第7話 『連合』支部長との対談

エレーヌさんに急かされながら道案内どおりに進んだ場所に到着。


そこはグラインハイド帝国最高と噂の店、首都から貴族……それどころか国王すらお忍びで食事に来ると言われる料理店だ。


「え、こんな高級店を押さえたんですか……?」


あまりの衝撃に少し震えながらエレーヌさんに質問してしまう。


僕も元貴族だけど、こんないいお店利用した覚えはないよ……父上や兄上ならもしかしたら使ってるかもしれないけど。


「ここは『連合』ユニオンの直営店だから確実に経費で落とせるのよ。

 でも、本当に重要な話し合いでしか利用させてもらえないし支部長の許可が大事だから乱用は出来ないけどね。

 今回ここが使えたのは、支部長が2つ返事でここに連れて来いってことだったから……ほら、奥の部屋に行くわよ」


まさかの事実に「はぁ……」という間抜けな返事しか出来ないままエレーヌさんに引っ張られて奥の部屋に連れて行かれる。


「サラはこんなところ来たことある?」


「首都でなら多少ってとこかしら……でもここは利用したことないわよ。

 だって、首都の高級店と比べても味も値段も頭一つ抜けてるらしいから」


『教団』カルトの枢機卿の娘であるサラですら来たことないって……ここってどれだけ高級なの!?


経費で落ちるって言ってたけど、僕らにも一部負担とかさせたりしないよね?


不安を胸に抱きながらエレーヌさんに引っ張られていると、ドアをノックする音が聞こえた。


どうやら部屋に到着したみたい。


「支部長、例の2人を連れてきました」


「おゥ、入れ」


ドアの向こうから男性のしゃがれ声で返事が聞こえてくる、あの声の主が支部長なんだろう。


ちょっと怖いな……いい人だといいんだけど。


エレーヌさんがドアを開けると、筋骨隆々のおじさんとゴドフリーさんが席についているのが見えた。


そしてテーブルにはどう見ても美味しそうなステーキ。


自己紹介をしようと思ってたけど、そのステーキを見た僕とサラは同時にググゥゥゥ……と部屋中に聞こえるくらいお腹を鳴らす。


恥ずかしい……。


「はっはっ、話よりまずは腹ごしらえみたいだな。

 お前らの分のステーキもすぐに来る、足りねェならそのメニューを見て好きなのを頼め。

 2人とも15歳だろ、若ェんだから遠慮なんかするんじゃねェぞ」


「「あ、ありがとうございます!」」


僕とサラはハモって支部長にお礼を言う、本当にお腹が空いてたからね。


支部長の言う通り、程なくしてステーキが部屋に運ばれたので挨拶の前に食事をすることになった。


僕がナイフで一口サイズに切っていると、僕以外の全員がステーキにフォークを突き刺してそのまま食らいついている。


マナーとかは気にしないんだろうか。


というかサラもそうしてるし、年頃の女の子の食べっぷりじゃないと思うんだけど。


「ふれいふ、ほんはひあひあはへへへはひふほ?」


「飲み込んでから喋ってよ、何言ってるか分かんない」


「はぁひ」


だから飲み込んでからって……あぁもうソースが垂れてきてる。


サラの口元をナプキンで拭っていると、支部長が僕に話しかけてきた。


「すっかり女の世話係じゃねェか、クレイグ・マクナルティ。

 Cランクの冒険者に飛び級したいらしいが、そんなんで務まるのかァ?」


「普段は世話になってるので、これくらいは……って、え?

 今、なんて僕の事を呼びました……?」


僕の聞き間違いだろうか、ファミリーネームまで含めて呼ばれた気がするんだけど。


『連合』ユニオンの登録にはクレイグという名前しか書いてないから、分かるはずないのに。


その証拠にゴドフリーさんとエレーヌさんも僕を見て固まってる。


「クレイグ・マクナルティって呼んだんだが、聞こえなかったか?」


やっぱり、聞き間違いじゃなかった……。


食事に夢中のサラも気づいたのか、少し警戒した目で支部長を見ている。


「どうしてファミリーネームを知ってるんですか?」


「気になる事は調べるのが当たり前だろ、俺は他の奴よりそれが早く出来る人材がいるってだけだ。

 クレイグ・マクナルティは俺が気になるに値する人材だったって事だよ、誇っていいぞ」


とんでもない人材を抱えている、流石は『連合』ユニオン支部長……いったいいつから僕に目を付けて調べてたんだろう。


それに誇っていいのは確かかもしれない、普通なら支部長が駆け出し冒険者を気に掛けるなんて有り得ないだろうし。


しかし、僕のファミリーネームが分かるくらい調べてるって……どれくらい調べたんだろうか。


「調べ終わってるって……まさか、僕の過去も?」


「粗方はな――だが、俺の見解ではマクナルティ家との絶縁についてお前が悪い要素は無い。

 武への妄信と権力が失墜する恐怖、そして我が子を信じてやれなかったザック・マクナルティ卿の落ち度だろう。

 そしてお前は武に関してかなりの実力ときたもんだ、ザック・マクナルティ卿はいずれ糾弾されるだろうなァ……なにせ冒険者になった初日にCランクになれる人材を手放したんだ」


粗方なんて言ってるけど、多分全部調べ上げてるよねこれ……この人とだけは敵対しないようにしないと。


武でも情報でも勝てる気がしないよ。


「そう、支部長の言う通りクレイグ君の武は大したものだ。

 とても駆け出し冒険者のそれとは思えない、一体どこでそんな訓練を?」


「あァ、ゴドフリーは知らねェよな……こいつの師は元Sランク冒険者のゲイリーだ。

 支部前にある武具屋の店長ともう一人の3人でパーティーを組んでたんだが、その一人が事故で死んじまってそのまま解散したんだよ。

 まさかその後は首都の孤児院で先生をしてるなんて思いもしなかったがな」


「え、えぇ!?

 先生が元Sランク冒険者だったなんて……嘘でしょ!?」


支部長の言葉を信じることが出来ず大声をあげてしまう。


それもそのはず、僕は孤児院に行ってからずっと冒険者になるって言ってたんだ……それを先生は聞いた事は何でも教えてくれた。


先生に冒険者の心得があったなら、それもしっかり教えてくれるはず。


なのに先生は冒険者については何も教えてくれなかった、ただ短剣の訓練はしっかりしてくれたけど。


「顔を見りゃァ何を考えてるが分かるが、ゲイリーなりに考えがあったんだろうよ。

 だからこそお前の短剣を扱う技術は上がったんだろうが、その事でゲイリーを悪く思うのはやっちゃァいけねェぞ?」


支部長にそう言われてハッとする、確かにそうだ。


何より冒険者をやってたなんて聞いてたら、訓練を疎かにしてずっと質問攻めをしてただろう……そういう所を見抜かれてたのかな。


「ごめんなさい……」


「わかりゃァいいんだよ、気にすんな。

 それよりサラ・ラドクリフ……まさか『教団』カルトの枢機卿の娘が『連合』ユニオンに入るなんてな」


「流石に私の事も調べてるんですね、ですが『教団』カルトから『連合』ユニオンに対して何かをする指示はありませんので安心してください。

 クレイグと一緒に居るのも『連合』ユニオンに所属したのも私の一存です、クレイグの成長測量及びその報告は指示を受けてますけど」


「なるほど、道導の紋章の複数持ちだからか。

 それは『連合』ユニオンとしても興味あるが……その手の研究は『教団』のほうが上手だから任せるとするか」


支部長とサラの会話についていけない、『連合』ユニオン『教団』カルトのやり取りを15歳でしてるサラが凄すぎる……。


それと僕の成長測量と報告に関しては聞いてないからね、恥ずかしいこと書かれてたら嫌だから後で見せてもらわないと。


「それより支部長、僕はCランクに上がれるんですか?」


「おォ、上げる許可はしてやる。

 ただし条件が二つある、それを飲めるなら明日の朝一番にCランクになれるよう手配してやるが」


「その条件はなんでしょう?」


「一つ、グラインハイド帝国に再度籍を置かない。

 二つ、テヘンブルから出るまでにちゃんとした前衛を1人仲間に加える。

 どうだ、やれるか?」


2つ目は僕も必要性を感じてたしいいけど、1つ目の意図が分からない……戻るつもりもないから条件は飲めるんだけど。


「わかりま……もっごごご!」


返事をしようとしたらサラに口を塞がれる、何するのさ!


「Cランクに上げる約束、期限はいつまででしょう?」


「条件が飲めるならいつでもいい――だが荒事が起きる前にしてくれると助かるな。

 しかしクレイグ・マクナルティ、もう少しサラ・ラドクリフの警戒心を見習えよ?」


え、警戒心って……?


「とりあえず今日の話はこれくらいだ、後は好き勝手飲み食いするぞォ!

 お前ら全員俺に付き合えェ!」


考えようとした途端、支部長が物凄い魅力的な提案をして思考を遮ってくる。


今日中に返事しなくてもいいみたいだし、今はそれに流されよう!


ここで好きに飲み食いなんて一生出来ないかもしれないからね!


ステーキもいつの間にか無くなってるくらい美味しいもん、他のも気になってたんだよね。


「ここからここまで!」


サラがメニューを指差して凄いことを言い放つ、嘘でしょ?


「いい食べっぷりだなサラ・ラドクリフ!

 いいぞどんどん食え!」


しかもいいんだ、お金大丈夫なのかな。


怖いけど気にしないでおこう、今は限界までここの食事を楽しまなきゃ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る