さよなら

3ヶ月経って、私と優生は一旦帰宅した。


「おかえり」


「おかえりなさい」


「ただいまー」


沢山のお土産を持って、帰宅した私達を俊と茜ちゃんが待っていた。


「まだまだ、日本一周には時間がかかる」


「一旦、おしまいにして帰ってきたの」


「そうなんだね」


俊が、話があると言った。


「なに?」


「あのさ、同居出来ないかな?」


「うちじゃ、狭いだろ?別の場所に…。」


「ここが、いいんだ。」


「何で?」


「俺が、育ったこの場所がいいんだ。」


「私からもお願いします。」


理名と優生さんは、ボロボロ泣いていた。


「狭かったら、引っ越すんだよ」


「はい」


「嫌になったら、出て行くのよ」


「はい」


そう言って、同居してくれる事になった。


二階の部屋を俺と茜にくれた。


二人は、一階で充分だからと笑った。


話をしてから、二ヶ月後。


同居生活が、始まった。


優生さんは、この日出掛けていて俺はキッチンにいる茜と理名を見ていた。


「えっと、これね。こうやってね」


あの日、理名が俺に教えてくれたみたいに茜に教えていた。


暫くして、茜が…。


「お義母さん」


理名に抱きついた。


「理名でいいよ」


「ううん。お義母さん」


「どうしたの?」


「私は、お義母さんが大好きです」


「嬉しい!嫁、姑バトルになるかと思ってた。」


「なりません。お義母さんといがみ合う事なんてないです。」


「敬語じゃなくていいよ」


「お義母さん、私、本当にお義母さんが大好き。俊さんを素敵な人に育ててくれてありがとう。お義母さん」


理名は、ポロポロ泣いていた。


「茜ちゃん、ありがとう。私も大好きだよ」


理名は、茜を抱き締めていた。


晩御飯には、初めて出会った日のハンバーグがでてきた。


優生さんと俺とビールを飲んだ。


茜は、理名と楽しそうに、智天使ケルビムの話をしていた。


「ライブあったら、行きたいんです。」


「いい声だよね」


「歌詞も好きで!お義母さん、私と色んな所に行きましょうね」


「もちろん」


楽しそうな二人を見ているのが幸せだった。


「よかったな!俊」


「うん」


「何か、娘まで出来ちゃったな」


「優生さん、泣くなよ」


「手も今より一回り小さくて、身長なんてこんなんだったぞ!それが、今は俺を見下ろしてる」


「何だよ!それ」


「嬉しいんだよ!俊が、立派になって」


何で?そんなに優しいんだよ。


食事が終わり、茜と優生さんは、寝に行った。


俺は、お皿を洗ってる理名に近づいた。


「理名」


「寝ていいのに」


「皿、拭くよ」


「ありがとう」


理名が洗った皿を拭いていく。


「理名、ありがとな」


「何が?」


「金とか育ててくれたり、なのに、俺。」


「キスした事?」


俺は、驚いた顔をした。


「理名、知ってたの?」


「夢じゃなかったんだね。やっぱり。」


理名は、カチャカチャとお皿を洗ってる。


「嫌だったよな?ごめん」


「嫌とかじゃないよ。ただ、答えられなかったから、ごめんね。私は、気づいたら俊のお母さんだったから…。俊がどんな感情きもちを持っていても私はお母さんだったんだ。」


そう言って、理名は笑った。


わかってる、理名が俺を選ばない事も…。


俺の母親だった事も…。


それでも、越えたかったんだ。


俺は…。


理名を愛してたから…。


「理名」


「何?」


「俺のお母さんで、ずっといてくれよ!」


「当たり前じゃない」


「俺、理名と優生さんの介護するから!」


「いいよ、そんなの」


「したいんだよ。」


「俊」


俺は、理名の手を掴んだ。


「お願いだから、俺に介護をさせて!俺に、二人を見させて」


「俊、ありがとう」


「理名、俺の気持ちを否定しないで」


「それは、どの気持ち?」


「全部だよ。俺、ちゃんとけじめはつけてるから。理名も優生さんも傷つけるつもりはないから…。だけど、俺が理名に持っていた感情きもちを否定しないで」


「俊、わかった」


理名は、そう言って笑ってくれた。


「抱き締めていい?」


「えっ?」


「あの日、眠れなくて頼んだみたいな事だよ」


「わかった」


理名は、俺を抱き締めてくれた。


今だって、ほら心臓が壊れる程五月蝿いんだよ。


理名、ごめんね。


俺の事、きっと知ったら軽蔑する。


許してくれないと思う。



それでも、俺は理名が大好きだよ。


例え、理名を手に入れられなくたっていいんだ。


欲しいのは、近くにいる事だから…


理名が、死ぬまで近くにいる事だから…。


「俊、あの日よりお祖母ちゃんになったでしょ?私」 


俺から離れて、理名は笑った。


「全然、変わらないぐらい綺麗だよ」


「馬鹿じゃないの」


「かもね!手伝うよ」


「うん、ありがとう」


理名は、出会った時から、俺を恋愛対象に見てくれていないって知っていたよ。


それでも、少しだけ期待してたんだ。


でもね、俺ね。


この関係嫌いじゃないよ。


理名がくれた、この場所が嫌いじゃないよ。


俺は、理名も優生さんも傷つけたくないから…。


だから、この先も茜と一緒に嘘をつく。


でもね、あの頃みたいに苦しくない、悲しくない。


だって、理名はあの頃と違ってちゃんと俺を受け止めてくれたから!


愛してるよ、理名。


さよなら、俺の初恋。


これからも、宜しくね!



お母さん……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今でも、あなたが…。 三愛紫月 @shizuki-r

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ