第9話 イランテン王国と褒美
「騎士団長! 来てくれたのですね」
「はい、只今」
お姫様の前で敬礼をする。
それが騎士団の礼儀なのだろう。
「それで、この者たちなんですが……」
「もしポフィオイネン国のものなら、私が正義の鉄槌をくだすが?」
キザな仕草で、俺たちに剣を向ける。
キュィィィン
金属がきしむ音がした。
「おっと、早とちりはいけないね。でないと、お前の首も同じように曲げてやるが?」
そう、こちらに向けた剣がたやすく曲げられていたのだ。
しかもちょうちょ結びをされているときた。
まあ妃に歯向かうと、こうなって当然だ。
「なっ……」
騎士団長は眉をひそめる。
「待って下さい、カオスファミリーの皆さん。それに騎士団長もですよ。この方々はわたくしたちを救ってくれた英雄です」
「本当なのですか! ヘルミ王女」
「ええ。この目でしかと見ました」
「では北門の前で、皆倒れ込んでいた兵士たちもか?」
「そうです、ギルドカオスファミーのみなさんが救ってくださったのです」
「馬鹿な、そんなことがこんな少女たちに出来るわけがないだろう! 魔法が使えるわけでもないのに」
「魔法といったか、ガブリエルとやら。この世界には、魔法があるのかと聞いている」
「ああ、もちろんあるとも。まあ、基本的に位の高い者たちは皆使える。イランテンの民は特に魔法習得率が高い」
「ふむ、その話は後でじっくり聞こう」
「礼だ」と言って呪文を唱えて、剣を元の形に戻してあげていた。
剣の時間を少し巻き戻したらしい。
騎士団長は嬉しさよりも恐怖の方が勝ったみたいで、きざったらしい態度に似合わず「ひぃっ」とか言っていた。
それから俺たちは騎士団長の連れてきた馬車に姫様と搭乗し、そのままイソリンナ城に案内されるのだった。
途中、兵士たちが大量に倒れているのを目撃したが、たしかに皆息はしていた。
ルーナは一体、どうやって一千の兵士を倒したのだろうか。
北門を堂々とくぐると、先程ギルドでそそくさと北門に向かった冒険者がやっと到着していた。
そう、通常の人間ならどれほど急いでもこれだけ時間がかかる。
冒険者たちは、現状を見て唖然としており、錯乱してるものも居た。
それだけ緊急クエストの報酬が欲しかったのだろう。
元血だらけの男は、報酬として様々なことをしてくれるだろうと言っていた。
それを真に受けているわけではないが、それなりな対応をしてくれると、この世界では身寄りのない俺達にとっては助かる話だった。
そんな事を考えていると、城に到着して玉座へと案内される。
そこにはいかにも王様らしい冠をかぶった白髪の男が座っていた。
「お主たちが、私の娘ヘルミを救いながら、ポフィオイネン国の兵士たちを倒した者たちなのか」
「そうだ。緊急クエスト通り、救ってやったぞ」
「金髪の君、名前は?」
「ルーナ=ウィリアムズ」
「そうか。君がギルドリーダーなのか?」
手をひらひらさせて違うというアクションをする。
「俺がリーダーだ。まあカオスファミリーの中では最弱だけど」
「お主がか「お主がか。ではひとまず礼を言おう」
王様は椅子に座ったまま、お辞儀をする。
「本当に助かった……あの後倒れてた、一千を超える兵士たちは皆撤退した。そして我が娘、ヘルミが攫われたのはこの国の王である私の罪だ」
横に居た騎士団長が、話に割り込む。
「いえ、近衛騎士である僕にその責任はあります」
「いいのだよ。コスキネン君。王というものは、責任を取るのが仕事なのだ」
「承知仕ります」
騎士団長は引き下がる。
「そんで、俺たちは緊急クエストを四人で片付けたんだ。それにみあう報酬があってもいいだろう?」
焦っているわけではないが、特に国王の戯言を聞いている必要はないと判断した。
三人を待たせるのもなんだしな。
「それについては、わたくしからお話させていただきます」
「ヘルミ……下がっておれと言ったではないか」
「いいのですお父上、わたくしが決めたことですから。それにお父様も嫌ではないでしょう」
「むぅ……」
王様は押し黙った。
娘に押される父のようだった。
きっと妻の尻に敷かれていたんだろうな。
「それで、我らに与える褒美とはなんだ?」
「それは……」
お姫様は、おれの元へ駆け寄ってくる。
「カミキレンヤさん。私の許嫁になってはくれないでしょうか!」
「はっ?」
赤面した顔で、右手をギュッと握られる。
「わたくしは考えたのです。ここまでの功績を出した者は貴族ならぬ、皇族に迎えるべきだと。なにせ国とわたくしを救った英雄なのですから」
「それでなんで俺と、許嫁になるんだ!?」
「それは……わたくしを窮地から、助けてくれたではありませんか。それに、レンヤさんが皇族に入れば、同じギルドメンバーも同等の扱いを受けることができます。悪い話ではないでしょう?」
上目遣いでこちらを潤んだ瞳で見つめてくる。
三人に目配せをした。
三者三様で、「やれやれ」と言っている。
いや、助け舟とか出してくれないのかよ!
「いや、皇族に入れてもらえるのはありがたいが、俺たちは他に目的があるんだ」
「他の目的……ですか? ガルドなら、レンヤさんたちが欲しいだけさしあげますよ!」
そうではない。
俺たちは仮にも、元の世界の枯れた世界樹を復活させるためにここに来ているのだ。
「いやそれもありがたく受け取らせてもらうが、俺たちは……この世界樹の雫を求めてやってきたんだ」
「世界樹の雫……詳しい話をお聞きしてもいいですか?」
そこからこの世界にきてからのこと。
それに元いた世界のこと。
ある程度こちらの世界でもわかるように砕いて説明した。
「そうだったのですね異世界からこの世界に……しかし」
そこで言葉を曇らせた。
「そこは、私から説明しよう」
国王は立ち上がり、窓の外の世界樹を見つめる。
「私達の国は、『魔法』が発展してできた国だ。それは世界の理たる原理。それを追求した結果、世界樹から半場見放されたのだよ。かろうじて、世界樹の恩恵でギルドなどは他の国同様成り立っているが、今はすでに世界樹に触れることさえできない」
ルーナは眉をひそめていてた。
『魔法』に引っかかっているのだろう。
彼女は魔術師であって『魔法』は使えないのだ。
それがこの世界にあるとなると、それは魔術の根源から覆されるのではないだろうか。
「だったら聞くが、俺たちはどうやったら世界樹の雫をてにいれられるんだ」
「少なくても我が国では入手できまい。可能性があるとしたら、こんな話を聞いたことがある。北国のポフィオイネン王国は高位の魔法使いたちが集まり世界樹の雫を保存して、そのエネルギーを国家的に利用していると小耳に挟んだことがある」
「これは機密事項だがな。お主たちには必要な情報だろう」と補足する。
「って、ポフィオイネン王国ってさっき俺たちが倒しちまった兵士たちの国じゃね―か!」
「そうだ。だからお主らが出向くとなると、もう一度戦争が起こるだろうな。我が国としては娘を奪われた借りがある。その屈辱を晴らしても良いと考えているがな」
「あの……すいません。それは、大勢の人が亡くなるのではないですか?」
梓紗が言う。
「そうなるであろうな。今までの状況では。しかし今は、お主達がいる。そうすれば、死人など出さずとも容易に国を制することができるのではないか?」
「俺たちに国同士の争いに、加担しろと?」
俺は国王を睨みつける。
個人の諍いならまだしも、異世界に来て間もないのに国家に利用される駒となれというのだ。
それでは俺が殺しをやってきたときと変わらない。
命令を受けて人を殺し、その対価を得る。
それが今度は国から依頼を受けて、国を征服しろだ?
冗談じゃない。
この三人の力は、そういったものに干渉してはいけないのだ。
それが、最強の矜持というものだろう。
その結果、俺たちがばらばらになり、もしそれぞれと戦うことになったら?
それこそ、世界の終わりだ。
誰もかなわない戦場の中で、互いが死ぬまで生きとし生けるものすべてを殺める悲惨な未来が目に浮かぶ。
「蓮夜、そう深く考え込まなくてもいいよ。痛いだろう、拳の力を緩めな」
いつの間にか俺は、指先の爪が手のひらに食い込むまで手を強く握っていたのだ。
ルーナが俺と妃に一敬して話し始める。
「我らは、政治に干渉する気はない。今回の戦争も死人を出さずして終わらせるには、我が直接で向いたほうが早かったのでそうしただけのこと。その報酬が貰えればそれで良い。そして世界樹の雫がここでは手にはいらないのは、億劫だがそう簡単ではないことは承知の上だ。そして忘れるなよ。我は魔法を使えずとも、ポフィオイネンの兵士共にしたこと、お主らにも同じことができる。この国でさえ簡単に我の手に収める事ができる」
カンッと金属の杖を下に打ち付け、魔法陣を展開する。
「お、落ち着いて下さい! お父様、この国を救ってくださった方に失礼ですよ! わたくしたちはカオスファミリーの方と、友好な関係を築こうと思っているだけです。世界樹の雫がほしければ、ポフィオイネン王国に通達して交渉することもできます。とにかく、わたくしたちイランテン王国の皇族へ昇格する儀式を近日中に行いましょう」
その場は、お姫様が仲裁してくれたおかげで大事にならずに済んだ。
その後このイソリンナ城でも最高級という部屋に連れて行かれそれぞれ別室に案内され一旦は寛いだのであった。
元最強の殺し屋が三人の最強能力者と異世界に渡ったのだが、世界樹を手に入れるのが無理ゲーすぎて自分の世界が破滅しそうなんだが。 @yuzukitoumu
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