引き上げられる意識

 痛い。

 体中が痛くてたまらない。



 一体、何が起こったのだろう。

 気にはなったが、それもすぐに甘い睡魔に溶かされてしまう。



 そうだ。

 自分は、眠ることを選んだのだ。

 この痛みも苦しみも、眠ってしまえば分からなくなる。



 そうすれば、きっと―――





「それでいいわけないでしょ、まったく。」





 はっきりとした声が響いた。

 ゆらゆらと漂っていた体が、浮遊をやめる。



「ほら、戻っといで。みんな待ってるよ。」



 ぐいっと、体を引かれた。



 嫌だ。

 呼ばないで。



 そっちには行きたくない。

 そこは、自分がいるべき場所じゃない。



「そう思うなら、せめて自分からお別れしてくれる? こんな逃げ方、許さないよ。」



 体を引っ張る声は、厳しい言葉を突きつけてくる。



 体が浮上を続ける。

 暗い水底から、光の中に揺蕩たゆた水面みなもへと。



 嫌だ、嫌だ。

 ここから出たくない。





 ここを出てしまったら―――……




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