フィルドーネとしての適性
長い旅をしているような気分だった。
川の流れに身を委ねて、どこまでも流れていくような感覚。
それは、なかなかに心地よい。
川を流されていく岩がどんどん角を削られて、いずれは小さな石になるように。
自分という存在が、この清浄な力に洗われて溶けていくような。
一つになるのが自然なことだと、無意識に思ってしまいそうだ。
「こらこらこらこら。」
途端に、呆れたような声が降ってくる。
「君は、自分の意志でここに来たんでしょ? よく思い出して。なんでここに来たの?」
なんで?
確認されるまでもない。
「あの馬鹿どもに、説教の一つくらいしないと気が済まない!」
断言した勢いで飛び起きる。
「……あれ?」
当然、思考がすぐに現実についていくはずもなかった。
「おはよ。」
ぱちくりと目を叩く尚希に、その隣でしゃがんで様子を
「うん、初めてにしては上出来じゃない。ちゃんと自分を保ってるね。」
尚希の状態に問題がないと判断したレイレンは、うんうんと満足そうに頷いた。
「初めてにしてはってことは、レイレンさんは何度かこういうことしてるってこと?」
「ま、仕事の兼ね合い上、多少はね。そうじゃなきゃ、迷わずにあんなことしないよ。それにしても……」
レイレンは、大きく溜め息を吐き出した。
「やっぱり、君の〝フィルドーネ〟としての適性はピカ一だね。すごいことになってるよ。」
「え……うおっ!?」
自分の体を見下ろし、尚希は目を丸くした。
肩から膝や足の先まで、たくさんの精霊たちが自分に張りついてこちらを見つめていたのだ。
つぶらな瞳から向けられる眼差しは、
なんだか、こんな視線を向けられるのも随分と久しい気がする。
〝知恵の園〟にいた頃のことを思い出して、胸の中に渦巻いていた戸惑いが一気に
「どうしたんだ?」
〝知恵の園〟でそうしていたように、にっこりと笑いかけながら一番手近にいた精霊の頭をなでてやる。
すると、彼女たちは明るく表情を輝かせ、楽しそうな声をあげながら自分の周りを飛び始めた。
「さっすがお兄ちゃん。手懐けるのが早いんだから。」
「手懐けるって……そんなつもりはないんだけど。」
確か以前、実にも同じようなことを言われた気がする。
「別に茶化してるわけじゃないよ。それも大事な〝フィルドーネ〟としての適性さ。僕の将来は安泰だよ。」
やはりからかっているではないか。
そう抗議しようとした尚希だったが、尚希が口を開くよりも前に、レイレンがその場を立ち上がった。
「ほらほら、はしゃがないの! 今は仕方なく許してるだけで、遊びに来たんじゃないんだからね!」
腰に手を当てて、レイレンが言う。
が、普段の彼が彼だけに、説得力と威厳が全くないのが痛いところだ。
精霊たちはくすくすと笑うだけで、レイレンを無視するように飛び去っていってしまう。
「あーあ、行っちゃった。遠足気分だなぁ。」
遊ぶように舞う精霊たちを見つめるレイレン。
「―――こんなとこではしゃげないよ。僕は。」
その瞬間、ぞっとするほどに彼の声の温度が下がった。
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