第8話 支部長の条件を満たすため行動を開始した
美味しい食事を
帰って宿を探しに行こうとしたら、エレーヌさんが宿を確保してくれてるとの事なので有難く甘えることに。
サラはその事を聞いてたみたいなんだけど、すっかり忘れてたそうだ……舌をペロっと出して誤魔化した仕草が可愛かったから良し。
でもあのレストランの3階以降が宿だとは思ってなかったけどね!
何このふかふかベッド、マクナルティ家に居た時でもこんなふかふかなシーツ使ってなかったよ!?
おかげでぐっすり眠れた、疲れと満腹だったのもあると思うけれど。
ベッドから起き上がろうとすると、ふにっと柔らかい感触が手に。
なんだろう、ベッドとは違うけど……そう思って手を見るとサラの胸を握ってしまっていた。
「……うわぁぁっ!?」
一瞬目の前の光景が理解出来なかったけど、理解した瞬間に慌てて飛びのく。
なんで僕のベッドで寝てるのさ、それになんで裸なの!?
「んぅ……どうしたのクレイグ……」
僕の声で目が覚めたのか、目をこすりながら体を起こすサラ。
その状態でその姿勢にはならないといいと思うな、僕のためにも。
「なんて顔してる……の……」
自分の体と周りに目をやって状況を理解したのか、サラは静かになった。
大丈夫だろうか心配になり、目を覆っていた手に少し隙間を作ってそこからサラを覗き込む。
顔は真っ赤でわなわなと震えてた。
これはダメかもしれない、でも僕悪くないからね?
「クレイグのえっちーーー!」
「ここは僕の部屋だよーー!?」
物凄い理不尽な怒りを向けられ慌てて部屋を出る、ちらっと見えたけど寝間着は床に落ちてたから裸で部屋を出る事にはならないだろう。
僕は部屋を出たついでに洗面所で顔を洗いに向かう。
この後はサラから昨日の支部長の提案を蹴った理由を聞いて、今後の話し合いをしないと。
父上が僕を捜索するまで時間は無いんだし、少しでも早く動かないとね。
「クレイグ、さっきはごめん……」
「いいよ、気づかなかった僕も悪いし」
着替えを終えて朝食を取りに外の市場へ来ている、あの料理店で食べれるかと思ったけど朝食は別料金なので諦めた。
「それよりさ、昨日なんで支部長の提案を断ったの?」
「支部長も言ってたけど、クレイグは警戒心が少し足りないわよ。
あんな提案をするという事は、
そう言われても、今までそんな必要が無かったから一朝一夕には身につかないよ……。
でも必要な事なんだろうし、出来ない事を出来ないで終わらせず意識して生活していかないとね。
「ごめん、これから少しずつ気を付けるよ。
それより、サラが考える
「まずはクレイグを
初日でCランクに飛び級出来る実力者よ、そりゃ渡したくないでしょう。
二つ目は前衛職を見つけろってやつ、あれはまず私達の仲間なってくれそうな人が問題を抱えてると見て間違いないわ」
「どうしてそこまで言い切れるのさ?」
「もし本当に心配なら助言で済む話よ、それをわざわざ条件にするってことはこっちの足元を見てるわ。
実際前衛職が居ないのは不安だから仲間に入れたいし……まぁ話してても埒が明かないから食べ終わったら
サラの考えを聞いてすごく感心する、あの間にそこまで考え付くんだなぁ。
これはもう警戒心というより単純に頭の出来の問題じゃないのかな、僕そこまで賢くないし。
「何を呆けてるの、さっさと食べて
「あ、うん!」
考えながら食べてたら思ったよりペースが遅くなってしまってたみたい。
僕は慌てて朝食を掻きこんでお店を出ようとしてたサラを追いかける、慌てた拍子で喉に詰まらそうになったけど何とか飲み込めた。
危ない危ない、こんなところで恥ずかしい姿見せたくないからね。
「あんたらに紹介出来る前衛はコイツだけだなぁ」
食事を終えて
どうやら他はCランク以上じゃないと組んでくれないらしい、グラインハイド帝国は武力の強い国だから冒険者も実力者が集まりやすいそうだ。
「少し聞きたいんですけど、この人はなぜ低ランクで募集を掛けてるんですか?」
サラは僕らでも勧誘できる唯一の募集を見て受付の人に質問した。
「報告を聞く限り実力はCランク以上なんだが、こいつは元貴族でな。
過去に皇太子殿下との御前試合で圧倒してしまったのがマズかったらしい、それが原因で実家は没落……こいつは家を追放されて冒険者でギリギリ食いつないでるってわけだ。
だがこの国で冒険者をするなら貴族とのパイプも大事だからな、わざわざ嫌われているのが分かってる奴を連れて行かないってのが現実だよ」
「なるほど……教えていただきありがとうございました!
この人と話がしたいんですが、どこに行けば会えますか?」
サラは受付のおじさんの話を聞いて笑顔で紹介してくれと言った。
人物に問題があるなら考えたけど、境遇の問題なら大丈夫だと判断したんだと思う。
事実相談している時より表情は明るくなったし、この国に根を張って冒険者をするつもりは無いからデメリットも関係ない。
「おいおい、俺の話を聞いてたか?」
「聞いてました、そのうえでこの人を勧誘しようと思ってます」
「そうか、なら何も言わないでおこう。
この募集がかかっている奴……ジェマに会うにはテヘンブルの貧民街へ行くといい。
そこの子ども達の面倒を見ているのがジェマだ」
え、子どもの面倒を見てるって――。
「ありがとうございました!」
受付の人にお礼を言うと、サラは僕の手を引っ張って
「サラ、ジェマって人を勧誘するの?」
「そうだけど?」
「確かに僕たちはその人を勧誘すればCランクに上がって帝国の外へ自由に行き来出来るようになる、けど貧民街の子どもはどうなるの……?」
僕がサラへ質問を投げかけると、少し考えてあっけらかんとした声で返事をした。
「それを考えるのはジェマって人と貧民街の大人でしょ?
私達は私達の身の安全と生活を考えないと――クレイグ、優しいのは良い事だけどそれで自分の人生が滅茶苦茶になったら辛いのは自分だからね?
他人の事を蔑ろにしろとは言わない、でも見切りをつけて自分を守るのも大事なのよ」
サラからの反論に何も言い返せず、ぐっと口を噤んでサラに引っ張られながらついていく。
せめて貧民街の人に負担にならないよう策を考えておかないと、いきなり来た新人冒険者がジェマって人を連れて行ったら怒られるかもしれないし。
「ここが貧民街、初めて来たけど相当荒れてるわね……」
「そうだね……こんな環境に人が住んでるなんて……」
僕とサラは貧民街の実情を見て愕然としてしまった、街より少しボロくなった程度だろうと思ってたけどそんなものじゃない。
少し強く叩いたり風が吹いたりしたら倒れそうな小屋が乱雑に立ち並び、無気力の大人が座り込んでいる。
子どもはまだ元気なのか、どこかから洗濯や靴磨きの仕事を取ってきてそれを広場のような場所でこなしている――こんな状況で指導者を勧誘して本当に大丈夫なのかな。
「あら、見ない顔ね――あなた達は?」
貧民街の状況を茫然と眺めていると、後ろから女の人の声が聞こえた。
振り返ると金髪のセミロングに少しウェーブがかかった女性が立っている、周りの住民とは明らかに雰囲気が違う。
顔は……目が前髪で隠れてるからあまり見えないけど恐らく美人じゃないかな。
「私はサラ、隣はクレイグ……2人とも冒険者よ。
ジェマって人を勧誘しに来たのだけど、どこにいるか分かるかしら?」
「どこにいるも何も、私がジェマよ」
やっぱりそうだった、事情を聞いて可能なら勧誘させてもらおう。
ダメだった時は……何とかするしかないよね。
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