第8話 元殺し屋と四神
◇
見えてきた。
五台の馬車を全力で牽いている集団が居た。
その周囲には、鳥……いや恐竜のような見た目をした鳥が空中を闊歩し、馬車のまわりには、熊のような大きさの狼が並走していた。
おそらくその中心にいる馬車の荷台にヘルミ王女がいる。
「蓮夜さん……ここから攻撃、できますか?」
「なんとかするしかないだろ。まずは、動きを止める」
脳内で銃をイメージする。
それも拳銃ではない。
機関銃でもない。
もっと長距離でも射撃精度のいい銃。
スナイパーライフルだ。
その中でもこの距離なら、あの世界で最新のOrsis T-5000(オルシスT-5000)だろう。
スコープも三キロ先まで見通せる。
それを手にイメージする。
ヴィータによる具現化はすぐだった。
「それ……本物の銃なんですか?」
「ああ。弾以外は、本物と違わない」
弾はエネルギー弾だ。
流石に火薬は生成できないからだ。
手際よく銃をセッティングする。
動きながら狙うのは難しいので、<鳳凰>には空中で静止してもらった。
「これなら……いける!」
まずは手前の馬車の車輪を……
バァーンッ!
当たった!
続き三発同時に発射。
右の馬車、命中。
左奥命中。
右奥失敗。
弾をリロードする。
といっても、薬莢が出るわけではない。
ヴィータの力を込めるのだ。
遠ざかっていく馬車。
でも見える!
「最後だ」
三発、連射する。
初撃、失敗。
二発目、真ん中の馬車の車輪に着弾。
三発目、右奥の馬車の車輪に命中。
「なれてるんですね……」
「まあ、俺はころ……」
危ない、つい癖で殺し屋をやっていたとバラすところだった。
とくに梓紗の前では、そのことは隠していたい。
なにせ霊的なもの全般が見えてしまうのだ。
彼女にとって、殺人は辛いものだろう。
「ころ……?」
「ころ、がっていても銃を扱うことが出来るんだ」
「すごい、ですね。流石最強の人間として、選ばれた方ですね」
「いやいや、梓紗ちゃんには負けるよ……」
実際梓紗相手だと、勝ち目は九割五分ないだろう。
『朱雀』を憑依させているときの速度は、まるで瞬間移動だ。
あれは並の人間では対応できない。
「それでは、馬車に向かいます。準備はいいですか?」
「OKだ」
強い風が一瞬吹き荒れると、何事もなかったかのように<鳳凰>は進む。
向かい風が当たらないというのは、なかなか便利なものだ。
「プテラノドンみたいなやつが、こっちに来る! 俺が迎え撃つ」
「その必要は、ありません。<鳳凰>あの鳥の羽を焼いて」
鳳は咆哮した。
そして姿勢を縦に傾け、背中に乗っていた俺は滑り落ちるかと思ったのだが重力が鳳を中心に動いているのか、全くそんな心配はいらなかった。
その状態で、赤い炎を吹き荒らし、翼竜の羽を焼く。
「便利だな<鳳凰>は」
「そうでもないんですよ。最初は手懐けるのに苦労しました」
手懐けたのかよ……どうやったらそんなことが十代前半の少女にできるんだ。
「地上に降りますよ。蓮夜さんは、ヘルミ王女を助けてあげて下さい」
「梓紗ちゃんは? 兵隊も狼もいるみたいだけど……」
「心配しなくても大丈夫ですよ」
にかっと笑みを浮かべる。
天使のような表情に、俺は生きていてよかったと思わず拳を握る。
いやそれどころじゃない。
中心の馬車の上空に来た。
「ここで降りる」
「はい!」
飛び降りて、上空に現れた俺たちに驚いている兵士たちをよそに荷台にダイブする。
「うひゃぁぁ!」
「っと、あんたがヘルミ王女か?」
そこに居たのは、十代前半とおぼしきドレスを着て、ティアラを付けた金髪の少女だった。
髪も手稲に編まれており、ルーナの金髪とも違う印象を受けた。
「はい、わたくしが第一王女、ヘルミ=パヴロヴィチです。貴方は?」
「神木蓮夜。蓮夜でいいよ、お姫様。あんたを助けに来たんだ」
救助の方法に驚いているのか、キョトンとしている。
だがここにいるのは危険だ。
すぐに兵士が入ってくるだろう。
「逃げますよ、お姫様」
「あっ、ちょっと」
王女らしく、お姫様抱っこで荷台の後ろから脱出する。
兵士は居なかったのだが……
「狼がおでましとはな」
お姫様を抱えたまま、銃や刀を扱うわけにはいかない。
かといって、逃げ足も馬車に並走していた狼に敵うとは思えない。
こういう時は……
「梓紗ちゃーーーん!」
すると、叫び声が聞こえた。
「『白虎』!」
脇差しと小太刀を持った少女が天からやってきた。
「悪いな、こいつらが来れないところまで俺はお姫様を連れて逃げる」
「分かりました。私が対処します」
すると「ごめんね……」と小さくつぶやくと、自慢の脚力で迫ってくる狼の足だけを狙って強靭な剣舞を見せている。
左手の小太刀を逆手に持ち替えて規則正しくかつ、臨機応変に動く剣筋はまるで巫女が舞を踊っているように美しい。
「すごい……」
お姫様が驚いている。
「だろ? あいつ、ああ見えて世界最強なんだぜ」
まあ俺は違うけど。
「あなた達は一体……」
準備してきた言葉を述べる。
「ギルド『カオスファミリー』だ。覚えといてくれよ」
「カオスファミリー。冒険者の方なんですね」
「まあ駆け出しだけどな」
遠くから声が聞こえる。
「おーい、大丈夫かー」
妃の声だ! 助かった。
「我もいるぞ」
「うわっ」
お姫様が驚いていた。
なにせ上空に金色の魔法陣を浮かべて立っているのだ。
後ろではまだ梓紗が戦っていた。
兵士を伏せるのに、時間がかかっているようだった。
無理もない、殺さずに倒すのには技術がいる。
「我も加勢しようか?」
「いや、大丈夫だろ。あいつなら」
するとまた叫び声が聞こえた。
「『玄武』!」
一瞬だけ見えた。
大きな亀の甲羅のようなものが出現して、兵士たちを伸したのだ。
梓紗は前進を淡い、緑の炎に包まれている。
その勢いで遠くに飛ばされた者たちは、全員気絶していた。
「くそっ、こんな小娘風情に……構わん、撃て!」
長銃を取り出し、皆が一斉に梓紗に向けて発砲する。
これは流石にマズイかっ。
誰か助けをと思い、二人を見たが平然としている。
「(あの少女は、この状況でも切り抜けられると踏んでいるのか)」
その信頼した眼差しは、まさに仲間。
いやファミリーに向けられたものだ。
また叫び声が聞こえた。
「いくよ『青龍』!」
瞬間、弾が届くより速く、全身を蒼い炎を纏った。
そしてその瞳も、蒼く変色していた。
一瞬何が起きたのか、分からなかった。
梓紗がいない!
どこだっ。
兵士を見ると全員当て身でもされたのか、気絶している。
「おかえり~梓紗」
「へ?」
なんと梓紗は俺の後ろで、妃の前に立っていた。
なんだ今の能力は。
一瞬で、全員を気絶させて、俺の後ろへ?
そんなバカな、時間でも停止させたのか?
「我も初めて見たが、あの『青龍』とやらの憑依。東方の力を持っていた」
「どういうことなんだ?」
「あくまで我の見解だが、あの『龍』を憑依させると、人間の認識の外に置かれるんだろうな。いや人だけでない、生物すべてに認識されなくなる」
「それだけじゃ、あの数の銃弾は避けきれないだろう?」
「お主、何もわかっておらぬな。『龍』を纏っているのだ。東洋の言葉でいうと、千里眼で見えているのだろうよ、未来が。そして一瞬だけ、亜空間のようなものに移動していた。だから尋常ではない速度のように見えたし、我々の目には映らなかったのだろう」
「そんな能力あるのかよ……」
最強の名は伊達じゃない。
精霊術士ってか、ほとんど神みたいな存在じゃね―か!
「流石魔術師のウィリアムズさんですね。ほとんど正解です。別の空間に移動していたことまでわかるとは」
「まあ、当然だな。我も亜空間を使う魔術を使うことがあるからな」
「あの~、歓談中失礼します。わたくしはどうしたら良いのでしょう……そのお姫様抱っこをされたままだと……」
そういえば梓紗の能力に驚いて、お姫様を抱えていることを忘れていた。
「悪い、下ろすな」
「ありがとうございます。確か後ろには、多くのポフィオイネン国の兵士が居たと思ったのですがどうなったのです?」
「我が対処した。妃が、時間を稼いでくれたのでな」
オッドアイの少女は答える。
「まさか……殺したのですか!」
「いや、そんなことはしてないよ。ルーナはちゃんと加減して、全員の精気? を奪ったんだって。だから誰も死んでない」
朱い瞳の少女が言う。
「それをお二人で? あの人数を?」
「倒したな」
「精気を吸い取ってやっただけだ」
お姫様は驚嘆していた。
無理はない、妃もルーナも傍から見れば自分と同じく可愛らしい少女なのだから。
そんな彼女らが、一千の兵を倒し、目の前でも兵士や狼を伸したという事実は到底受け入れられないだろう。
そんな時、声が聞こえた。
『姫ご無事ですかー! 僕です、ガブリエル=コスキネンです!』
白馬に乗り、白を基調とした、綺羅びやかな騎士服をきた青年風の男がやってきた。
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