前より高くなっててびっくりしたけど」


絶対ジェマとの模擬戦闘の時より高くなってるからなぁ、あの時はここまで早く動けなかったし。


なんて呑気に説明していると、荷馬車を止めた運転手はとんでもない行動に出た。


「クソッ……動クナ!」


「えっ?」


なんと腕を刃物のように変化させ、眠っているサラとジェマの首元にあてがい、僕に動かないよう命令してきた。


こいつ……魔物!?


「眠ッタヤツヲソノママ殺シ、ソウジャナイヤツハ弱ラセテ殺スツモリダッタンダガナ……。

 マサカソコマデ強イトハ思ワナカッタ、要注意人物リストニハ無カッタ顔ダッタンダガ」


最初から騙されてたのか……それより要注意人物リストなんて単語が出てくるということは、吟味して客――いや、犠牲者を選んでたということ……?


悩むのは後だ、とにかく今は2人を助けなくちゃ……!


「2人から離れろ!」


僕は短剣を構え臨戦態勢に入る、補助魔術はかかってる……遅れはそう取らないはず!


「ソッチコソ動クナヨ、少シデモ変ナ真似ヲスレバコイツラノ首ヲ刎ネルゾ。

 取引トイコウジャナイカ」


「取引?」


「アァ、トテモ簡単ナ内容ノ取引ダ……オ前ハコノ後10分間ココヲ動クナ」


「そんな時間与えれるわけないだろ、10分もあれば何でも出来るじゃないか!」


「落チ着イテ聞ケ、俺ハコノ後コイツラカラモコノ場カラモ離レル。

 オ前ハ俺ガ離レルノヲ見テレバイイ、ソノ後ハ好キニシテクレ――コノ馬モ馬車モ譲ルサ」


ん?


何か思っていた展開と違う。


ドスの効いた声だからこっちも構えてたけど……こいつもしかして、何もかも置いて逃げ出すから見逃してくれって言ってる?


僕の勘違いかな……一応聞いてみよう。


「逃げるつもり?」


「アァソウダ」


認めちゃったよ。


するとこの魔物……2人から腕を離して、手を背中で組んだ状態で土下座をし始めた。


「信ジラレナイナラ信ジテモラエルヨウ努メル、ドウスレバイイ?」


「あ、いや……」


そんなドスの効いた声で泣きそうになりながら言わなくても……というか、2人から離れた時点で本当に逃げるのを見るだけになったじゃないか。


取引も何もあったもんじゃない。


そうだ、こいつが明らかに僕を怖がって命乞いしているなら僕が命令しても聞き入れる可能性があるし試してみよう。


「ねぇ、ちょっといいかな?」


「ナンダ……イヤ、ナンデショウ」


目線を合わせて話しただけなのに怖がられてしまった、普通は立場が逆だと思うんだけどな。


「冒険者として人を殺す魔物を見逃すわけにはいかないし、この場での命は助けるから捕まえさせてもらうよ。

 その後の命は君次第――僕らの質問と、足りなければ『連合』に引き渡して取調べになると思う……よろしくね」


「ッ……ハイ……」


なんと大人しく捕まってくれるみたい、言ってみるもんだね。


コイツが2人から手を放してくれてたから思いついたんだけど、これはラッキーだ。


僕は荷馬車の中にあった縄で魔物の手足を動けないように縛る、ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね。


「うぅ……ん……ここは……?」


「ふわぁぁ……ちょっと寝たりない……」


サラとジェマも目を覚ましたみたい、寝てるだけで本当に良かった。


とりあえず状況説明と、コイツへの質問を一緒に考えてもらおう。


僕だけじゃ思いつかない事もあるだろうし。




「――というわけ、2人は本当にすぐに寝ちゃってて大変だったんだから」


「それはごめん……というより人に化けれて意思疎通が出来る魔物なんて聞いた事ないんだけど」


ジェマが捕まえている魔物を見ながら首をかしげる、僕も聞いたことも見たこともないよ。


「まぁそれは置いておいて。

 あなた、誰の命令でこんな事してたの?」


サラが魔物に質問をする、確かに後ろに大きな存在が居てこんな事をしてるのかもしれない……それこそおとぎ話に出てくる魔王とか。


「帝国ノ貴族ダ……名前ハ言エナイガ」


「そう……話してくれてありがと」


「え、サラ信じるの?」


口から出まかせと捉えてもおかしくない言動だったけど、サラはすぐに信じたようで魔物から離れた。


「えぇ、だって戦争が起きるのも帝国の貴族が裏で悪いことをしているっていうのも父上から聞いてたもの。

 武で成り上がって世界を手中に収めてるグラインハイド帝国は、万が一にも戦争に負けれないだろうから……これくらいはするかなって」


僕の知らないところでそんな話が出てたなんて……でもこれで納得がいったよ。


枢機卿がサラを僕と一緒に旅をさせるのを許可した理由――きっと娘を国外に逃がして戦争に巻き込まれないようにするためだ。


帝国民で力がある人は徴兵令で全員前線に駆り出されるからね、サラなんて恢復術師だから絶対に戦争に参加させられるだろう。


その点『連合』に所属して隣国に出てしまえば、そうなることはまず間違いなく無くなるだろう。


敵国にお触れを出すなんて事、いくら帝国でも出来ないだろうし。


「ここまでは話を聞かなくても想像は出来てたんだけど……分からないのはこいつの正体よ。

 あなた、一体何者なの?」


「……」


サラが問いかけると顔を逸らして俯く魔物、むしろこっちの方が依頼者より話しやすい内容だとは思うんだけど。


「黙るならいいわ、人間に化けれる魔物なんて危険だし……クレイグの言う通り『連合』に引き渡すかこの場で殺すかさせてもらうわね」


「ワ、ワカッタ……話ス……。

 信ジテ貰エナイカモシレナイガ……俺ハ元人間ナンダ」


「「「えっ?」」」


魔物が言った質問の答えに3人揃って変な声で返答してしまう――元人間って……どういう事?


帝国の貴族はそれを分かってこいつに冒険者処分の依頼を……待って……よく考えたら貴族って事は父上の可能性だって……。


いや、それは無いと信じよう。


個人的には恨んでいるけど、あの父上がそんな姑息な手段に手を出さないと信じることは出来る。


「実験ニ参加スレバ借金ヲ帳消シニシテクレルッテ言ワレタンダヨ……。

 俺ニモ家族ガ居ル、妻ト娘ヲ守ルタメニハコウスルシカナカッタンダ……」


「そう……事情は分かったわ。

 最後に一つだけ聞かせて」


「ナンダ?」


「あなたは普段人間と魔物、どちらの姿で生活しているの?」


「人間ダ、魔物ノ姿デ家ニ帰ルワケニハイカナイダロウ」


そうだよね、僕達が最初に会った時は人間だったし家族が居るって……他にもこんな人が居なきゃいいけど。


「分かったわ。

あなた、これから首都に行って『教団』を訪ねなさい」


そう言ったサラは指輪を外して魔物に手渡す。


「コレハ……ソレニ何故『教団』ニ?」


「私の名前はサラ、その名前と一緒にこの指輪を受付に見せてお父……枢機卿に会わせてって言えばその日のうちに会えるはず。

 会えたらあなたの状況と知ってることを全て話なさい、そうすれば悪いようにはならないから」


「シ、シカシソレダト帝国ノ貴族ヲ裏切ルコトニ……」


「『教団』は中立機関よ、帝国だって簡単に手出し出来ないわ。

 それに……まぁ私が大丈夫だって言う理由は枢機卿と会えば分かるわよ。

 その代わり、この荷馬車と馬はもらうからね?」


「ワ、ワカッタ……恩ニ着ル……」




その後少し話をした後この場を離れて、魔物は首都に向かっていった。


そして馬術の経験が少しあるジェマが運転手をしてくれてる、誰も乗れなかったらどうしようと思ってたから安心。


「ごめんね、あいつの処遇を勝手に決めて」


「ううん、それはいいけど……見逃してよかったの?」


「あいつも好きで魔物になったわけじゃないでしょうし、嘘はついてなかったと思う。

それにお父様なら受け入れてくれるはずだわ」


それはそうだけど、魔物と分かって『教団』に行かせるなんて……もしあいつに魔が差してさっきみたいな暴動を起こしたら対応出来るのだろうか。


それに枢機卿は『教団』のトップ、もし何かあったら――


「クレイグ、心配しなくてもいいわよ。

 お父様なら大丈夫だから」


不安や心配が顔に出ていたのだろう、サラに笑われながら諭された。


「でも……」


「ホントに大丈夫だって、優秀な護衛だって付いてるしお父様自身かなり戦えるんだから!」


それなら安心かな、まぁ僕にタジタジになってたし『教団』トップとその護衛には手も足も出ないはず。


「2人とも、もうすぐ隣国『コーネプロス』に入るわ。

 クレイグは登録証の準備をして。」


「分かった!」


もうそんな所まで来てたんだ、やっぱり徒歩より圧倒的に早いや。


馬車が自由に使えるようになったのは本当に大きい、危ない目にあったけど全員無事だったし見合ったものが手に入ったと思う。


さて、登録証も出したしもうすぐコーネプロスだ……一体どんな国なんだろう。


まずは支部に行って色々教えてもらわないとね、そのまま依頼もいくつか受けて……忙しくなるぞー!

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