第3話 恋と現れし黒竜

 とてもじゃないけど、俺の力でどうにかできる範疇を超えていた。


 どんな重火器を使っても、あんな火力は出せない。


 黒竜は起き上がり、魔法陣とともに蒼い炎を吐く。


「(むりだむりだむりだむりだむりだむりだ!)」


 逃げたい!


 でも……この感情はなんだ。


 そうだ『恋』


 俺は恋していたんだ。


 仲間と言ってくれた、三人に。


 そんな皆の勇姿から、逃げるわけにはいかない。


 戦えなくても、援護くらいはできる!


「この距離なら、アサルトライフルだな」


 看守が用意してくれた武器を思い出す。


 正直様々な武器を分解させてくれたのは、助かった。


 あの経験があったから様々な武器を生成できる。


 右手に世界樹を、その力を感じ取る。


 すぐさま、それを空気に纏い、物質を生成する。


 ほら、アサルトライフルの完成だ。


 たしかこれは、命中精度の高いH&K416(ヘッケラー&コッホ416)だ。


 といっても、銃弾はエネルギー弾だが。


 それでも経験上、実弾と同じだけ効力を発揮してきた。


 スコープで狙いを定める。


 途中で何度か叫び声が聞こえた。


「『朱雀』!」「『白虎』!」


『我から逃げることなど、不可能だと知れ!』


 見えた!


 雷が落ちた今だ!


 トリガーに手をかける。


「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


パァァァン!


 黒竜の開いていた左目に着弾する。


 これで目が潰せたはず!


『あたしの全力、受け取りな!』


 その瞬間、黒竜の首が飛んだ。


 殺れたのか……?


 妃が、二人のとこへ駆け寄る。


「(俺も、少しは役に立てたかな)」


 蓮夜も三人の元へ向かうのだった。




「んで、俺達は、異世界にいるってことか」


「そうであろうな」


 ルーナは先程の紅蓮の炎で薙ぎ倒した丸太に腰を掛けている。


 その横に座っているゴスロリ少女の梓紗が言う。


「あの龍は、殺しても良かったんでしょうか……」


「あそこまで襲われておいて、よく言うよ」


「神木は見てただけじゃね―か」


 その辺りから採ってきた草を敷いて、のんびり座っている妃が図星を付いてくる。


「いや、俺だって援護射撃はしたし……」


 確かにあの状況だと、一発撃ったことくらい気づかれないかもしれない。


 でもいいと思った。


 彼女たちを守れるのだから。


「私は……気づいてましたよ? 左目に銃弾が当たっていました」


「そうなのか、なんかありがとうな」


「?」


 梓紗は何に対してのありがとうなのかわかってなかった。


 いや、単なる感想だからわかって貰う必要はないんだけど。


 しかし彼女の戦闘能力には目を見張る物があった。


 まさかこんなに可愛い少女が、二刀の刀を持ち華麗に急所を狙うことができるとは。


 途中、尋常ではない動きをしていた。


「なあ、さっきの戦いでなんか口走ってたよな。あれ、なんだったんだ?」


「あれは、四神の力を借りていたんです」


 四神といえば、青龍、白虎、朱雀、玄武だ。


 昔本で読んだことがあった。


 それぞれが東西南北を守っているのだとか。


「そういえば、なんか薄っすらと色違いの炎に包まれているように見えたな」


「それが朱雀と白虎の守護炎です。それぞれの四神には別々の力があって、朱雀は俊敏性を高めてくれて、白虎は強力な力を与えてくれます。それがあるから、私は接近戦でも有利に戦えるんです」


「それがお前の最強たる所以なんだな」


「えーっと……それは違います。私の本来の力は、精霊を扱うものなのでそれのことだと……」


 絶句した。


 あの力が、本命じゃない?


 それなのに、あの戦闘力。


 一体最強の人類ってのは、どこまで強えんだよ。


「我の使った地水火風も、本来の力ではない」


「じゃあルーナは、なにが本命なんだよ?」


「くくくっ、よく聞いてくれた。我は大魔術師! すべての魔術を司る魔女だ。そして、その中には錬金術も含まれる」


 魔女と錬金術といえば、魔女狩りで有名だが、その認識でいいのだろうか。


 それにしては、バカでかい炎の塊や一瞬で雷を呼び寄せて、単なる魔術では語りきれないだろうに。


「じゃあなにか、その辺の枝を剣に変えることもできるってか?」


「出来るぞ」


「え?」


 挑発のつもりで言ったのだが。


 本当にその辺の枝を拾ってきて、渡してみた。


「これを剣に、だな」


 すると瞳を閉じて、なにか言っている。


「Primum ramum, deinde gladium.(元は枝、その後は剣)」


 言葉を発した直後、手と枝に水平に一メートルほどの七芒星を象ったような銀色の魔法陣が出現する。


 次の瞬間、形が変わり、それは西洋の剣へと変貌を遂げた。


「これ本物だ! 重いし、刃先も整えられている」


「だから言ったではないか。剣にできると。まあ、あくまで物質変換と形状操作を与えただけだがな。しかし侮るでない、変換された物質の効果はきれることはない」


「つまり、このまま剣として使えるんだな!」


「ああ、そうだ」


 だったら、腰につけていこう。


 何かの役に立つかもしれない。


「ちなみにあたしも、さっき見せた能力だけじゃないぜ」


 妃は言った。


「へえ、じゃあ何が出来るんだよ」


「それは、その時のお楽しみってことで」


「この期に及んで、出し惜しみかよ……」


 しかしその戦闘能力は完璧だった。


 あの黒竜を簡単に押さえつけ、あまつさえテレポートなんて離れ業もやってのけたのだ。


 それしかできないと言われる方が、逆に不自然だろう。


「では、そろそろ戦略を練ろうではないか」


 ルーナの言葉で、今までの情報をまとめた。


 結局のところ、ここは同じ世界樹のある異世界で、その世界樹は生きている。


 つまりその管理をしているものから、なんとかして雫をもらってくればいいのだ。


 どうやって元の世界に帰るのかと聞いたら


「我だけができる。心配するでない」


 ルーナが育ち盛りの胸を張っていた。


 それだけ自信があるなら大丈夫なのだろう。


 そして今後どうするかを考えた結果、世界樹の近くならばそこに街があるだろうという推論がでて、そこにとりあえずは行ってみようということだった。


「なら、あたしの遠視クレヤボヤンスで街を探してみようか?」


「そんなこともできるのか?」


「侮るでない。我も行方のわからぬものを探す手法なぞ、いくらでもあるわ」


「私も……式神を飛ばせば、すぐに見つかると思います」


 それぞれが別の力を使っても、結果は全く同じことができるということか。


 なんて汎用性の高い能力たちだろう。


 俺には到底真似できることではない。


「俺の能力だと、そんなことはできないから、誰かに任せたいところだな。でも別に全員がやる必要はないだろう? 誰か一人で十分じゃないか」


「決める必要はないよ? だってもう見つけたから」


 妃が言う。


「なんだと?」


「ここから北西に十五キロって感じかな。途中、道が付いてるから歩いて行く分には迷うことはないね」


 北西に十五キロって……そんな細かくわかるのかよ!


 さすがです、妃姉さん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る