助けるために背負うもの

「それ、オレもついていくことできる?」



 顔を上げたレイレンに、尚希は真剣な口調で訊ねた。



「え? ………えっと……」



 言葉を濁すレイレン。

 それで答えを直感し、尚希は頭を下げた。



「頼むよ! 気付いた時にはもう終わった後なんて、そんなのもう嫌なんだ。待ってるだけなんて、耐えられないんだよ。」



 たくさんの経験をした。

 その中で、自分が知らない間に終わっていた出来事がどれだけあっただろう。

 ただ待つことしかできなくて、何度もどかしさに唇を噛んだだろう。



 衝動をこらえて見守ることも強さだと、最近はそう思えるようになった。

 それでも、少しでもそれ以外にできることがあるなら、自分はそこに手を伸ばしたい。



 実や拓也の前ではかっこつけて大人ぶっても、本当はいつもやりきれない気持ちが胸でくすぶっているのだから。



「こいつらには、まだまだ体当たりで教えてやんなきゃいけないことが、たくさんあるんだ。」



 尚希は、実と拓也を抱く腕に力を込めた。



 手間のかかる子供たちだ。

 素直に助けを求めてくれればいいのに、肝心な時ほど我慢しようとするのだから。



 こっちだって人間だし、四六時中見ているわけにもいかないのだから、察するにも限界があるというのに。



 それでも、家族のように愛しく思ってしまうのだから仕方ないじゃないか。

 この子たちに人の温かさを教えてやれる人間がいないなら、その役目は自分が買って出てやる。



 自分がこの子たちと一緒にいられる間は。

 許されるなら、彼らが笑って立っていられるようになるまで。



「キース……その……」



 レイレンの口調は、依然として歯切れが悪い。



「まあ、ね…。圧倒的に戦力不足だし、協力してくれるのは嬉しいんだけど…。でも、そうなるとちょっと厄介っていうか、なんていうか…。今はよくても、後々面倒になるんだけど……」



「まどろっこしい。」



 尚希はぴしゃりと一蹴する。



「簡潔に言ってくれ。どうせ、オレが覚悟してることと同じだろ?」

「……はぁ。そうくる?」



 とうとう折れたらしい。

 レイレンは深々と息を吐き出した。



 そして、尚希に向かってゆっくりと手を差し出す。





「この大地の呪いと、次代〝フィルドーネ〟の役目。双方を背負う覚悟は?」





 レイレンの口からその問いかけを聞き、尚希は満足げに口の端を吊り上げた。



 レイレンが躊躇ためらうのも分かる。



 実たちを連れ戻すために、彼は〝フィルドーネ〟の力を使うと言った。

 それに同行するということは、〝フィルドーネ〟の力に直に触れるということ。



 確実に大地の呪いの一部は、自分の中に根づくことだろう。



 それは理解している。

 その上で同行を申し出たのだ。



「愚問だな。」



 にやりと笑みを深め、尚希は躊躇いなくレイレンの手を取った。

 その瞬間体中につたが絡んできて、前方にぐっと引き込まれる感覚がする。



「その力の向きに逆らわないでね。――― 行くよ。」

「了解。」



 それが、この場で尚希とレイレンが交わした最後の会話だった。


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