昼休み
時間は昼休み。教室に入ると純の周りには人集りが出来ていた。
「お、優…少し長かったな。トイレか?」
「そうだけど…何?」
「まださっきの引きずっていると思ってさ…何もなければ良いんだ。」
「ありがとう、でもそこまで気を遣わなくて良いよ。」
まぁ、実際少し長かったのは用を足した後少し落ち着くまで個室に入っていたからである。純の読みは当たっているから恐ろしい。
「話は変わるけど、純の周りにいる人達は何なの?」
「今からドッチボールに行く所なんだ、優もやるか!?」
「…3つのボールを持ってるが大丈夫か?」
「…その言い方はやめろ。綾乃は何も言ってこないけど、おれは気にするぞ。忠告ならおっぱいが揺れるが大丈夫か?と言えよ。ついでに、おっぱいの事は余り気にしてないから大丈夫だ!」
「そこまで直接言わないけど、気をつけるよ。いつも綾乃にさっきみたいに拒絶しても本人は気にしないから知らないうちにきつくなってたな。…乳揺れは気にしろよ、ドッチボール所じゃなくなるから。」
「もう数年前からやってるから皆慣れてるぜ。」
純の周りにいる人達を見ると明らかに動揺していた。本人が気にしてないんだしこれ以上は言わない方が良いか。
「ちょっと、優!純ちゃんとドッチボールするの?ドッチボールが目的なんだよね!?」
「ドッチボールくらい別に良いじゃねえかよ!突っかかってくんなよ!」
「綾乃、優はおれとドッチボールしたいだけだからそんなカッカすんなよ。だったら、綾乃もドッチボールするか?それとも見にくるか?」
「…ドッ、ドッチボールはしないし見ないけど。」
「じゃあ、話はここまでだな。皆、はやく外に出ようぜ!」
遠目で見てくる綾乃を気にせず、純は皆と意気揚々に廊下に出ていた。
グラウンドに着くと、皆は直ぐにチーム決めじゃんけんした。じゃんけんしている時の一人一人の表情は鬼気迫るものだった。じゃんけんの結果、僕は純とは違うチームになった。
「優と同じチームになりたかったけどなぁ…まぁ、それでも負けるつもりはないからな。」
「俺も負けるつもりはないぞ。」
「じゃあ、最初は優からのボールで良いぜ。初めて一緒にドッチボールする記念で。」
「お気遣いありがとうございます。それでは遠慮なく…!」
僕は不意打ちで純にボールを当てようとしたが、純は難なく避けた。その時の純の2つのボールの揺れが凄かった。同じチームの男子は横目でそれらを真剣に見ていた。
「優ならそうすると思っていたよ。おれがボールを持ったら覚悟しろ。」
「…その時はお手柔らかにお願いします。」
試合は僕と純の2人になるまで続いた。試合を通して分かった事は殆どの男子は純の胸目当てだったが、一部の男子は本当に純に勝つつもりでドッチボールをしてたのが分かったのは良かった。何だかんだ皆は純とドッチボールがしたかっただけなんだな。
「優、どうした?ボールを持ってるのに投げないのか??」
「…純に隙がないから投げてないんだよ。フェイント入れても仲間にパスをして仕切り直しても当てられる気がしないんだよ。」
どうにか純に勝とうとしたけど勝つイメージが湧かない。それ程までに今の純に隙がない。ボールを脚に当てようと投げたが、容易く避けられてしまった。
「ふっ、そんなのでおれに勝とうとしてきたのか?」
「くっ…。」
先程から純に当てたくても当てられない状態が続いていたせいで、チームメイトのパスを純に取られてしまった。
「やばっ!?」
「さっきの仕返しだ!」
純が体勢を整えずボールを投げたおかげか咄嗟に避けれる事が出来た。ボールは敵の外野が掴む事が出来ず遠くに転がっていったのでその間に息を整えた。純の手にボールが渡った頃には避けれる程度には回復出来た。
「…まだ諦めてないみたいだな。」
「当たり前だろ、勝ちたいんだから。」
…とはいえどうするか。僕の動きは完全に見切ってるからボールを取る方法が思いつかない。1人残っていればボールと引き換えに犠牲に出来たけど、1人だからそれも出来ない。後ろに避けてボールをワンバウンドさせれば僕のターンに出来るけど純がそれをさせないだろう。…本当にどうするか。
「作戦は決まったか?」
「待っててくれてありがとうございます。もう少し待ってくれませんか?」
「…時間切れ♩」
僕は右と見せかけて左に避けようとしたが純は物凄い音をたてて僕の右足首にボールを当てた。
…負けた。完膚なきまでに負けた。本当に女なのかと思うくらい強かった。
「よし、10分前くらいに教室に戻るからこれで終わり。はやく教室に戻るぞ!」
純の号令で皆で教室に戻った。
教室に戻ると、綾乃が怪訝そうな顔で僕を見ていた。ドッチボールしてた皆が汗だくな姿を見ると目の前の友人と会話し始めていた。
「いや〜…優、ドッチボール強かったな。」
「嫌味か?」
「本当本当!おれに本気で勝とうとする人と同じくらい強いから驚いたぜ。」
「…ありがとう。」
「純殿がここまで初対面の人に心を許すとはやるではないか、お主!」
「そうですな!いつもの純ちゃんなら楽しかったの一言で終わらしてますな。」
声をしてる方に顔を向けたら吹き出してしまった。僕に声をかけた2人はポッチャリ系のアニオタの格好とガリガリの文芸オタクの格好をしていたからだ。
「ふふっ…この2人は純の友人?」
「よくぞ聞いた、ボクは純殿の友人の1人宅田 清(たくだ きよし)!」
「そして、ワレも純ちゃんの友人の1人小田 浄(おだ きよし)!」
「「2人揃ってオタクズです!!」」
僕は爆笑していたが、周りの皆は平然としていた。
「えっ何で皆何のリアクションもしてないの?」
「優…2人は自己紹介の時にそれやってたぞ。」
何てこった!僕は綾乃のせいでこんな面白いものを見逃していたのか!?…綾乃め!!
「そう言えば、優くんは読書が趣味だったのですな。ワレのオススメの本を紹介させてくれますかな?」
「おれに合う本を紹介出来るの?」
「恐らく優くんの見たい本のジャンルは綾乃ちゃんの恋話によると、流行り物でドラマやアニメになってるもの。つまりは今ドラマでやっている小説をご希望ですかな?」
「…当たり。」
「それなら今この学校の図書室にございますよ。放課後にお借りしてはどうですかな?」
「ありがとう。…君、有能すぎない?」
「いえいえ、常日頃から純ちゃんの為に良い本を紹介してるが故に身につけた能力ですからそれ程のものではないですよ。」
「…という事は宅田くんにも何かあるのか?」
「ふっふっふっ…ボクにはオススメアニメを紹介する能力がございますぞ!」
「見たまんまの能力だなぁ。」
「それと今日のニュースで何があったか純殿にこの時間に話してますな!来週には花粉が酷くなりそうだから皆のものマスクの準備をする様に。」
「何だ、君も有能じゃないか。」
「優殿、褒めても何も出ないでござるよ。出るのは感謝の印に握手する為の手だけでござる。」
僕は宅田くんが差し出してきた手を握っていた。正直、こういうノリは嫌いじゃない。
「この2人が優と仲良くなって良かった〜…。小学3年の時に昼休み暇してたから遊び誘った初めての友人だけど殆どの人は嫌がるんだよ。おれがテレビや本を余り見ないと言ったらおれの為に今日のニュースやオススメの本を教えてくれる様になったんだ。そのおかげか今ではクラスのマスコットなんだよ。」
この話を聞いて、改めて本当に純は良い人だと思った。
小さな恋愛ごっこ 迷人 @meizin
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