パパは助けられなかった
「た、ただいまー」
太郎が家に着くと、玄関で祖母の千鶴子が待っていた。
「太郎ちゃん、遅かったね。どこ行ってたの」
「あ、あの」
太郎は、はあはあ言いながら、息をするのもやっとだった。
「パパは、パパは大丈夫?」
千鶴子はその言葉を聞いて、目を丸くさせた。それから気まずそうに俯いた。
「何でそれを知っているんかね、太郎ちゃん」
え、と声にならない息が漏れた。
「太郎ちゃん、落ち着いて聞くんだよ」
千鶴子がそういいながら、太郎の肩に手を置いた。太郎の全身の鳥肌が立ち始めた。
「あんたのパパはね、さっき死んだ」
太郎は言葉を失った。息だけでなく、まるで心臓までが止まったような感覚だった。
「嘘だ……なんで」
「あんたのパパはね、病気があって、薬を飲まなきゃいかんことは知っておるね」
太郎の手が震え始めた。
「その薬がね、無かったんよ、どこ探しても。残念だけどもう助からん」
太郎はその場にうなだれた。
そうか、あの薬で子どもの頃のパパは助かっても、今のパパは助からないんだ、自分はなんてことをしてしまったんだ。
「だからね、太郎ちゃん。祈りなさい、神様仏様に、ほら」
太郎はよく分からないまま祈りの姿勢を取った。
「一生懸命お願いしたらな、叶うことだってあるんじゃて」
太郎は祈った。一生懸命祈った。
「ごめんなさいごめんなさい、薬を持ち出したりしませんから、ちゃんとスコッチかたづけますから……。パパがいなくなればいいなんてもう二度と思いませんから、神様仏様、どうかパパを助けてください——」
必死の思いで合わせた手をこすっていると後ろから声が聞こえた。
「ばあちゃん、もうそこらへんにしてあげて。太郎も反省しているようだしさ」
へ、と振り返るとそこに元太が立っていた。
「パパ! なんで……」
あらためて千鶴子の顔を見ると、先程の真面目な表情とは打って変わって笑った顔になっていた。
「ばあちゃん、ひょっとして嘘だったの」
「そりゃそうよ、人間そう簡単に死なんて」
言いながらはっはっはっ、と大きな笑い声を上げた。
「太郎、そんな大事な薬だったらちゃんと予備くらい持っとくに決まってるだろ。お前が一個くらい盗んでもな」
そう言ってカバンの中から予備の薬のケースを太郎に見せた。
「なんか薬が足りない、って思ったから太郎が持っていったんじゃないかって。だからこれを機に薬の大切さを分かってもらおうと一芝居打つことになったんだよ」
思った以上にばあちゃんが名演技だったけどね、と言って元太は笑った。
「なーんだ、てっきり本当にパパが死んじゃったかと思った」
元太がひとしきり笑ったたと真剣な顔をして
「それより太郎、お前パパがいなくなればいいなんて思ってたのか?」
え、いやその……太郎は喉元を締め付けられたような気持ちになった。
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