─根源─



 凄烈な〝あか〟が、文字通りに一息で故郷を消し去った。家屋も人も一緒くたに。〝覇者〟に相応ふさわしく、ぞんざいに。






 幼い日の僕はその光景に釘付けになった。絶望でなく、羨望の念から。




 どうしようもなく魅了された。そのつよさに囚われた。絶対的強者たるその姿に畏れを抱いた。人など永劫に及ばぬであろう偉容、その美しさは言葉にならなかった。







 心を奪われ陶然としたた僕の視界に一つの影が割り込んでくる。 






 ───だいじょーぶだからね───フーはあたしが守ってあげる───






 そのことばも、誇らしげに笑み崩れた横顔も、夢見心地の僕には、ひどく邪魔だった。








 いつもは後ろをついて回るくせして、今。りにもって、今なのか。




 




 ───巫山戯ふざけるな









 この甘やかなひとときを、逢瀬を、この記憶を誰にもけがされたくはなかった。






 熱に浮かされた視線の先で〝あか〟がその翼を悠然と広げる。




 すべては気紛れだろう。目についたから焼き払い、飽いたから去る。





 羽撃はばたきの余波で吹き飛ばされ、僕の傍に落ちた少女の事など意識の外に打ちてて、僕は〝あか〟とこの眼が魔法の鎖で繋がれているかのようにその姿から視線を外せない。




 僕の見知った何かだった灰と、散散さんざっぱら駆け回った土地のしょうしゃが巻き上げられ混ざり合う。


 そのただなかを〝あか〟が飛び去る様が、今も焼き付いている。



 だから、こんなにも焦がれている。



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