エピローグ

「ほら、フランクフルト。お好み焼きも買ってきたぞ」


 夜のとばりはすっかり下り、お祭り会場は異様な熱気で満たされていた。花火が見やすい位置にシートを敷き、太郎と千鶴子は座っていた。


「やったー、フランクフルト大好き」


 太郎は我先にとフランクフルトに噛み付いたが、思った以上に熱く、口の中でほわっ、ほわっ、とさせていた。


「もう始まる頃かねぇ、ほら、始まった」


 ドン、という音とともに夏の星空に花が咲いた。その度に歓声が湧き上がる。

 夏っていいな、太郎は目を輝かせてそう思っていた。


「ねえ、パパのお父さんって厳しかった?」


 元太はお好み焼きを箸で分けてから腰を落とすと、同じように花火を見上げた。


「そうだな、ゲームとか滅多に買ってもらわなかったし。ファミコンが最初で最後だったかな、壊しちゃった後は結局買ってもらわなかった、あれは悔しかったな——だから太郎にも同じ思いはしてほしくない、パパはそう思ってる」


 結局あの後は買ってもらえなかったのか、と太郎は思った。


「太郎のじいちゃんはな、太郎が小さい頃に死んじゃったから知らないかもしれないけど、怒ったら怖かったぞ。お尻ぺんぺん、って」

「あぁ、あれは痛そうだったよね」


 ん? と元太が太郎を見た。


「なんだそれ、まるで見てきたようだな」


 い、いやっ、想像でね、と太郎は頭を掻いた。


「今は色々物で溢れてて平和な時代だけど、あらゆるものへのありがたみだけは忘れちゃいけないよ」


 太郎はじっと元太をみた。それからまっすぐ夜空を見上げた。


「はい! わかりました」


 元太が太郎をひじでつっついた。


「なんだ、やけに今日は素直じゃないか。パパもこれからももうちょっと優しく言うようにするからな。それより——」


 元太が真剣な顔になった。


「宿題やったか?」


 あっ! いや、その……もじもじとする太郎に、元太が顔を近づけた。


「いいんだよ、別に。でもな、帰ったら寝るまでに必ずやれ、いいな」


 はあい、と太郎が力なく答えた。


「まあまあ、今はいいじゃないのね、せっかくのお祭りなんだから」


 夏の風物詩、夜空を彩る夏の花はまだしばらくは咲き続けるだろう。

 せめてその間くらいは宿題もスコッチも忘れて、遠い昔に思いを馳せてもいいんじゃないか、千鶴子はそんなことを思っていたのかもしれない。


(了)

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トンネルを抜けるとファミコンがあった 木沢 真流 @k1sh

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