招かれざる客への妨害

 ここに来るまでに触れた、彼女の心。

 そこにあったのは理不尽さに対する疑問と、孤独になることへの恐怖。



 自分は、ここにいてはいけないのだろうか。

 どうしてここにいてはいけないのだろうか。



 ―――自分が、普通と違うから?



 自分がこんな風に生まれなければ、こんなことにならなかったのだろうか。

 友達が怖い思いをすることも、自分がこんなに自分を疑うこともなかったのだろうか。



 ……ああ、友達がまた一人いなくなっていく。



 一人は嫌だ。

 寂しい。



 どうせ一人になってしまうなら、いっそのことみんなで一つになってしまえばいい。

 そうすればきっと、もう寂しくないから。



「………」



 頭がぐるぐると回る。

 どうしようもなく泣きたくなる衝動が、どこかから込み上げてくる。



 ぐっと拳を握り、自分の爪を手のひらに突き立てる。

 そうでもしないと、自分が分からなくなりそうだった。



 自分が今までどんな気持ちで生きてきて、未来に何を思って今ここに立っているのか。

 自分を作り上げてきたはずのものが、どんどん抜け落ちていきそうで……



(だめだ。こんなこと考えちゃ。)



 拓也は思い切り頭を振り、勢いをつけてそこから立ち上がった。



「拓也…?」

「急ごう。多分、実はこの先にいる。」



 暗い世界の向こうを示し、拓也は告げる。



「ただ、この先はかなり覚悟した方がいい。ちょっと進んでみたけど、結構しんどかったから。」



「でも……」



 尚希が戸惑った様子を見せる。



「大丈夫か、お前…? なんか、やばそうだけど……」

「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから。」



 拓也は間髪入れずに言い返し、尚希の視線からのがれるように一人で先を進み始めた。



 そんな拓也にレイレンが物言いたげな視線を向けていたが、結果的に何かを訊ねることは叶わなかった。



「おい、待てって。」



 尚希が拓也を追いかけて、数歩足を進める。

 その瞬間、世界が一気に変化を見せたのだ。



 黒一色だった世界に、アナログテレビの砂嵐を思わせる光が不等間隔で明滅する。



 耳ざわりなノイズ音が光とは全く違う間隔で響き、視覚と聴覚の噛み合わなさに頭痛がしそうだった。



「こ、れは……」

「本当にひどいね。」



 尚希とレイレンは、それぞれ不快感をあらわにする。



「だろ? おれもさっき、こうなるとは知らずに進んじまって、なんとか戻ってきたとこだったんだよ。」



 二度目で多少免疫がついているのか、拓也は比較的穏やかな様子だった。



「うわ、吐きそ……」



 青い顔で口元を覆う尚希。



「って言っても、実を連れ戻すなら越えなきゃいけない山場だね。それに―――」



 レイレンが険しく目を細める。



「二人とも、けて!!」

「!?」



 突然叫ばれ、拓也も尚希もほとんど条件反射で地面を蹴った。



 遅れて視線を巡らせると、どこからともなく現れた木の根が、先ほどまで尚希たちがいた場所を貫いていた。



「はっ!?」



 拓也が瞠目する。



「さっきは、こんなのなかったのに…っ」

「それは君じゃなくて、僕とキースを狙ったんだよ。」



 レイレンはすぐに戦闘体制を整える。



「拓也君と違って、僕たちは招かれざる客だからね。実に近付く分、当然妨害も増えるさ。」



 次々に迫り来る枝を避けるレイレンの手に、変化が起こる。



 腕に絡んでいたあざが、ずるずるとうごめき始めたのだ。

 それはレイレンの右手の先に集まっていき、やがてその姿を一振りの剣へと変える。



 剣を握って枝を一刀両断したレイレンは、明滅する闇の向こうを睨んだ。



「ここまで好き勝手暴れられるってことは、いよいよ本格的に実が危なくなってきたね。キース、拓也君。しんどいかもしれないけど、一気に突っ走るよ!」



「了解!」



 レイレンと同じように手に剣を生み出した尚希が、先ほどまでの動揺を全く感じさせない動きでレイレンの隣に並んだ。



 その視線の先には、こちらを待ち構える大量の木々が。



 それを見据みすえ、レイレンと尚希は同時に走り出した。


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