第5話 ギルド名カオスファミリー

「む、お主、この世界の文字が読めるのか」

「え、ルーナでも読めないのか?」

「私も無理だね」

「私も……わからないです」

 おかしいな、会話は普通にできてたよな?

 文字をもう一度見直すと、読むことは出来るし意味はわかる。

 だけど俺の知っている文字じゃなかった。

 なぜ、俺だけが読めるんだ?

「ふむ。蓮夜の能力は世界樹の力(ヴィータ)を扱うことが出来ると聞いた。この世界の世界樹は活き活きとしている。こちらの世界のヴィータの意思によって、世界に適合させてくれてるのではないだろうか」

「その考察は……あっていると思います。実際私も、ヴィータの加護を使うことがあります。その際に、世界樹の意思というものがあって、それが世界を調整にしてくれるんです」

「へえ、じゃあ神木しかできないことが増えたね。よかったじゃん」

 たしかに俺は役立たずだったが、この世界の文字が読めるのなら三人の役に立つことが出来るだろう。

 心のなかで、ガッツポーズをした。

 俺にしかできないこと、ゲットだ!

「俺にも出来ることがあって、よかったよ。とあえず、入ってみよう」

 まわりはいかつい格好をした、いかにも冒険者とでもいうような風貌の人物ばかりだ。

 バトルアックスに剣、レイピアにモーニングスターのようなものを持っているやつもいる。

 流石に銃は持っていないだろうと思ったが、居た。

 火縄銃ではないようだが、銃身の長い木と金属でできたライフルのような形をしている。

 幾人か、それぞれ細かい形や銃口の大きさは違うが明らかに銃であることは確かだった。

 その人間達が、カウンターに行ったり横に長く広がる掲示板を見て騒いでいる。

「やかましいことだな。いっそここを燃やしてしまおうか」

「ルーナ、頼むからやめてくれ……」

 とりあえず、三人を適当な椅子に座らせて俺がカウンターに向かう。

「イランテン王国リンネ街ギルド支店へようこそ。クエストをご希望ですか?」

 黒猫のような耳を生やしたお姉さんがいう。

 ここはイランテンという国なのか。その中のリンネ街という街のようだ。

「その、利用したいんだが、ここはそもそもどういった場所なんだ?」

「ギルドは初めてのご利用ですね? ではご説明いたします。ここはSからEまでランク付けされた様々なクエストを受けて、ご依頼人からギルドを通して対価として金銭をもらう。という場所になっています。ギルド登録はしていますか?」

「いや、していない。初めてだ」

「それでしたら、まずはギルド登録をしてEランクの依頼からこなしていってはいかがでしょう?」

「そういうものなのか。いや手っ取り早くたくさん金がほしいんだがな」

「申し訳ないのですが、冒険歴の浅い方とお見受けします。そのような方が、高いランクの依頼を受けて亡くなった方は大勢居ます。なので基本的には、クエストランクEから順にこなしていっていただけると助かります。この『ゴブリン討伐』や『薬草採取』なんかがEランクですが、効率がいいですよ」

「いや……クエストは後で決めるよ。それよりギルド登録だったよな? 仲間もいるんだが、全員しないとだめなのか」

「はい、そうしますと全世界のギルド共通でクエストを受発注できます。この世界樹の板に手を置いてください」

 そこにはまな板のような、ニスのかかった板が置いてあった。

 まさか、世界樹の皮でできているのか?

 だとしたらとんでもない品だ。

 この世界では、ギルドにこんなものが平然と置いてあるのか。

 ずいぶんと贅沢な使い方だった。

 ここに手をおけばいいのかな?

 手を置くと数秒後、青白い光とともになにやら文字が浮かび上がった!

「えーっと、カミキレンヤ様ですね。職業は……アサシン。稀にいらっしゃいますが、まさか人を殺してきたわけではないですよね?」

「さ、流石にそれはないですよ」

 顔の表情は引きつっていたが、「そうですよね」といって手続きを進めてくれた。

 どうやら、この板は世界樹の力を使って、個人の能力などを明らかにするものらしい。

「それでは、ギルドメンバーもこの板に触れて下さい」

 後ろを振り返り、三人に手招きをする。

 そこから珍妙なやり取りが始まった。

「キサキ=マルチネスさん。職業は……サイキッカー。なんでしょうこの職業は? 初めてみますが、どんなことをしておられるんですか?」

「まあ、人々を笑顔にすることだな」

「ああ! サーカスに務めているんですね。わかりました。サイキッカーで通しておきます」

 木版から紙に情報を移している。

「ルーナ=ウィリアムズさん。職業は……マギウス? これも何でしょう。魔法使いさん、ではないんですよね」

「うむ、魔法は使えない」

「ではどのような職業ですか?」

「錬金を探求し、占星術を極め、魔導を司っている」

「つまりは、学者さん……ということでしょうか」

「まあ、そう捉えてもらっても良い」

「次は、ホシミアズサさん。ずいぶんとお若いですね、ギルドの登録年齢は十二歳からですが……」

「それなら問題ありません……今年で十三歳です」

「それならギリギリ良いといいたいところですが、その年でギルドに来るということは相当お金に苦労したんですね。お察しします。そして職業は……スピリットマスター? そもそも手に職を持っていらしたんですね。しかし、妖精、いや精霊? をマスターしているんですか?」

「精霊、だけじゃないですが、大体のことはできます」

「そうですか~偉いですね」

 俺に耳打ちをされる。

「あのカミキさん、この子は一体どういう職業をしているんですか?」

「まあ……精霊とか神様とかがでてくるお話を作ってるんだ」

 適当に話を合わせた。

「そうだったんですね! では絵本作家ということで」

 結局三人とも本来とはぜんぜん違う職業になった。

 俺たちのギルドの備考欄に、サーカス団員、学者、絵本作家、の文字が並んでいた。

 こうしてみるとシュールだ……

 あいつらも、それでいいと思ってるのか、後で聞いてみよう。

「それで、ギルド名はもう決まっていますか?」

 そういえば考えていなかった。

 俺はこういう名前を考えるのは、あまり得意ではない。

「蓮夜が名付けないのなら、我が名前を与えてやろう」

 なんだか嫌な予感がする。

 こいつならとんでもない中二ネームをいうかもしれない。

「『カオスファミリー』だ」

「案外まともなことを言うんだな……」

 安堵するのと同時に、ファミリーという部分が気になった。

 俺たちは出会って間もない。

 それのに、家族という意味を持つ言葉をつけていいのだろうか?

「『カオスファミリー』ですね。承りました。それでは、案内はここまでです。右手にある掲示板から、好きなクエストをお選び下さい」

「やっと……クエストが受けられますね」

「ほんとだよ~、誰がサーカス団員だっての」

 それぞれが、思いの丈をぶつくさ言っている。やはり職業の不満は大きいようだ。

 どのクエストを受けようか迷っていた時、それは訪れた。

『大変だ! 北のポフィオイネン王国から、兵が攻めてきた!』 

 ギルドはあれだけ騒がしかったのに、その声を聞いて誰もが固唾を飲んでいた。

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