附与魔術師が気に入られなくて実家を追い出されたけど、どうやら強くなれるみたいです。

えふしょー

第1話 応えられなかった期待

「クレイグが受けた天啓の結果は附与魔術師だと!?」


父上の怒号が少し離れた書斎から聞こえてきて目が覚める。


僕はクレイグ・マクナルティ、今日は8歳になった子どもを集めて神の天啓を受けた日だ。


マクナルティ家は代々武力でグラインハイド帝国に貢献してきている、僕にもそれを求めた父上は厳しくも優しく送り出してくれた。


でも僕に提示された天啓は附与魔術師、要するに小間使いでよく使われる補助魔術師と同じようなもの。


結果を聞いた僕はショックのあまりそこで気絶してしまったらしい、気づけば家に帰り自室のベッドで横になっていた。


「マクナルティ家の面汚しめ……やはり妾の子はその程度のものか!

 メイドよ、クレイグの荷物を急ぎ纏め孤児院に送り届け入居の手続きをしてこい!

 孤児院側の処理が終わり次第クレイグは孤児院行きだ!」


「旦那様、どうかお考え直しを!

 クレイグがこの結果に一番心を痛めておられます、どうか慈悲を!」


父上とメイドの話し声がここまで聞こえてくる、どちらも声を荒げていて少し怖い。


メイドが結果を報告したのだろう、僕の孤児院行きを必死に止めてくれている。


僕だって行きたくない、追い出されたくない。


でも心のどこかで仕方なくも感じる、だって僕はマクナルティ家の子どもじゃないんじゃないかっていうくらい剣の才能が無いから。


剣術以外の運動や体術とかは少し得意なんだけどね。


「ならぬ、由緒あるマクナルティ家が武力でグラインハイド帝国に貢献出来ない人材を輩出するなどあってはならぬことだ!

 この決定は覆らん、もう一度言うぞ。

メイドよ、クレイグの荷物を急ぎまとめ孤児院に送り届け入居の手続きをしてくるのだ!」


「っ……わかりました……」


父上とメイドの会話が終わった、やっぱり僕がここを出る決定は覆らないみたい。


孤児院ってどんな所なんだろう、今まで通っていた学校とかはどうなるのかな。


兄上と幼馴染のサラくらいには挨拶したいけど……マクナルティ家としてはもう会えないから挨拶も出来ないかもしれない。


サラは『教団』カルトの枢機卿の娘、ある意味貴族より強い立場だし。


「クレイグ様……起きておられたんですね」


「うん、父上の声で。

 迷惑をかけてごめん」


「申し訳ございませんクレイグ様……申し訳ございません……!」


僕の言葉を聞いたメイドは僕を抱きしめ、大粒の涙を流しながら泣き出した。


それを見た僕はメイドに釣られ、同じように泣き出してしまう。


仕方ないとは思ってたけど、寂しくて悲しい気持ちがあるのは間違いないから……。




数分泣いて2人とも少し落ち着き、メイドは僕の荷物を纏め始める。


僕はそれをぼんやりと眺めていると、部屋の扉が開いて父上が入ってきた。


そしてメイドに封筒を渡した後、父が僕に向かって話しだす。


「クレイグよ、聞いただろうがお前の孤児院行きが決定した。

朝に言った通り剣士じゃなくともいい、武で帝国に貢献さえ出来ればよかったのだがな。

せめて属性魔術師のように後方から敵を討伐出来る職業ならよかったものの、附与魔術師など補助魔術師と同じ後方の雑用に等しい、そんな存在は吐き捨てるほど代えが居る。

 そんな人材はマクナルティ家の汚点だ、帝国の利にならん」


「本当に……僕は孤児院に行くの?」


「あぁ、そうだ。

 マクナルティ家を守るため、お前は居なかったことになる」


僕は父上から改めて家族関係の断絶を言い渡される――不思議とメイドの時と違って悲しさは無かった。


ただあるのは憎しみと悔しさ、いずれ見返してやるという気持ちが胸の内に生まれたのを感じる。


「ワシからは以上だ、明日家を出たら今後一切マクナルティ家の門をくぐることは断じて許さんからな」


そう言って父上は部屋から出ていった。


メイドは父上が出て行った後、再び泣きながら僕を抱きしめる――ごめんね、僕の力が及ばないばかりに。


荷物も纏め終わり、明日の早朝には出発するということでそのまま寝ることにした。


このベッドと部屋も今日でお別れか……せめて兄上と最後に会いたかったけどそれも叶わないだろう。


悲しい……けど受け入れなくちゃいけないよね。


僕は目を瞑り明日に備えて無理矢理眠る――先ほど生まれた憎しみと悔しさを忘れないよう心の中で反芻しながら。




あれから7年。


孤児院が預かれる孤児の年齢は15歳まで、僕もあと数日で15歳になるからここを出なければならない。


休みの日には会いに来ると言ったメイドも最初の1年は会いに来てくれたが、メイドの名義で僕にタリスマンが届いてからはパッタリと音沙汰が無くなった。


見たことない宝石が入ったタリスマン、一緒に入っていた手紙には「私だと思って肌身離さず身に付けていてください」と書いてあったので、届いて以来ずっと身に付けている。


寂しかったが次第に慣れていった、このタリスマンからは本当にメイドの温かさを感じる気がするのもあるけれど。


それはそれとして、これから附与魔術師として生きていくことは決意してるけど……一抹の不安は残っている。


孤児院の書物には附与魔術師どころか、補助魔術師の本すら無かったからね!


攻撃魔術を扱える属性魔術師の本はあったし、補助魔術師がいかに軽視されているか分かる。


閑話休題。


入居から少しして冒険者になることを決意した僕は、扱える武器を考えて短剣を使ってみることに。


孤児院に居る7年間、僕はひたすら短剣の使い方を鍛錬した――天啓で告げられた力が本格化するのは15歳になってからだし。


少し練習してみてびっくりしたけど、驚くほど手に馴染んだのでそのまま練習を続けることにした。


剣術以外の運動がある程度得意だった僕は、3年目からは孤児院の先生から一本取れるように、先生は相当驚いてたけど喜んで練習に付き合ってくれてたなぁ。


ここ最近では僕が完全に勝ち越している、まさか僕にこんな才能があったなんて思ってもなかったよ。


短剣使いの才能のほうが附与魔術師よりあったんじゃないだろうか、神様も時には間違いを犯すのかもしれない。


そして今日もいつもと同じように鍛錬をしていると、孤児院の院長が顔を見せた。


「おやおや、今日も訓練かい……精が出るねぇ」


「うん、冒険者として生きていくには自分を鍛えないと。

 あと数日でここを出なきゃならないし、孤児院に恩返しするためにはお金がいるでしょ?

 そのためにはしっかり稼がなきゃいけないからね」


僕はここに来て最初に決めた事、それは冒険者になる。


そしてさっきも言った通りお金を稼いでこの孤児院に恩返しするんだ。


「私はここを出た子が幸せになれればそれでいいんだよ、貴族に捨てられても違う形の幸せは見つけれると思うけどねぇ……。

 それに無理に恩返しなんかしなくてもいい、私より早く死ななければそれが何よりの恩返しさ」


院長は誰にでも分け隔てなく優しく接してくれて、僕にもこうして温かい言葉をくれる。


誰からも好かれている、もちろん僕も院長が大好きだ。


でも、その院長の言葉でもこれは僕が絶対にやりたいことだと自分で決めたことだし、貴族の暮らしにはもう何も未練はないけれど、孤児院に恩返しはしたい。


それとは別に、マクナルティ家を見返したいという気持ちは未だ胸の内にある。


僕を無能だと吐き捨てて孤児院に入居させたことを心から後悔させてやりたい――だから僕は戦闘適正が無くても自分に出来ることで強くなるしかないんだ。


「大丈夫さ、先生より早く死ぬ真似なんて絶対しないから」


「ふふ、きっとそうであっておくれよ?

 クレイグも他の皆も私の子どもなんだからね?」


「うん、わかってるよ」


先生は本当の親より親をしてくれた人だ、そんな人を悲しませることなんて僕だってしたくない。


その時の先生の目は、我が子の覚悟を受け入れた上で心配をしている、慈愛に満ちた目をしていた。




それから数日、ついに孤児院を出る日が来た。


荷物を纏めて、孤児院の玄関に立つ……7年前のあの日のことを少し思い出す光景だな。


「それじゃクレイグ、本当に元気でね。

 無理をするんじゃないよ、たまには立ち寄って一緒にお茶でも飲んでおくれ」


「クレイグ、元気でね!」


「クレイグにーちゃん、また遊ぼーねー!」


「うん、もちろん。

 近くに寄った時は必ず立ち寄るから、7年間本当にお世話になりました。

 みんなも元気でねー!」


僕は寂しい思いを胸に押し殺して、今度こそ本当に1人の生活に向けて出発した。


まずは隣町テヘンブルで『連合』ユニオン支部を訪ねて冒険者登録、その後はそこを拠点にして活動しなきゃ。


『連合』ユニオンは冒険者・傭兵・その他フリーな戦闘員を束ねる大規模団体、冒険者は全員ここに加盟していると言っても過言ではない。


力と知恵をつけるために『連合』ユニオンで経験を積むのが近道だろうし、冒険者なら加盟していて損はないはず。


そしてしばらくはソロで活動の予定。


パーティーに所属するのも考えたけど、道導画数が一画で何も覚えてない附与魔術師と組んでくれるお人好しなんていないだろう。


そして何よりまた役立たずと放り出されるのが嫌だった、もうあんな思いするのは嫌だからね。


道導画数は、神の天啓で受けた道導の熟練度のようなもの――15歳になれば右手の甲に一画目が浮かび上がるから嘘もつけないし。


よし、それじゃあテヘンブル目指して出発だ――と思ったら、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえる。


「クレイグー、待ってー!」


声の方向へ振り返ると、少し離れた所から手を振ってこちらに向かってくる女の子が1人。


どこかで聞いたような声……いや、待てよ。


あの特徴ある透き通った青髪、まさか幼馴染のサラ!?

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