第2話 孤独の旅かと思ったけど、そうでもないみたい

「よかったぁ……間に合った……」


「サラ……だよね?」


僕は間違っていたら失礼だと思いつつもサラかどうかの確認の質問をした、この特徴的な髪で僕の名前を知ってるなんてサラくらいしか思いつかないけど。


一つ大きな違いがあるとすれば、胸もお尻もかなり成長していること……僕と同い年のはずなんだけど、既にサラからは大人の色気のようなものが感じられる。


女の子の成長は早いって孤児院の先生が言ってたのは本当だったみたい。


僕なんてまだまだ子どもっぽいのに、ちょっと羨ましいな。


それより、今は俯いて息を整えてるから谷間が目に入っちゃうし、少し汗ばんでいるので余計意識してしまう……!


「そうよ、7年離れてたとは言えあんなに仲良くしてた幼馴染を忘れたの?

 まったく、こっちはこの日を楽しみにずーっと我慢してたのに」


息を整え終えたサラは胸を張って話し始める、そんな強調されると視線がそこに集中しちゃうからやめて!


「楽しみにってどういう事さ。

 僕が孤独に首都を離れるのを見て笑いたかったの?」


僕は必死に胸へ視線をやらないように会話を進める。


そんな事より、サラが僕の旅立ちの日を楽しみになんて考えられない……そりゃ昔は仲が良かったけど。


世界最強の軍事国家であるグラインハイド帝国よりもある意味強い立場、この世界で絶対的な力を持つ中立機関『教団』カルト、そこの枢機卿の娘がサラだ。


そんな立場の子が孤児院に追放された元貴族の息子の首都を立ち去る姿を見に来るなんて、それくらいしか考えられない。


ちょっときつくて意地悪な言い方になったけど、それが僕の本心だ。


「そんなわけないじゃない、私はクレイグが孤児院に行ったというのを聞いてからこの日をずっと待ってたの。

 お父様には既に許可を取ってあるわ、理由は道中話してあげるから――その荷物を見る限りテヘンブルへ向かうのよね?」


「確かにテヘンブルへ向かうけど……枢機卿の許可なんてどうやって取ったのさ!?

 サラの立場なら最高学府まで進むはずだろ、まだ後5年は通学しないといけないんじゃないの?」


サラのような恵まれた環境の人間、それにグラインハイド帝国の貴族は普通に学生をしていると最高学府まで進学する。


僕も剣士になれてたらそうなってたはずなんだけど。


「最高学府までの単位は全部取得したから問題無いわよ。

 結構死に物狂いに勉強と実践をしたけど、何とかなったからいいでしょ!」


「あっけらかんと言い放ったけど、物凄い事言ってるよ!?」


「まぁまぁ、そんな事はどうでもいいから。

 でも最高学府の単位を取ってるだけあって、今の私はクレイグより強いはずよ!

 道導筆画も進んでるし、15歳になっていくつか魔術も覚えてるもんね!」


どうでもよくない気がするけど、その後に話し道導筆画が進んでるのと魔術を既に覚えてるのは今とても重要な事だ。


見せてもらうと五画進んでいるのが分かる、流石最高学府の実践授業を受けているだけあるなぁ。


何せ今の僕が有する道導筆画は一画、その辺の魔物をチマチマ倒して経験を積み、魔術を覚えないとこの先が思いやられる状態。


経験を積めばそれに応じて道導の練度を表す紋章が手の甲に一画ずつ顕現していく。


つまり僕は一般人とさほど変わりない実力しか有していない――けど、そこにサラが加わってくれたらかなり楽になる。


本当にサラが僕の旅に同行するならの話だけど。


改めて確認をしてみると本当についてくるらしい……とりあえず理由と状況を話してもらうからね。


僕の所為で枢機卿の娘に身の危険が及ぶなんてことあったら、命で支払わないといけなさそうだし。




「――というわけよ、分かった?」


「何一つ分からないよ?」


テヘンブルへ向かう道中で聞いたサラの話を要約すると、僕に将来性があるから枢機卿も許可しているというのと、近々僕がグラインハイド帝国から追われるので隣国へ逃がす道案内役をサラが担うという二点。


どっちも意味が分からない、僕の状況でそんな話を信じろと言うのも無理な話だ。


更に詳しく説明してもらうと、枢機卿は独自に血縁と神の天啓の結果の関係を研究していて、僕は昇格プロモーションする可能性が非常に高いらしい。


それが何か分からなかったけど、後日詳しく話してくれるそうだ。


前者の理由のように枢機卿が判断した理由は、母方が引いている魔術師の血は賢者の称号を手にするほど優秀であること、そしてマクナルティ家の剣士の血は剣聖の称号を得るほど優秀。


どちらも遜色ないが、神の天啓で魔術師の血が勝ち附与魔術師に選定されている可能性があるとのことだ、それに附与魔術師というのはあまり聞かない結果らしい。


そういう結果ほど昇格プロモーションの確率は高まるとのこと。


しかし母上の事は顔も知らなかったんだけど、魔術師だったということにびっくりした。


それと、一般的に他者を助ける魔術を扱う人は通常補助魔術師という結果になるそうだ――確かに僕もそれはあまり聞かないなとは思ったけどね。


そして後者の理由は、ある程度研究結果がまとまったので、後日それを世界各国に発表するからだそうだ。


もちろんグラインハイド帝国もその発表を聞く、それを聞いてそのような結果に当てはまる人材が居ないか躍起になって探す。


そこで僕を見つけて指名手配のような事になるそうだ、それが1週間後らしい。


僕が帰るのを嫌がるのは予想済みだったみたい、実際嫌なんだけどさ。


それよりあまり時間が残されてない事実に少し慌ててる、少しなのは話を全部信じていないんからなんだけど。


「とにかく、そういう事だから。

 早くテヘンブルへ行って冒険者になる登録を済ませて、国境を自由に越えれる権利を得ましょう!」


なるほど、サラが少し焦った様子でテヘンブルを目指している理由が分かった。


僕を冒険者にして国境を越えて、グラインハイド帝国から逃がすのが最優先なのだろう……僕だって恨みを持ってる家に連れ戻されて貴族の生活に戻るなんて嫌だから利害は一致。


メイドと兄上にはまた会いたいけど、今の僕は冒険者に対する憧れもあるからね。


でも、サラの計画は実行不可能なのが僕には分かってる……とりあえず確認を取ろうか。


「サラは冒険者全員が自由に国境を越えれると思ってる?」


「うん、そうだけど……違うの?」


やっぱり。


サラの知識には非常に偏りがあった、ある程度調べたりしたのかもしれないけれど……自分が知ったつもりになっている事をわざわざ調べ直したりしないのが人間だよね。


枢機卿を訪ねる冒険者なんて、ある程度経験を積んで冒険者ランクが高い人がほとんど。


つまり、サラはそういう冒険者しか見てきてないし、下位の冒険者と話をしたことがない。


だから冒険者は全員自由に国境を越えれると思っているんだろう、実際はE~Sランクまである冒険者で、Cランク以上にならないと自由に国境を越えることは出来ないんだよね。


それは孤児院に居た頃、『冒険者のすゝめ』に書いてあったので間違いない。


何回も読みこんだ本だし記憶違いなんて事もないはず。


それをサラに伝えると「ふーん、そうだったんだ」と割と余裕綽々な様子。


どう考えても1週間でCランクに到達するなんて無理なんだけど、状況を分かってるんだろうか?




そんな事を話している間にテヘンブルへ到着、自国内なので国民が全員持ってる通行証を衛兵に見せて門を通過――こんな簡単に出来ないのが他国なんだよね……果たして大丈夫だろうか。


そしてその足で『連合』ユニオン支部へ。


奥には酒場もあるみたいで食事のいい匂いが漂ってきた……この後どこかでご飯食べよっと。


「クレイグ、別室で焼印の確認だって。

 その後書類を書いて、登録証が出来るのを待てばいいみたい」


「あ、うん!」


僕が周りに気を取られているうちにサラが受付を済ませてくれてたみたいだ、任せっきりになってしまって申し訳ない。


焼印は犯罪者の印、前科がある者は受け入れないということだろう――まぁそれは当然だよね。


確認が終わり書類記入、名前と拇印だけでいいのは本当に楽だ。


それにファミリーネームを書かなくていいのは有難い、犯罪者以外は誰でも受け入れるという器は本当にすごいな。


流石『教団』カルトに並んで世界最大級の中立機関、『連合』ユニオンだ。


「それじゃ登録証が出来たら呼ぶからね。

 あっちの掲示板に今受注できる任務依頼書がある、初心者用は右端だ。

 今のうちに何をするか見ておくといいよ」


「ありがとうございます!

 行きましょ、クレイグ!」


サラは任務依頼書が張ってある掲示板まで僕の手を引っ張って小走りで向かった。


初めて手を繋いだけど、サラの手ってメチャクチャ柔らかい……それに胸も揺れてるし顔立ちだって相当整ってる。


正直こんな役得を僕が得てしまっていいのだろうか。


ダメダメ、邪な気持ちを持っちゃ……立ち去れ煩悩……!


掲示板を見るとすごい数の任務依頼書が張ってある、Cランク以上と未満でラインが引いてある――ちらっと見たけど凄い危険な任務が沢山あった。


あんなのが1週間でこなせるようになるなんて思えない、冒険者は決してそんな甘い世界ではないはずだ。


「うーん、さっき言ってた初心者用は最初の路銀稼ぎに最適って感じかぁ。

 これもこなしつつ、信用を勝ち取れる可能性のある依頼も同時進行したほうが効率的ね。

 初心者用の野草集めとスライム退治、それに通常任務で森の洞窟の異常調査……この3つは同時進行出来そうだわ」


サラが掲示板に貼られてある任務をざっと見てこの後のプランを立ててる、だからそれは僕の仕事だってば!


話し合って決めたわけじゃないけどさ……でも、サラは枢機卿の娘なんだから冒険者なんて途中で辞めるだろうに。


その後2人で掲示板を見ていると登録証が出来たので受け取って『連合』ユニオン支部を後にした。


早速依頼……の前にご飯を食べよう。


奥の酒場から漂ういい匂いには抗えなかった、酒場には入れないからテヘンブルの料理店を探そう。


サラも必死に堪えてるみたいだけど、お腹の音が聞こえてきてるし。


僕がサラを見て少し笑ったのがバレたのか、顔を真っ赤にしてポカポカ叩かれた。


ごめんって、ちょっと痛いから叩かないで。

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