破滅への誘い

「!!」



 異変にいち早く気付いたのは、レイレンだった。



 実周辺の魔力バランスが、一気に崩れたのだ。

 次いで、完全に支配できていたはずの木の根が、自分の意志に抵抗する感覚が襲う。



「やばい! 実が取り込まれかけてる!」

「!?」



 レイレンの言葉に、拓也が血の気を失くす。



「おい……ふざけるな! 戻ってこいよ、実!!」



 拓也はこれまで以上の力を込めて、実を揺さぶる。

 しかし―――



 ぱたり、と。

 頭を抱いていた実の両手が、突然力を失って落ちた。



 未だ苦しそうな顔をしている実だが、その表情に精霊へ抵抗しようとする意志はもう見られない。



「―――っ」



 呼吸が止まる。



 どうして……



 そんな思いが、脳裏を巡る。



 感じ取っていたではないか。

 実が消えてしまいそうな危機感を。



 それなのに、どうしてこうなるのだ。

 どうして、いつもいつも間に合わないのだ。

 どうしていつも、実はひとりで行ってしまうのだ。



 孤独の中で壊れてしまうくらいなら、たとえそこにどんな結末が待っていたとしても、せめて一緒に連れていってほしかったのに。



 心の底から、そう思った。



「!!」



 拓也は両目を見開く。

 いつの間にか伸びていた実の手が、自分の手首を掴んでいたのだ。



 一瞬期待し、すぐにその思いを改める。



 これは、



「なら―――」



 脳裏に響いたのは、幼子おさなごのような少しつたない声。



「なら、あなたも一緒に来る?」

「………」



 きっと、自分にしか聞こえていないだろう声。

 囁かれた言葉は、追い詰められた心にはあまりにも甘すぎる毒で―――



「だめ!」



 耳元で精霊の声がする。

 しかしもう、それで踏みとどまれる余裕などなかった。



「分かった。おれも連れていけよ。」

「!?」



 はっきり告げてやると、尚希とレイレンが息を飲む。



 意識が遠退いていくのは、あっという間のことだった。


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