愛の欺き

#365日ショートショート 194

　じっくりと火を通して。

　まずは表面、そして裏面。香ばしい香りが否が応でも空腹を刺激する。味付けはシンプルに塩。さあ、いただこうか。

「わーい、お肉！本当にお肉なの？」

「そうだよ坊や、お食べ」

　お父さんは無理に笑顔を作っていた。

　洞窟に設けられた居住スペースで、親子ふたり、手を合わせる。

「この島に遭難してからもう2ヶ月は経つな。お肉を食べるのは初めてだ」

「うん！僕、とっても嬉しいよ！でも、お母さんも一緒に食べられればよかったのに……」

「お母さんは少し遠いところに出かけたんだよ。坊やのために、ね」

　男の子は、硬い肉を懸命に噛みちぎっていた。

「お父さん、この肉、なんだか苦いよ」

「苦肉の策だからな」