第10話 ジェマとの模擬戦闘がとんでもないことになった
「はぁっ……はぁっ……!」
「もう一本どころか何本も取られてる場面があったわよ、まだ続けるの?」
ジェマとの模擬戦闘が始まって数十分が経っただろうか。
ゴドフリーさんよりも打ち込みの威力が弱くて触手だらけの異形の魔物より遅いジェマに負ける要素は無かった、補助魔術抜きなら絶対負けるだろうけど。
「なんでよ……なんで届かないのよ……!」
「補助魔術抜きなら負けてるだろうけど、これも僕の力の一つだからね。
そのおかげでCランクに飛び級させてもらえるのもあるし、仲間になればジェマにだってこの補助魔術を掛けて活躍させることが出来る――だから僕達の仲間になってよ」
見慣れない剣を地面に突き立て、それにもたれかかりながら肩で息をするジェマ……誰がどう見たってもう限界だしジェマの負けだ。
周りの人達もそれが分かっているんだろうね、慰めや励ましの言葉がジェマに送られている。
「まだよ……こいつを解放するのは私の実力じゃないから不本意だけど……これを抑えれないならいずれ大きなトラブルに巻き込まれる可能性があるわ。
私が没落貴族になったキッカケの力を見せてあげる……止めてみせてよ!」
没落貴族になったキッカケって……皇太子殿下との御前試合で圧倒してしまったっていうアレだろうか。
ここで昔の記憶をふと思い出す――兄上の訓練について行かせてもらった時に僕は皇太子殿下に会った事がある。
皇太子殿下はその場にいる誰よりも強かった、将来剣聖を有望視されていた兄上よりも。
そんな皇太子殿下を圧倒する力は今のジェマに無い――ならジェマの言ってることは……!
「みんな逃げろー!」
「鬼だ、鬼が出るぞー!」
試合を見ていた人達は不吉な事を叫びながら急いでこの場を離れていく、腰を抜かせてしまい動けなくなってる人までいるくらいだ。
皆はジェマの力を知ってるんだろう、鬼と言われても僕にはどんなものか想像できない。
「クレイグ、気づけなくてごめん!
とりあえずジェマから離れて、あの剣は妖の力が宿っているわ……あの子それを解放しようとしてる!」
「なんだって……分かった!」
妖の力がある武具、それは一見呪いにも見えるが似て非なるもの。
その武具に力と意思が宿り持ち主に寄生・顕現すると言われているのが妖の力がある武具だっていうのを本で読んだことがある……まさかジェマがそんなものを持ってるなんて!
でもそれなら皇太子殿下を圧倒できたのも納得だ。
「クレイグ、早く!」
サラの叫び声でハッとする、考え事をしているのは今じゃない!
ジェマから距離を取ろうとすると、すぐ背後から声が聞こえてきた。
「ありがとよ小僧、こいつを追い込んでくれて。
おかげで顕現出来た、ジェマの望み通り殺さないでおいてやるが……腕や足の1本失くすのは覚悟しろよぉ!」
「なっ……!」
ジェマから発せられているのに禍々しく聞こえる声、それを聞いた僕は慌てて背後に向き直り短剣を構えた。
構えた所には剣が振り下ろされ間一髪でそれを防ぐことに成功……さっきまでのジェマと明らかにスピードも威力も桁違いだ。
下手するとゴドフリーさんや異形の魔物より速くて強いんじゃないだろうか、これに勝たなきゃダメなの……?
それに、声だけでなく禍々しいオーラを纏っているうえ目も紅く変化している……恐らく何かがジェマに憑りついているんだろう。
「不意打ちを防ぐたぁ、やるじゃねぇか小僧。
俄然楽しくなってきやがった、簡単にくたばるんじゃねぇぞ!」
ジェマに憑りついた何かは叫びながらサラに追い打ちをかけてくる、速いし重い……!
僕も必死に応戦しているけど、防ぐだけで精いっぱいだ……あまりの猛追撃に攻め入る隙が見当たらない。
「久々呼び出されるくらいの強者だってのに防御一辺倒かよ!?
さっさと攻めてこい、刀の中から見てたが自慢の速さはどうしたぁ!?」
「そっちが早すぎるんじゃないか……!」
「はんっ、まだこっちは本気じゃないぞ!?」
その言葉通り、さらに追撃の速度と打ち込みの強さが上がる……これ以上は本当に防ぎようがないかもしれない……!
「クレイグッ!」
「おい、そこの女――手出しすんじゃねぇぞ」
心配してか僕の名前を叫ぶサラに、ありったけの怒気を孕めて威嚇する禍々しいジェマ……いや、あれはジェマじゃなくて妖か。
それに圧倒されたサラは顔を真っ青にして体を震わせている……相当怖いんだろう。
僕だって怖い、さっさと降参して逃げ出してしまいたい――でも、それは悔しい。
サラの小言を聞いてた時はそうでもなかったけど、だんだんと悔しいって気持ちが出てきてたんだよね。
それにこれを止めなければトラブルに巻き込まれるって言ってた、今回は自分の意思で呼び出したみたいだけどそうじゃない場合もあるのかもしれない。
こんなのが好き勝手暴れるのは非常にまずい、だからジェマは誰とも組むことが出来なかったのか。
「小僧、邪魔が入ったな――仕切り直しだ!」
「くっ!」
息つく暇もなく攻めを続けてくる妖、少しは休ませてくれたっていいのに!
覚悟を決めてジェマの体を斬りつけるべきかもしれないけど、やっぱり女の子にケガをさせるなんて極力避けないと。
それにサラは少々の怪我なら気にしないでって言ってた……この戦いでの怪我は間違いなく深手だろうし恢復しきれないかもしれない。
どうにか……どうにかしてコイツを負かす活路を見出さないと……!
妖の攻撃を防ぎ続けてどれくらい時間が経っただろう。
5分、10分、20分――それ以上かもしれないし、そんなに時間は経ってないのかもしれない。
活路を見出せず僕の体力を消耗するだけの時間だった、もうこれ以上は……という場面で、妖は僕から少し距離を取る。
一体どうしたのだろう、こっちはへとへとだけど……あっちは元気そうなのに。
「ちっ……何分も俺の攻撃を防ぎきりやがって。
クレイグっつったか、お前……ジェマの体を気遣って攻めて来れてないクチだろう、そんなお前に朗報だ――次の一撃で仕舞いにするぞ」
「えっ?」
まさかの提案に驚いて変な声を出してしまう。
一体どうしてそんな提案をしてくるのか、あのまま攻めていれば勝てたかもしれないのに。
「これ以上はジェマの体が持たねぇんだよ」
何故だろうと考えていたら、妖がその考えの答えを提示してくれた。
完全に悪だと思ってたけど、ジェマの体を気遣える理性はあるみたいで一安心。
いや、今の口ぶりだとジェマの限界を無視して体を酷使していたってことじゃないか、やっぱり悪なんじゃない?
「間抜けな顔してんじゃねぇよ――構えろ、さっさと終わらせるぞ」
そう言った妖は静かに剣を鞘に納める……勝負を放棄したのかと思ったが、明らかに真剣な表情をしているのでそうではないのだろう。
先ほどまでの怒涛の攻めと打って変わって、まるで漣のように静かになった妖。
凛とした空気が妖と僕の間に張り詰める、これは最後にとんでもない隠し玉のような技が放たれる気がするぞ……!
速さも重さもさっきまでで目一杯の対応をしたのに、それ以上となると無事じゃ済まないかもしれない。
どうしようかと混乱していると、サラの叫び声が聞こえて来た。
「クレイグッ、逃げてっ!」
戦ってないサラにも分かるくらいの空気なんだろう、そうだ逃げないと――。
そう思った時、頭の中に懐かしい声が響いてきた。
『
その声を聞いて子どもの頃を思い出したがそれどころじゃない、補助魔術は既に自分にかけてるから効果は無いと思うけど一か八かだ!
僕はもう一度補助魔術を自分に掛けて妖の攻撃に備える、防ぎきってやるぞ……!
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