第5話 別視点幕間:サラとエレーヌの会話

「うぅ……ん……」


どれくらい気絶していただろう、目を開けて最初に映ったのは洞窟の天井。


何かに襲撃されたの覚えているのよね……どれくらい気絶していたのかしら。


それよりクレイグはどこかしら、死んだりしてなければいいけど……!


「気が付いたしら?」


「誰!?」


クレイグを探そうと頭を起こすと、聞きなれない人の声が聞こえて咄嗟に杖を構える。


私に出来ることなんて<魔氷>を打つくらいだけど……まだ本調子じゃないから全力で打てるかどうかも怪しい。


それに<魔氷>はまだ上手く使えない時期だからあまり使いたくないのもあるんだけど。


「落ち着いて。

 その何かは既に討伐済み、私とゴドフリーがあなたと補助魔術師クンを救助しにきてるから安心していいわよ」


「えっ……その……あなたは?」


「私は『連合』ユニオン直属の難事解決班の一人、エレーヌよ。

 『連合』ユニオンの不備が発覚したからここに来たら、あなた達2人がここに居たってわけ」


『連合』ユニオンが不備を起こすなんて珍しい、ここに来たということはあの依頼書はCランク未満が受けていいものじゃなかったということかしら……交渉次第では十分なお金がもらえそう。


ふふっ、そういう話し合いってワクワクするから好きなのよね。


って、そんな事を気にしてる場合じゃない……クレイグはどこ!?


剣戟の音が聞こえる方向を見ると、明らかに腕が立つ剣士とクレイグが戦っている……どういうこと?


それにその傍らに見える気色悪い魔物の死体は何かしら……。


「状況説明、欲しいかしら?」


「……お願いします」


エレーヌさんが私の顔を見て察したのだろう、私が今一番してほしい事を提案してくれたので甘えることに。


一体何が起きてるのか……この人達は本当に信用していいのか。


話を聞いて判断するとしましょう。




「――と言う訳よ」


「私が気絶していたからって、そんな嘘はやめてください」


「本当なんだってば、信じてちょうだい」


聞いた話をまとめると、ゴドフリーさんとエレーヌさんが来た頃にはクレイグが一人で魔物討伐をしていた。


そしてそれを疑問に思ったゴドフリーさんはクレイグに試合を申し込んで今戦っている。


ゴドフリーさんは『連合』ユニオンの難事解決班。


昔に聞いた覚えがあるけど、過去にAランク以上の冒険者になったことがある人が属する実力者が属する所だったはず。


確かにクレイグの短剣捌きには目を見張るものがあったけど、Aランク冒険者に通じるなんてことがあるかしら。


私が考え込んでいるとエレーヌさんが「本当なのよぉ」と頬をすり寄せてくる、明らかに年上なんだけどちょっと可愛い。


でも私より大きい胸が腕にぷにぷにと当たってるのでちょっと嫉妬、まだ成長期だからいつか追い抜いてやる!


って、落ち着け私……今はそんな事で対抗心を燃やしている場合じゃない。


それよりクレイグだ、難事解決班に所属しているという事は冒険者の第一線を退いている人とはいっても元Aランク以上だったゴドフリーさんといい勝負するはずがない――そう思って2人の戦闘に視線をやると本当にいい戦いをしている。


それどころかクレイグがゴドフリーさんを圧してるんじゃない……嘘でしょ?


まさかと思いクレイグの手をよく見ると、両手に紋章が浮かんでいるのがチラッと見えた……本当に昇格プロモーションしてる!?


ゴドフリーさんもエレーヌさんも気づいてないみたいだけど、まだお父様が研究結果を公表してないし黙っておいてもいいわよね?


「あの子は本当に今日冒険者になったのかしら?」


「それは間違いないです、今日まで近くに居て一緒に首都を出たので」


エレーヌさんが懐疑的な表情で私とクレイグを交互に見る、状況説明を聞く限り信じれないのは仕方ないとは思うけど。


私だって信じれない、あんな異形な魔物見たことないもの。


それをクレイグが一人で倒したなんて……有り得ない。


「補助魔術って汎用性が高い反面、燃費が悪すぎるから世間一般でハズレだと言われてるかのよね……まぁ、個々で性能の違いが大きいのもあるのだけど。

 何せ補助魔術をかけている間はずっと魔力を消費し続ける――それがどれくらいキツいか魔術師のあなたなら分かるでしょう?」


「分かります、それは知りませんでした。

 ですが……急にどうしたんですか?」


「ハズレだっていう常識だけが独り歩きしてるから、理由を知ろうとする人は少ないだろうし仕方ないわよ。

 まぁそれは良いとして――あの補助魔術師クン、ゴドフリーと試合を始めてから複数の補助魔術を同時に自分に掛けて、それを保持しながら戦ってるわ。

 それにあの魔物を倒した時も使ってるでしょうし、魔力は相当消耗してるはず……。

しかも詠唱をした素振りなんて一切なかった……私も魔術師だけど、あれは異常よ」


Aランク魔術師のエレーヌさんから見てもクレイグは異常なのかぁ、詠唱しないのは私も少し前の戦闘で疑問だったのよね。


魔力量は私も知らなかった事だけど、理屈を聞くと異常なのは分かる……クレイグって一体何者なんだろう?


私の出生も変わってると思ってたけど、クレイグのほうがよっぽど変なのかもしれない。


「あー……あれはゴドフリーが負けるわね。

 あの子本当に何なのかしら、補助魔術の質・魔力量・ナイフの扱い・身体能力……どれを取ってもAランク以上よ?」


私が考え事をしていると、エレーヌさんがクレイグとゴドフリーさんの試合を見ながら嬉しいような悔しいような、そんな声でつぶやいた。


そしてクレイグとゴドフリーさんの試合はエレーヌさんの言う通りクレイグの勝利で決着。


クレイグは「やったぁぁぁぁ!」と両手を上げて叫ぶ、普段は大人しいけどやっぱり男の子なんだね。


かっこいいと可愛いが同居しててちょっとずるいなぁ……ってそれよりエレーヌさんにさっきの言葉がどういう意味か確認をとらないと。


「あの、それならクレイグはAランクになれるってことですか?」


「ゴドフリーに勝っちゃったし……って言いたいけどそれは無理ね。

 どうあってもCランクまでの飛び級が限度よ」


Cランク以上なら他国にも簡単に入国出来ることを考えれば嬉しい事だわ。


1週間で実績を上げてCランクになろうとしてたけど、それより簡単な手段があるならそれをしたほうがいいに決まってる。


でも疑問が1つある、せっかくだし聞いてみるとしましょうか。


「実力がAランクなのに、なんでCランクが限度なんですか?」


「周りの信頼と経験が圧倒的に不足しているからよ。

 今までどんな人生を歩んだかは知らないけれど、現在あなた達を詳しく知ってる人なんて家族以外居ないでしょ。

 色んな任務をこなして信頼を獲得し、それと一緒に経験を積めば自ずと上のランクへ上がっていけるから安心して」


エレーヌさんの回答を聞いて、何で疑問に思ったのか自分が恥ずかしくなる――言われれば至極当然な理由だった。


こればっかりは仕方ないわね、でもCランクになれる可能性があるだけ有難いと思わないと。


ザック・マクナルティ郷は帝国の益になる事を成したり差し出したりすることで名声を上げているし、クレイグの事が分かれば躍起になって連れ戻しにくるはず――私兵だって駆り出すでしょう。


そうなる前にクレイグを国外へ逃がさないと……私も一緒に行きたいのは山々だけどそれは後でも構わないわ。


これは『教団』カルトと私のために必要な事、きちんと遂行しなきゃ。


「何を考え込んでいるのかしら?」


「っ……すみません、何でもないですよ」


私が投げかけた質問に答えてくれたのに、返事もしないのは流石に失礼だったわ。


怪しまれないようにしなきゃ、って思ってたのに……。


「さて、あっちの試合も終わったし私達も帰りの準備をしましょうか」


「そうですね、今日はありがとうございました。

 難事解決班が来てくれたおかげで、安心して帰路に付けます」


エレーヌさんに返事をすると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてパチクリと瞬きをしながら私を見つめる。


え、変な事言った?


「いやいや、何を帰って日常に戻ろうとしてるのよ。

 あなた達2人はこの足で『連合』ユニオン支部に来てもらうからね?」


そうか、賠償がどうとか言ってたっけ……すっかり忘れてた。


でもそれは後日でもいいような気がするんだけど、今日はクレイグも私も疲れてるから宿を取って休みたいのよね。


「あの、それは明日じゃダメですか?」


「ダメよ、宿も晩御飯も奢ってあげるから観念してついてきなさい」


「わかりました!」


15年生きてきた人生で一番いい返事をしたかもしれない、即座にそんな返事をしてしまうくらい魅力的な提案だった。


こんな実力者が奢ってくれるご飯……楽しみね!


ほら、早く帰りましょう!

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