第11話 ジェマ・魔縁との模擬戦闘が終わった

「ん……ここは……?」


「あ、目が覚めた?

 ここはテヘンブルの宿屋だよ、ジェマは僕と模擬戦闘を終えた後そのまま気絶しちゃったんだ」


ジェマとの模擬戦闘から一夜明け、現在宿屋に僕とサラとジェマの3人。


僕とサラは先に目を覚ませて朝食を済ませてジェマが目を覚ますのを待っていた、そして今目を覚ましたところ。


「少しうなされていたけど休ませるのが大事だと思ってそのままにしておいたわ、悪い夢を見てたらごめん」


「それはいいけど……それより魔縁は!?」


ジェマは覚醒するなりこの辺ではあまり聞かない名を叫び、部屋をきょろきょろと見渡す。


恐らくは、これかな。


「魔縁って、このあまり見ない剣のこと?」


ジェマに剣を手渡すと、安堵の表情を浮かべながらそれを受け取り抱きしめた。


余程大切な剣なんだろう……いや、模擬戦闘の時に刀って言ってたっけ……それが武器の名前なら初めて聞く武器だけど。


「そうよ……よかった無事で。

 あら、サラに話があるみたいよ――ちょっと意識を交代させるわね」


「え、ちょっと――」


サラは慌ててジェマを止めようとするが時すでに遅し、明らかにジェマの雰囲気が変わったので魔縁と交代したのだろう。


「おい女、昨日クレイグとの模擬戦闘で手を出しやがったな?」


相変わらずジェマの声で口の悪い喋り方をするなぁ、恐らく魔縁の性別は男なんだろう――ジェマは女の子だからかなり違和感があるよ。


「何言ってるの、あんたに凄まれてから一切手も口も出してないわ」


「なんだと……それは本当か?」


「エリオンドの名に誓って本当よ、あんたに凄まれて腰を抜かして何も出来なかったんだから」


エリオンドは『教団』……いや、全世界が崇拝している唯一神の名前。


枢機卿がエリオンドと繋がって他者を見ることで神の天啓を行ってる、今まで天啓の結果が間違った事は無いからエリオンドは実在しているというのが世界の認識だ。


それはともかく、サラの言葉を聞いた魔縁は少し考えた後に訝しげに僕を見る、僕もサラも悪い事はしてないんだけどなぁ。


「クレイグ、質問がある。

 どうやって模擬戦闘の最後、補助魔術を多重付与したんだ?」


「どうって言われても、頭の中に声が響いてやれば勝てるって言われて……そういえば懐かしい声だったけどあれは誰だったんだろう?」


「声……懐かしい……そうか、そのタリスマンどこかで見たと思ったら。

 まさかお前、身内に魔力の高いやつが居たりしないか?」


魔縁が変な質問をしてくる、サラの証言が正しいなら僕の母上は賢者の称号を手にするほどだったみたいだけど。


「僕は会った事ないけど、母上はそうだったみたい……どうしたのさ」


それを聞いた魔縁は少し驚いた後ゲラゲラと笑い転げだした、本当にどうしたんだろうか。


「2つの紋章に加えてそれを持ってるたぁ思わなかった、そりゃあ強ぇし補助魔術の多重付与も出来るはずだ!

 しかし、よくそれを作れる魔力と魂の持ち主を犠牲にして帝国に捕まってねぇもんだ、冒険者になったのは雲隠れして罪から逃げるためと言ったところか!

 そこまでして力を欲している奴ぁ嫌いじゃねぇ、外道に堕ちてこそ周囲と違う強さを手に入れれるってもんだ!」


魔縁は悪い笑顔を浮かべながら恐ろしい事を口にする、一体何を言ってるのさ……?


「このタリスマンがどうしたのさ」


僕は疑問を魔縁にぶつけてみる、このタリスマンは幼いころメイドから送られた大切な物だから変な風に思われるのは癪に障るし。


「知らねえならそのまま過ごしてるといいさ。

 俺はお前がいつか仲間や世間から軽蔑されるのを楽しみにしてるとするぜ」


滅茶苦茶不穏な事を言うなぁ、このタリスマンだけでそんな事になるとは思えないけど。


でも不安だからどうしてか聞こうとすると、既に魔縁はジェマに意識を返して引っ込んでしまったみたいだ。


呼んでも反応してくれないみたいだし、僕の質問に答える気は無いのだろう。


「ふう……まったく、魔縁の話は終わったみたいね。

 取り敢えず2人には謝らないと……実力を疑ってごめんなさい」


「気にしないで、あの状況で全てを信じるなんて無理だろうから」


「物言いは確かに嫌だったけど謝ってくれるのなら私も気にしないわ。

 それに、クレイグはともかく私の実力は紋章5画だもの……その辺の冒険者よりずっと弱いからあながちジェマの言い分は間違いじゃないのよね」


サラはそう言いながら手袋を脱いで手の甲に現れている道導紋章を見せる。


「サラは傷を癒せる恢復術を使えるんでしょ?

 それだけで冒険者からは引っ張りだこなんだから画数の少なさを嘆く必要は無いわ、経験をしっかり積めばいいだけの話だし。

 そしてそれを上手くやるのが前衛の仕事、しっかり弱らせた敵をそっちに回すから」


ジェマは照れくさそうに頬を掻きながらそう言った――それって。


「……僕達とパーティーを組んでくれるってこと?」


「私も顕現した魔縁も止めれる実力者と恢復術を使える2人が前衛を探してて、それが早く帝国の外に出て活動をしたいなんて私のために用意されたかのような条件だもの。

 改めて自己紹介するわね……私はジェマ、適正は剣客で画数は12画よ。

 大体の紋章が30画前後で完成だと聞くから実力は折り返し少し手前と言った所かしら、まぁ魔縁と契約して身体能力が少し上がってるんだけどね」


「あ、あの危ない刀ってそんな効果があったんだ」


ジェマの実力は充分だと感じたのに、あんなリスクある武器を使ってるなんてどうしてだろうと思ってたんだよね。


そういう事なら納得。


「当たり前じゃない、じゃないとあんな性格最悪でリスクしか抱えてない武器を使うなんてことしないわ。

 あれは極東の国から父が仕入れたもので、魔縁の顕現はもちろん刃こぼれも一切しない妖刀と呼ばれるものなの――最初はそれだけが目当てだったのよね。

 家が没落して逃げ出す時にぶん取って来たら契約を迫られてびっくりしたのを覚えてるわ。

 何とか使いこなせてるけど私が危なくなると顕現して暴れ出すから試させてもらったのよ」


極東の国、独自の文化を築いてる島国だっけ――孤児院にあった本で読んだ事がある。


簡単な文章での紹介のみだったからあまり詳しくはないけれど、そこでは刀が主流なのかな……ちょっとかっこいい。


「ジェマの紹介はそれくらいにして、こっちの自己紹介も改めてしないとね。

 私はサラ、適正は恢復術師で画数はさっき見せた通り5画。

 他にも話しておきたいことがあるけど、それは帝国を出て隣国に入ってから伝えるわ……ちょっと帝国内では話しづらいことだし」


「僕はクレイグ、適正は附与魔術師だよ。

 画数は右手が25画で完成して、左手が3画――僕の過去も帝国を出たらサラと一緒に話すよ」


「え、右手が完成して左手……え?」


あ、こっちも話さないほうがよかったのかな……でも画数は教えてないと実力を上手く伝えれないし。


サラを見ると手で顔を覆って項垂れているので喋らないほうが良かったのだろう、だったらどうすればいいか教えてほしかったな。


これも危機感や他人と話す訓練の一環として何も言わなかったんだろうけど……。


「詳しい事は後日話すわ、いずれ『教団』からあることが発表されるからその時が一番分かりやすいかも。

 とりあえずクレイグはかなり凄い、『連合』も支部長直々に引き留めるくらいだと思ってくれればいいわ。

 飛び級の条件も支部長が出したのよ、それに唯一引っかかったのがジェマだったんだけどね」


「あのゴリラ、気にかけてくれてたのは知ってたけどこんなすごい人達を寄越すなんて思わなかったわ」


支部長になんて暴言を……ゴリラって。


ちょっと似てると思った僕も同罪なんだろうか、ジェマに言われるまで思いもしなかったから許してほしい。


「とりあえずジェマとパーティーを組んだことを支部長に報告してCランクに飛び級させてもらおう。

 まだ発表まで時間はあると言っても早めに出国出来るのに越した事はないし!」


「そうね、これからよろしく!」


「こちらこそよろしくね、ジェマ!」




その後、支部長に条件を飲むことを伝えにいったら「誰がゴリラだ」と小突かれてしまった。


一体どこで誰が話を聞いてて支部長に伝えてるんだろう……もう悪口は言わないようにしないと。

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