闇の奥で

 それから三人は、黙々と進んだ。



 皆の間に、会話はない。

 しかしそれは、気まずいというたぐいの沈黙ではなかった。



「……なんか、妙に静かだな。」



 誰もが感じていた違和感を、尚希が口にする。



 今ここには、自分の呼吸の音すらも聞こえてきそうなほどの静寂が満ちている。



 エリオスが現れるまでにあった派手な妨害もなければ、目が回るような砂嵐やノイズ音も一切ない。



 いつの間にか鉄の壁や壊されたレールも消え失せ、進む先には果てのない闇が広がっているだけだ。



「そうだね……」



 レイレンが、考え込むように口元を押さえた。



「さっきので諦めた……とは考えにくいから、妨害をやめて待ち構えることにしたってとこかな。」



「待ち構える? それって―――うわっ!?」



 言葉の途中で前方を行く拓也にぶつかり、それをまったく予期していなかった尚希は、その場でたたらを踏む。



「びっくりした……拓也?」



 怪訝けげんそうに尚希が呼びかけるが、拓也はじっと闇の向こうを睨んだまま動かない。



 ピリピリと張り詰める拓也の雰囲気。

 その理由は、すぐに知れた。



 ズッ……ズル……



 無音だった世界に響く、何かを引きずるような音。

 何かが、こちらに近付いてくる。



 息を殺し、心を鎮め、近付いてくるそれを待つ。



 何も見えなかった先に、ぼんやりと影が見えた。

 それは徐々に輪郭を得て、姿形をはっきりとさせる。



 そしてそれは、拓也たちから数メートル離れたところで動きを止めた。



「…………実……」



 拓也はうめくような声で、その名を口にした。



 三人の前に姿を現した実は、顔を深くうつむけたまま、じっとそこにたたずんでいる。

 その姿に、全員が表情を険しくせざるを得なかった。



 実の右半身が、太い木の枝に覆われていたのだ。



 枝は拓也たちが睨む今もうぞうぞとうごめき、侵食の範囲を広めようと枝を伸ばしている。



「……ごめん。」



 唐突に口を開くレイレン。

 彼は殺気とも思える鋭い魔力をまとい、拓也をやんわりと押しのけて前に出た。



 そして、こう告げる。





「実―――助からないかも。」




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