第2話 理不尽に嘆く

 病棟に努めていると家族のほうがダメージをおっているということは

 よくあること。

「あんなにやさしい人がどうして病気にならなくてはならなかったの?」


 彼女はポロポロと疑問を口にする。

 病院においてこのような嘆きは珍しくはない。

 長年、病院勤めをしていると生死が重大ではなくなってくる。

 ぼんやりとよほど好きなんだろうなと思う。

 それだけ夫の背負っているものが大きいのではないだろうか。


 彼女は夫のもっているものを背負えないから泣いているのではないかと思った。


 自分は夫を愛してはいないのだろうかとも思えるくらい冷たい言葉しか浮かんでこなかった。冷たい観測を無理やり押し込めて彼女の近くに移動した。


 愛する人の苦労して支える人をケアしていくのも看護師の務めであるのだから。


 きっと一人で死と向き合うことになってしまって怖かったのだろう。


 お医者様に宣告された余命1年であること。次第に歩けなくなって、いなくなることが確定していることを私に打ち明けてくれた。


 彼女は涙を流しながら苦しい心情を吐露する。


「彼は私にこういったのよ。俺のことは忘れてくれ。君の生涯はまだ長いのだから。先のない俺に付き合ってくれることはない」


 彼にとっては精いっぱいの愛情なのだろう。

 残された人がその意図をくみ取り実践するまで長い時間が必要だ。

 病院だけでも行政の人たちだけでも足りない。

 彼女の周りに支えてくれるたくさんの友人がいることを願うだけ。

 なんと無力なんだろう。

 人間とは――

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