第3話 夫婦の闘病生活
夫人は
「そばにいることが出来なくなるのなら
その瞬間まで私は主人のそばで過ごしていたい」
その日から夫婦の闘病生活が始まった。
夫人は驚いていた。
これほどたくさん謝る彼を見たことがない。
ごめんなというたくさんの謝罪。
体に悪いのになんにも食べなくなったりお風呂はもういいといったり。
そんな自暴自棄な態度を許せなかった。
「最後まで一緒にいたいと思うだからごめんではなくありがとうといってほしい」
さびしかった。悔しかった。でもいとしい人だから。
一番苦しんでいるのは彼だから。
たくさんたくさん苦しんでも、
お前でなくてはだめなんだといってくれる言葉が何よりうれしい。
苦悩する彼女にかける言葉は頑張っていきましょうだけであった。
ちょうど1年後、彼女たちの頑張りは終わりを告げた。
夫が亡くなってしまっても彼女は気丈にふるまっていた。
病院の関係者や、葬儀の関係者、親族の方々にお礼を言って回る姿が何とも言えない。
自分にできることがこれくらいしかないのかと歯がゆい思いをしていた。
私は彼女の手を握っていくことしかできなかった。
☆☆☆
勤務後、虚しさに襲われる。
そんなときには聖書を読む。洗礼を受けているわけではないので時には般若心経だって唱えるし、写経だってする。
宗教的なものというと怪しげなものを連想するかもしれない。
キリスト教系にしろ仏教系にしろ。
私個人的にはそんなことは思わない。
現代では建前と本音がまざりあって、
動物の本能と生死を技術で取り繕っているような気がする。
家に帰っても私の夫は「風呂、飯、寝る」を繰り返すだけ。
自分はあの奥さんのように、
泣いてあげることができるのだろうか。
きっとそれがわかるのは人生の終焉なのだろう。
END
務めと見守り 完 朝香るか @kouhi-sairin
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