第6話 武具屋で装備の新調、そして支部長のところへ
洞窟のトラブル、ゴドフリーさんとの試合が終わってテヘンブルへ帰って来た。
どうやら試合の間にサラとエレーヌさんが話をしてて、ご飯を奢ってくれる事になっているみたい。
依頼を受けてテヘンブルを発ってから結構時間が経ってるし、色んなことがありすぎてお腹がペコペコだから本当に有難いよ。
「さて、飯の前に……エレーヌ、まずは『連合』《ユニオン》支部でいいな?」
「もう食べながらでいいんじゃないかしら。
空腹だと正常な判断は空腹じゃ出来ないし、記憶は少しでも鮮明な状態が望ましいから早ければ早いほどいいし。
これらを満たせるのは食べながら支部長と会うしかないでしょ、あの人なら快諾すると思うわ」
「確かにそうか――ではそのように報告しにいくぞ。
2人は支部の近くで時間を潰しておくといい……オススメは支部前にある武具屋だ。
クレイグ君、君の腕は相当な物だが短剣の質が悪すぎる――これから先も使っていくつもりなら武器の質にもこだわるべきだ、そこの武具屋ならいい物が見つかるだろう」
「はい――ありがとうございます!」
あの試合は確かにゴドフリーさんに勝てたけど、あの人はそもそも勝つつもりなんてなかったんじゃないかって終わってから気づいたんだよね。
途中で色々教えてくれながら僕の攻撃を受けてたし、攻撃を当てる機会だって多かったはず。
孤児院の先生とは短剣同士の試合だったから、その時教えてもらった事だけじゃ対応しきれなかったしすごくタメになった。
「おっと、忘れるところだった」
「どうしたんですか?」
ゴドフリーさんが支部へ向かおうとする直前、くるっと振り返って僕に重たい袋を渡してきた。
「君は今日冒険者になったんだろう?
さっき教えた武具屋にある武器は質がいいものの値が張るものが多いんだ――気に入るものがあればこれで買うといい」
そう言って重めの袋を渡してきたゴドフリーさん、中を確認すると全部お金……目算だけど10000ガラドはあるんじゃないだろうか。
「こんなにもらえませんよ!?」
「あげるわけじゃない、ただ私の手持ちがそれくらいしかないだけだ。
中に入ってる金額は覚えている、もし使ったなら
なるほど、それなら有難く借りれるかな。
実際この短剣じゃ先が思いやられるのは事実だし、依頼をこなした最初の報酬で買い替えるつもりだったからね。
そこそこの質でいいやと思ってたけど、10000ガラドあればかなりいい物が買えるんじゃないかな!
僕はウキウキで武具屋に向かうと、サラが僕に耳打ちしてきた。
「全部使っちゃダメよ、補償と賠償がそれだけあるとは限らないんだから」
その考えは完全に抜け落ちていた、ありがとうサラ。
サラと話し合った結果、ゴドフリーさんとエレーヌさんが呼びに来るまで武具屋で時間を潰す事に。
お店の人に短剣を見せてもらえないかとお願いしたら、豪華な宝石があしらわれている短剣ばかり出された。
質は悪くないんだろうけど、戦闘で使うのに宝石があっても意味が無いしなぁ……これが魔石なら話は変わるんだけど。
だけどその中に1つ、無骨だけどかなりしっかりしてそうな短剣が目に入る。
手に持ってみると重さもちょうどいいし手に馴染む――まるで僕のためにあるかのような短剣だと錯覚するくらい。
「すみません、これはいくらですか?」
お店の人に短剣を見せて聞いてみると、驚いた表情を浮かべて目を見開いている。
どうしたんだろう。
「坊主、どうしてそれを選んだ?」
「え、質も良さそうですし手に馴染んだので……ダメでしたか?」
幼いころマクナルティ家に居たおかげで刀剣を見る機会は多かったからね、父上からも質の見分け方を教え込まれていたし。
そう思うとマクナルティ家で学んだことって結構役に立ってるなぁ、追い出した事以外は父上に感謝しないと。
許したわけじゃないけどね。
「そいつは他の短剣とは別、完全な実戦用だ――後は儀式用だったり貴族の護身用だったりだな。
俺も昔は世界を飛び回って活躍してたんだが、相棒が引退して俺も一緒に引退……そしてこの店を構えたんだ。
その相棒が短剣使いでな、そいつがまた帰ってくるかと思って常に最高品質の短剣を作っていたんだよ」
「じゃあ売り物じゃないんですね、残念です」
そんな話を聞いたうえで売ってくれなんて言えない、他のは宝石分値が張りそうだけど刃と金属の質が悪いワケじゃないからいいやつを選ばせてもらおう。
「いいよ、売ろうじゃないか」
「相棒さんを待ってるんじゃないの?」
お店の人の言葉に驚いてしまい、素の自分で返事をしてしまう。
身近な人でもないのに話し言葉で話してしまうなんて恥ずかしい……後で謝らないと。
「もう何十年も前の話さ、俺ももう年だし冒険に出れないくらい体もなまっている。
それに坊主の短剣の持ち方は相棒にそっくりだ――懐かしい気持ちにさせてくれたし、もし必要になればまた作ればいい。
3500ガラドでどうだ、その質の短剣でこの値段はテヘンブルどころか首都を探してもないと断言するぞ」
僕は値段を聞いて即決、正直10000ガラド出してもいいなって思える出来だったから。
お店の人とその相棒さんの気持ちも篭ってるだろうし、大事に使わせてもらわないと。
「すみませーん、あの杖っていくらですか?」
僕とお店の人が話していると、奥からサラの声が聞こえてきたので2人で向かう事に。
サラのところに到着すると、明らかに周りの杖とは違う扱いをされている杖を指差していた。
「あぁ、あれは魔物が使っていたという曰く付きの杖でな……買い取ったはいいがそれを聞くと買い手がつかない困り者だ。
だが素材としては一級品、5000ガラドは出してもらわないと売れないな」
「クレイグ、お金余ってるかしら?」
「ギリギリ足りるけど……魔物が使ってた杖なんて大丈夫なの?」
「大丈夫でしょ、もし呪われてるんならお店が買い取るはずないし」
確かにそうだけど、精神的な問題があると思う。
サバサバしてるというか、気にしなさすぎというか、肝が据わっているというか。
「はっはっは、大した嬢ちゃんだ!
確かに呪われてはないから安心していい――だが、これを使ってその魔物が人間を殺している可能性はある、それでも買うか?」
「えぇ、殺してないかもしれないですから。
魔石の性能は申し分なさそうですし、買わない手は無いと思ってます。」
「よし、なら5000ガラドで売ろう。
――その短剣も杖も大事に扱ってやってくれ」
「?……わかりました」
僕とサラの武器を新調して店の外に出ると、ちょうとエレーヌさんがこっちへ向かっている途中だった。
僕たちに気付いたのか駆け足……いや、結構本気で走ってこっちへ来ている。
そんなに焦ってどうしたんだろう?
「ふぅ……ふぅ……ちょうどよかった。
支部長がすぐさま2人を呼んで来いって……あなた達何をしたの?」
怒られることは何もしてない……と思うんだけど。
でも支部長がすぐさまっていうことは急がないと、僕たちは
というか、聞かなきゃダメだし。
「食事はどうなったの?」
「ゴドフリーが話し合いの場でいいとこ押さえに行ってるから安心して。
それより少し急いでほしいわ、支部長も少し怒っているというか焦っていたから」
この流れでいいところの食事を逃すまいと発言するサラは、やっぱり肝が据わっていると思う。
でも僕も楽しみにしてたから聞いてくれて有難い、僕とサラのお腹と支部長の為に急いで向かうとしよっか。
何を聞かれるんだろう、少し不安だけど機嫌を損ねるような事だけは避けないと……何としてでもCランクへ飛び級させてもらわなきゃね。
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