イランテン王国リンネ街のギルドにて

第4話 西の国イランテン王国


「十五キロ……ですか。私は歩くのが遅いので、飛んでいってもいいですか?」

「我も飛行していったほうが効率的だと思うな」

「あたしはテレポートを何回かすれば、ついちゃうけどね」

「だから、俺にはそんな能力ないって!」

 ほんっと、なんでもできるなこいつら!

 同じ世界に生きていた人間とは思えん。

 結局は皆別々の方法で街まで行くことになったのだが、俺は梓紗に連れて行って? もらうことにした。

「我は先に飛んでいるぞ」

 そう言ってルーナは、そのへんから身長より長い棒切を拾ってきて呪文を唱えた。

「Primitus ramus, dein sparteus.(元は枝、その後は箒。)」

 銀色の魔法陣が立てた棒切から地面へ水平に展開される。

 すると枝が、装飾の凝ったまさに魔女が乗っていそうな箒に変化した。

 さっきの剣のこともあるし、このくらいでは驚かなくなっていた。

 その箒にちょこんと腰掛けると、最後の呪文を言い放つ。

「Ordo volare.(飛翔を命ずる。)」

 ルーナを中心に地面に二メートルほどの今度は金色の魔法陣が浮かぶ。

 その瞬間、大量の風が発生し文字通り飛んだ。

 その速度は鳥よりもヘリコプターよりも早い。

 もう見えないところまで行っていた。

「じゃあ神木さん……行きましょうか」

「ありがとう梓紗ちゃん。あと俺も、名前でいいよ」

「分かりました……蓮夜さん。では行きますよ……」

 梓紗は一体どうやって飛ぶつもりなのだろうか。

 さっき言ってた式神に乗るとか?

 でも人間二人を乗せることが出来るのか。

「『朱雀』!<鳳凰>」

 周囲に目を開けていられないほどの風が発生する。

 その中心に梓紗がおり、その体は薄っすらと白い炎に包まれているのだった。

 浮遊感があり、次に目を開けると、俺は飛んでいた。

 いや、飛んでいるものに乗っていた。

「これは、一体どういうことなんだ、梓紗ちゃん」

「連夜さんには……見えませんか? 南方の守り神、<鳳凰>です。『朱雀』の力で召喚しました。私たちは、その背に載っているんですよ」

 そう言われて下を見るけど、地面から伸びる木々たちが生い茂っているだけだ。

 ふと、まばたきをすると、一瞬だけ、鳥の背のようなものが見えた。

 次に目を開けたときには、透明になっていたけれど、あれが<鳳凰>だったのだろう。

 <鳳凰>のお陰で風の加護でもついているのか、ルーナの箒に負けないくらい高速で飛んでいるのにほとんど風を感じない。

 これなら落ちる心配はなさそうだ。

「俺には全然見えないけど、とにかくすげえなお前って」

 梓紗は赤面した。

 褒められるのに、なれていないのだろう。

 なんて可愛らしい少女なんだ。

 こんな子が、黒竜を倒したなんて信じられない。

 俺が守ってやりたいと強く思う。

「そんな……褒めないで下さい。当然のことをしているだけです」

 横で、ヒュッと音がした。

「やあやあ、二人ともそれはどうやって飛んでいるんだい?」

 俺たちに横付けするように生身で飛んでいたのは、妃だ。

 さっきまで居なかったのを鑑みると、テレポートをしてサイコキネシスとやらで飛行をしているのだろう。

「なんでも<鳳凰>っていうのに、乗せてくれているらしい」

「<鳳凰>とな。それはフェニックスのことか?」

 更に高い高度から現れたのは、ルーナ。

 箒に腰掛けてこちらを向いていた。

 よくその状態で、高速で飛んでいられるなと思った。

「ウィリアムズさんは、<鳳凰>を……知っているんですか?」

「知っているも何も、そこにいるではないか。我にはフェニックスに見えているぞ。いやまさか、東洋ではそんな神獣を簡単に呼び寄せることが出来るのだな」

「霊感が……あるんですね」

「そうでもない。ただ魔術を極めているうちに、勝手に身についたものだ。梓紗ほどではない」

 俺と妃には見えていないが、二人には見えているのだ神獣が。

 そんな神獣とともに、街の入口が見えてきた。

「思ったより、大きな街だな」

 そこに広がっていたのは、世界樹の根本まで続く広大な外観だ。

 世界樹の周辺には大きな塔のある西洋風のお城が立っており、壮観だった。

「このまま街の上を飛ぶのは、いささか不自然であろうな」

 箒をポンポンと叩いて、下を指差す。

「じゃあこの辺で降りれるか、梓紗ちゃん」

「はい……」

 関門から見えない位置に降り立ち、歩いて街へ向かう。

 そこには行商人とおぼしき人や、村人が関門をくぐっていた。

 検閲があるようだ。

 皆、通行証のようなものを見せている。

 無論、俺たちはそんなものはない。

「この後は、どうするんだ?」

「まあ、私にまかせてよ」

 行商人に紛れて、関所を通ろうとする。

 すると二人の門番は、槍のようなものを交差させ、行く手を阻んだ。

「見慣れない格好だな。通行証は?」

 以外だったのは言葉が通じたことだ。

 異世界なら独自の言語体系があっても、おかしくはないと思ったのだが杞憂だった。

 あくまでも同じ世界樹のある世界に移動しただけなので、ある程度似た世界なのかもしれない。

 それよりも通行証だ。

 このメンツなら、強行突破でもしそうだが、最初から問題行動なんてしたくはない。

 妃が前に立つ。

 小声で何かを言っている。

「催眠(ヒュプノ)」

 二人の門番は目の色を失う。

 そして槍を戻した。

「今のうちに、行くよ!」

「わかった」

 ゆっくりと関所を通過する。

 きっと、催眠系の能力を使ったのだ。

 それで意識を遮断させ、俺たちを認識しないようにしたのだ。

「マルチネスさん……さすがです」

「まあ、当然よね♪」

「それよりも、この街は大きい。これからどうするのだ、蓮夜」

「お、俺が考えるのか?」

「当たり前であろう。お主はさっきから、ほとんど何もしていないじゃないか。少しは仲間として手伝え」

 ルーナに箒で小突かれる。

 うーん、とはいってもどうしたものか。

「とりあえずは、情報収集がしたいのと金がほしいな。どこかにそんな場所ないか、探せないかな」

「待ってね。私がクレヤボヤンスで探す」

 目を閉じて、思考を巡らせていた。

 数分後。

「あったよ、この先二キロくらいのところに。武器を持ってたり、結構いかつい人が集まってる大きな場所がある」

「じゃあそこに行こう。あ、間違っても目立つことするなよ。普通に歩いていくぞ」

「ふむ、そうだな」

 ルーナは納得して、先を歩き始める。

 歩いていると、この世界と元いた世界との違いがわかる。

 この世界は、元いた世界で言うところの中世くらいの発展度合いだ。

 だけど歩いている人たちの中には、猫や犬、狐の耳や尻尾がついけいる人を見かける。

 そのような人は人間の耳がない。

 だけどそうでない普通の人間とも、普通に暮らしていた。

 露店が出ており、様々なものを売っている場所もあった。

 元の世界と同じような果物や野菜もあったが、見たこともない食べ物があったりした。

 通貨はガルドと言うようだ。

 梓紗だけはまわりをキョロキョロして、おっかなびっくりしている。

 残る二人は、まるで最初からこの世界に居たように平然と歩いている。

 神経の図太さの違いか、それとも貫禄なのか。

 その区別がつかないが、俺は動じていないつもりでいる。

「あの……蓮夜さん」

「どうした、梓紗ちゃん」

「この世界……とっても、精霊や浮遊霊が多いです……しかも見たことのないものばかり」

 手が震えていた。

 そうかこの子は、霊感が強くそれを活かした精霊術士だ。

 俺には見えない化け物なんかも、見えているのだ。

 そうだとしたら、俺でも怖い。

「手、握ってやろうか」

「……」(こくこく)

 小さくて可愛らしい手を握ってやる。

 暖かくて、柔らかで、まるで小動物みたいだった。

 先を歩く妃とルーナにはバレていないだろう。

 まあこれは、俺のためじゃなくて梓紗が望んだことだから特に何も言われることはないだろうが。

「ついたよー。あそこ。人がいっぱい集まってるでしょ」

「そうだな。とりあえず行ってみるか。っていうか、看板があるな。なになに『ギルド』か」

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