揺れる、軋む―――落ちる……
「実、しっかりしなさい!」
実の家に駆け込んだ拓也たちを迎えたのは、詩織の甲高い悲鳴だった。
「実!!」
大急ぎでリビングに飛び込んだ拓也たちは、そこにあった光景に呼吸を奪われる。
リビングの中心で、実がうずくまっていた。
その周辺のフローリングは大きく割れており、その下から伸びてきた木の根が実を完全に捕らえている。
「まずい! とにかく、実をそこから離して!!」
叫んだそばから、レイレンが床に手を置く。
彼の腕からフローリング伝いに黒い
木の肌が徐々に蔦に侵食され、完全に黒く染まる。
それが、主導権の切り替わるタイミングだったようだ。
さっきまで実から剥がれる気配もなかった根がゆっくりと動き出し、床の下へと戻っていく。
その隙を
「実! 大丈夫か? しっかりしろ!!」
「う…」
拓也が呼びかけるが、実は自分の頭を抱えて小さく震えるだけだった。
「実! なんとか言えよ!! おい!! 実!!」
必死に呼びかける拓也。
そんな拓也の声が、とても遠い。
実は苦しげに顔を歪めた。
その双眸から、いくつもの涙が零れる。
みんなの声がする。
自分が行くべき場所はあっちだ。
戻らなくては。
分かっているのに……
―――嫌!
頭を貫くような声が、自分を捕らえて離さない。
―――嫌だ。行かないで。一人にしないで!
違う。
一人にするつもりはないんだよ。
ちゃんと君を受け入れてくれる場所は見つけてきたし、仲間もそこで君を待っているから。
そう伝えようとしても、暴走している彼女には全く話が通じない。
―――なんでここにいちゃだめなの? なんでお友達を取り上げるの? ……私がいるからいけないの?
「!?」
心臓が大きく鼓動を刻む。
だめだ。
これ以上、彼女の言葉を聞いたら……
防衛本能がけたたましく警鐘を鳴らす。
だけど……
―――私が、こんな力を持っているからいけないの?
「―――っ!!」
無情にも、今の自分には彼女の声から
―――私がいるから迷惑なの? お友達を増やしちゃいけないの? 私は……いない方がいいの?
悲痛な叫びに、心が揺れる。
もうやめて。
抵抗できなくなる。
お願いだから……
―――嫌だ。怖いよ…。一人は嫌。怖くて、つらくて、立っていられなくなりそうなの。
「や……め……」
息が苦しい。
鼓動が大きく響いてうるさい。
本当にやめてくれ。
これ以上―――自分と同じ気持ちなんかぶつけないでくれ。
必死に目を逸らしていたのに。
忘れていたかったのに。
それなのに……
―――嫌だ。寂しい。寂しいよ……
頭がおかしくなりそうだ。
彼女の声よりも、それにつられて
――― 一人にしないで。一緒にいてよ。あなたも寂しいくせに。同じなくせに。
「うっ…」
涙が止まらない。
これは彼女の涙なのだろうか。
それとも……
嫌だ。
考えたくない。
もう何も感じたくない。
さっきから、胸の奥で封印が揺れている。
この揺れがこれ以上大きくなったらと思うと、たまらなく怖かった。
―――寂しい……寂しいよ……
もう嫌だ。
お願いだから、もう泣かないで。
これ以上、自分の感情を乱そうとしないで。
もう――――― 一緒に行くから……
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