第9話 ジェマに出会えたので勧誘活動をしてみた

貧民街でジェマとたまたま出会え、場所を移して勧誘の話を振ってみる。


出来れば周りに人が居ない所を希望すると、ジェマの家に誘われたのでお邪魔させてもらった。


「僕はクレイグ、こっちはサラって言うんだ。

『連合』ユニオン支部で仲間の募集をかけてるのを見たけど僕たちはまだ低ランクで、前衛で誘えるのがジェマさんしか居なかったんだ……よければ仲間になってほしいんだけど、どうかな?」


初めてでわかんないけど、こんな感じでいいのかと不安になりサラに目をやる――表情を見る限りダメみたいだ。


なら最初からしてくれれば、と思ったけどこれも経験だしやったことに意味があると思おう。


「さん付けなんて要らないわ、久しくそんな呼び方されてないからむずがゆいし。

それはそれとして、誘ってもらえるのは有難いけど私にメリットはあるの?

 低ランクってことはCランク未満ってことよね、将来性があるか帝国の外に出れる人じゃないと組みたくないわよ?

 私はDランクだから、個人で受けれる仕事は探せばあるし」


「それなら心配無いわ、ジェマが私達の仲間になればクレイグはCランクになれる。

 将来性もあるしCランクになり次第帝国をすぐに発つ事情もあるわよ、ジェマにとってこれ以上ない逸材じゃない?」


サラがしめた、という顔をしてジェマに僕たちの事情を伝える。


情報は大事にと言ったけどそんなに話してしまって大丈夫なのだろうか、もしジェマが断って誰かに僕らの事を言いふらしたら面倒そうだけど……と心配してジェマに視線をやると目を爛々と光らせて僕たちを見るジェマ。


サラ、すごいね。


「っと……サラの話が本当なら本当にこれ以上ない条件だわ。

 でも、私を仲間にしたらCランクになるってどういう事よ、そんな事例聞いたことないんだけど」


ごもっともな疑問だ、僕だって未だ信じれないくらいだし。


とりあえず説明をするだけしよう、信じれなかったら支部長・ゴドフリーさん・エレーヌさんの誰かに証人になってもらえばいいはず。




「――と、いう事なんだ」


「え、何一つ理解も信用も出来ないわよ?

 もし本当だとしても、昨日冒険者になったのに支部長のお墨付きで飛び級Cランクの可能性って……どれだけお金を積めばそんな事が出来るのかしら」


全く信用してもらえない、というか事情を話したら僕らを見るジェマの目が明らかに冷たくなってる。


仕方ないかもしれないけど結構傷つくなぁ……。


「あら、私はともかくクレイグの実力は本物よ?

 疑うなら手合わせして試してみたらいいんじゃないかしら?」


サラがジェマを挑発するように言葉を返す、そんなけんか腰じゃなくてもっと平和に話し合いたいのに。


それよりサラの実力も凄いと思うんだけどなぁ……僕だけ持ち上げられて少し恥ずかしい。


でも認めてくれるのは素直に嬉しい、孤児院で鍛錬を頑張った甲斐があったよ。


「そうね……試させてもらおうかしら。

 それが一番手っ取り早いし、事情は聞いてると思うけど実力だけならCランク以上だと思ってるから手を抜かないほうがいいわよ?」


ジェマはサラの挑発に乗って壁に掛けてあった見慣れない形の剣を手に取り外に出る、あれがサラの武器なのだろうか。


他の剣より薄刃だけど……っていうより真剣で手合わせするの!?


「待って待って、模擬戦闘なら真剣じゃなくても――」


慌てて追いかけジェマに声を掛ける、危ないから模造の剣とかでやるよう話をしなきゃ。


「安心して、殺したりしないわよ。

 怪我はするかもしれないけど……Cランクになれる実力者なら大丈夫じゃないの?

 それとも怖くなったかしら?」


サラが冷ややかな笑みを浮かべて僕を煽ってくる、ゴドフリーさんとの試合より怖くはないけどさ……。


「何言ってるの、クレイグはジェマの事を心配してるのよ。

 『連合』ユニオンの難事解決班の人と試合して、クレイグは勝ってるんだから。」


「はっ、嘘をつくにしてももっとまともな嘘をつきなさいよ。

 難事解決班は少なくともAランク以上の実力者なの、初心者はそんな事も知らなかったかしら?」


ジェマは完全に僕らを信用してない、模擬戦闘で勝てば少しは信用してくれるのかな。


聞いてみよう、もし信用してくれないなら戦う意味も無いし。


「もし僕がジェマに勝ったら信用してくれる?」


「そうね、もし勝てたら信用するわ。

 でも私と接戦するようじゃ信用しないから、難事解決班に勝ったなんて言わなければ勝つだけで信用してあげたけどね」


そう言いながら貧民街の広場を目指して歩くジェマ、勝つしかないかぁ。


見たことない武器だし、どうやったら信用出来る勝ち方が出来るか少し様子を見ないと……ゴドフリーさんとの試合で相手の動きと戦い方を観察する大切さを教わったし。


なんて考え事をしていると、サラが小声で僕に耳打ちしてきた。


「クレイグ、本気でジェマをのしちゃいなさい。

 補助魔術も使えるだけ使って、ぐうの音も出ないくらい完璧に勝っちゃえばこっちのものよ」


無茶ではないけど、少しはジェマの事を心配してあげてほしい。


というかサラの声に少し怒気が孕んでいるように思うけど……どうしたのかな。


「サラ、怒ってる?」


「当たり前でしょ、あれだけボロクソに言われてるんだし。

 こっちは嘘をついてないのに――それよりクレイグは悔しくないの?」


サラの言い方も悪い気もするよ、という返事が出そうになったけど飲み込んだ。


そんなこと言えばもっと怒りそうだし。


「悔しくはないよ、信用してもらえないのが普通だろうし。

 それよりどうやったら怪我をさせないように勝てるか考えないと、相手は女の子だからさ」


「はぁぁ……ほんっと優しすぎるはねクレイグは。

 少々の怪我は気にしないでいいわよ、これでも私恢復術師なんだから」


そういえばそうだった、サラが使う魔術って<魔氷>しか見てないからすっかり忘れてたよ。


それからも小声で愚痴を言ってくるのを聞いていると、広場に到着。


周りの人達はサラが武器を持ってるのに気付いて結構な距離を取る、「サラ頑張れー!」って声援まで聞こえてきた。


見世物じゃないんだけどなぁ。


「さて、負けた時の言い訳の相談は終わったかしら?」


振り返りながら煽るような口調で話しかけてくるジェマ、さっきの小言聞こえてたんだ……。


「そもそもそんなのはしてないよ、勝って信用してもらうって話と後はサラの愚痴を聞いてただけ」


僕がジェマの言葉に返事をすると、サラが「そんな正直に言わないでいいから!」と叫んだ。


正直に言えば煽りに対抗出来ると思ったんだけど、どうも間違ったみたい。


「まぁどうでもいいわ――それじゃ模擬戦闘を冠したあんた達の嘘暴きをはじめましょうか!」


ジェマはそう言いながらいきなり剣を抜いて斬りかかってきた、僕は慌てて速度増加スピードアップと自分に掛けて対応。


「なっ……!?」


ほぼ不意打ちの一撃を防がれたのに驚くジェマ、殺さないって言ってたけど下手したら死ぬ勢いだったよ?


でも……速いだけでゴドフリーさんのほうが強い!


そうと分かれば行けそうだ、この模擬戦闘に勝ってジェマからの信用を勝ち取らないと……!

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