第12話 隣国へ向かうべく準備を進めた

ジェマとパーティーを組んで支部長に報告した次の日。


提示された条件を満たしたので無事僕はCランク冒険者になることが出来た。


支部で登録証を更新してもらうついでに、この間の不備に対する謝礼も渡される。


袋がすごく重いので中を確認すると、ざっと10万ガラドがあったので慌てて受付の人に返してしまった。


すぐに返さないでくださいって言われて再び受け取らされたけど。


どうやらゴドフリーさんから借りたお金も差し引いてこれだけ貰えるらしい……口止め料も含まれてるから他言無用でねと釘を刺されたけど。


絶対話さないでおこう、この収入はかなり大きいし――こっちも身の危険があったから不幸中の幸いなんだけどさ。


支部を出た後すぐに宿を取って、3人でこの大金の使い道の話し合いを始めた。


結論は、それぞれ武器はあるので防具の新調・保存の効く食糧・隣国近くまで行く馬車の運賃……残りは僕の名義で『連合』に貯金することに。


貯金しておけば隣国に行っても僕名義で引き落とせるから安心だ、あんな大金持って歩くのは怖すぎるからね。


そう決まった瞬間にサラとジェマに引っ張られて買い物に出かけることに……絶対このテンションは必要じゃない物も見に行くつもりだ。


しばらく帝国を離れるからいいけどね、僕もあんまり見れてないから見ておきたいし。




――買い物に出て数時間、あたりはすっかり陽が落ちて真っ暗になっている。


僕はお風呂を入り終え、そのまま自分の部屋のベッドに大の字で寝転がった。


まさかこんな時間まで買い物をするなんて思ってなかったよ、しかもほとんどの店で買わなかったから申し訳ない気分になった。


女の子って皆こうなのだろうか、楽しそうだったからよかったけどね。


しかし、考えてみると明日帝国から出るんだよなぁ……たった3・4日でこんな風になるなんて思いもしなかったよ、数年はテヘンブルで下積みとお金稼ぎをする覚悟をしていたから余計だ。


っと……ダメダメ、明日は朝一番の便で馬車の予約をしてるから早めに寝ないと。


そう思ってランプを消し布団に潜ると、隣の部屋のドアが開く音が聞こえてきた。


この隣はサラとジェマの部屋だよね……こんな夜に何か用事があるんだろうか。


心配になって部屋から顔を出すと、ジェマが荷物を持って外に出ようとしている――まさかパーティーを組むのが嫌になって出て行こうとしているんじゃないのだろうか。


「ジェマ、どこに行くの?」


思わず声をかける、他のお客さんも泊まっているから極力小さい声で。


「っ……クレイグ、起きてたのね」


「どこに行くのさ、こんな時間にそんな荷物を持って」


「貧民街よ、別れの挨拶とあそこの住民に渡す物資を届けに行くだけ」


そうか、あの戦いの印象が強すぎて忘れてたけどジェマは貧民街の子どもの面倒を見ていたんだった。


「あそこの人達……ジェマが居なくなって大丈夫かな」


僕が不安げにポツリと呟くと、ジェマは優しく微笑んで僕の手を握った。


「ここで話すのもなんだし、貧民街まで歩きながら話そっか」


「うん……分かった」


そう言って僕はジェマの手を握り返して一緒に宿を出る、迷惑かけないようにゆっくりと音を立てないようにしながら。


ちょっと悪いことをしてるみたいでドキドキしちゃうな、見つかっても怒られるわけじゃないんだけど。




宿を出て少し歩くと、ジェマが宿で聞いた僕の疑問に答えてくれた。


「さっきのクレイグの言葉だけどね、心配しなくて大丈夫よ。

どうすれば生きれるかはしっかり教えているし――それにこの物資だけじゃなく、今までやってきたことを纏めた備忘録と仕事のツテを書いたメモも一緒に渡すから当面生活には困らないはず。

 だから安心して私はクレイグ達とパーティーを組んで帝国を出るわ、私にだって夢があるんだから」


「ジェマの夢って?」


そういえばジェマがどうして冒険者をしているのか聞いてなかった。


「世界中をこの目で見て回りたいのよ、貴族だった頃の親は他国との貿易で財を成していたから帝国には無い物を見ることが多くって。

 気づけばそういったものに憧れを持ってたのよね、だから自分の目で見て確かめたいって思ってる。

 逆に聞くけど、クレイグは冒険者になって何か叶えたいことはあるの?」


「聞いても面白くないのは間違いないけど……ジェマのも聞いちゃったし話すね。

 僕は――」


子どもの時貴族だった事、追放された事、孤児院での暮らしに冒険者になった理由……話せる範囲で話した。


《昇格》の事はまだ話してない、確かサラが帝国を出てから話すって言ってたし……まぁ、道導紋章が2つある時点で普通と違うのは分かってると思うけど。


「クレイグも苦労してたのね、尚更感情で突っ走ってケンカ売ったの反省しなきゃ……」


「気にしてないよ、信用できないのは当然だし」


「そう言ってくれると嬉しいけどね」


その後は他愛もない事やこれからの事、色々話しながら歩いていると貧民街へ到着。


広場にある集会所にジェマが用意した物を置くと、そのまま立ち去ろうとしたので慌てて止めた。


「皆に挨拶はしないの?」


「時間が時間だしやめておくわ、それに冒険者として活動しだしたら出て行くって伝えてたから。

 皆覚悟をしてくれてたと信じるわ、少し寂しいけど私は私の夢を叶えるの」


そう言って貧民街へ軽く礼をして立ち去るジェマ、僕も釣られて礼をしてジェマを追いかける。


横に並ぼうとすると、腕を伸ばして僕の行く手を止めた。


「宿に帰るまで、私の後ろを歩いてくれない?」


「いいけど……どうしたの?」


「お願い」


そう言ったジェマの声は少し震えている、月明かりに照らされ少し見えたジェマの頬には涙が流れていた。


間違いない、寂しいのをぐっとこらえてるんだ……それでも夢に向かって歩を進めるジェマがすごくかっこよく見える。


僕も父上を見返すなんて負の感情じゃなく、ちゃんとした夢を探そう――まずは外の世界を見て色々刺激を受けて勉強もしなきゃ!


その後は会話も無く宿に到着し、お互い「おやすみ」と挨拶を交わして部屋に戻る。


寝るのが少し遅くなってしまった、でもジェマと少し踏み入った話が出来たから良かったと思う。


さて、明日の為にも早く寝なきゃね……おやすみなさい。




朝。


宿で朝食を取り荷物の最終チェック。


2人とも準備はばっちりだそうだ、僕も忘れ物チェックも終わったし大丈夫かな!


「そうだ、2人ともこれベルトに付けておいて」


そう言って少し小さな袋を僕とサラに手渡すジェマ、中にはポーションや簡単な携帯食料、それに塩。


「これは?」


「緊急用の携帯ポーチよ、使わないに越したことはないけど万が一に備えてね。

 これのあるなしで生存できるかどうか変わるかもしれないし……」


過去の経験か先輩の話を聞いているからこそ準備してくれたのだろう、そこまで気が回らなかったから有難い。


「ありがとう、きちんと携帯しておくよ」


ジェマから緊急用携帯ポーチを腰に付けて、昨日予約した隣国行きの馬車に乗らせてもらう。


元々荷馬車だから乗り心地はあまり良くないらしいけど、節約する癖を今の内からつけておこうという2人の案で移動用の馬車ではなくこっちになった。


座椅子も無いから荷台にそのまま失礼して……と。


しばらくすると荷馬車が出発し徐々にテヘンブルが離れていく、さよならグラインハイド帝国。


2人も名残惜しいのかな、と思って視線をやると既に荷馬車に揺られながら眠っていた……嘘でしょ。


僕は眠くないし流れていく景色を眺めていようか、隣国ではどうやって活動しようか。


色々な事を考えていると、急に荷馬車が激しく揺れだして街道から大きく外れていく。


「何かあったの?」


「すまねぇ兄ちゃん、魔物の群れが襲ってきている!」


荷馬車の運転手の声を聞いて前を見ると、ゴブリンの群れがこちらに向かって走ってきているのが見えた。


馬はこれにびっくりしてしまったのだろう、大事になる前に討伐しないと!


「馬車を避難させて、あいつらは僕が引き受けるから!」


「わ、わかった……気を付けてくれよ!」


僕の指示通り荷馬車は離れていってくれたな……2人が降りてこないのは心配だけど荷馬車に護衛を付けてないほうが不安だし正解かな。


さて、それじゃあ僕に補助魔術を掛けて……っと、いくぞ、ゴブリン!

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