稚魚放流
奈那美
稚魚放流
「皆さん。準備はいいですか?」
「はーい」
「はーい」
校長先生の声かけに、集まった生徒たちが口々に返事をする。
ここはコイデ川の上流。
今日はタケシが通うコイデ小学校の課外活動が行われる日だ。
ここコイデ川が流れるコイデ地区は自然が豊かで、山の幸川の幸に恵まれている。
けれど時代の流れか、年々その恵みも減少しがちになっていた。
このままでは、自然資源が枯渇してしまう。
そうなる前に、自然保護のために何かしなければ。
そのような意図で今日の課外活動が開催されることになったのだ。
今日の活動は稚魚放流。
コイデ川では、その昔はウナギがたくさん獲れていたらしい。
そこで放流する稚魚はウナギに決定された。
20センチほどまで成長させた稚魚だ。
まず地元のお年寄り……タケシの同級生アカリの祖父が、昔コイデ川でウナギを獲っていたという話をしてくれた。
身ぶり手ぶり交えての話に、タケシたちは大笑い。
校長先生たちも笑っていた。
そして、いよいよ放流。
タケシたちは3人ひと組になって、稚魚が入ったバケツをひとつずつ持って川に近づいた。
「せーの」
校長先生の合図と共に、各班がバケツの中の稚魚を川の中に水ごとひっくり返していった。
タケシも班の仲間と一緒にバケツをひっくり返す。
川に入った稚魚たちは一瞬の躊躇ののちに、川の中を軽やかに泳いで去っていく。
「元気に育てよ」
「大きくなるんだよ」
「立派に育てよ」
「元気でね」
みんな手を振りながら口々に、稚魚に向けて声援を送った。
タケシも大きく手を振りながら声援を送った。
「おっきく育てよ!」
(美味しく食べてあげるから)
稚魚放流 奈那美 @mike7691
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