第11話【今日も彩花は俺を揶揄う】

「なぁ、そろそろ帰った方が良いんじゃないのか? 親も心配してるんじゃないのか?」


 時刻は午後六時。

 外もだんだんと暗くなり始めてきた。

 昨日彩花は母親に電話で俺の家に泊まることを伝えたけれど、次の日の夜まで帰ってこないと心配されるだろう。


「何? 私に帰ってほしいの?」

「いや、そういう訳じゃなくてさ。もうすぐ外は真っ暗になるし、街灯もそんなにないだろ?」

「悠太家まで送ってよ」

「それは良いけど、親に心配されてないのか?」

「うーん。あ!」


 すると彩花は何かを思い出したかのような声を出した。


「どうしたんだよ」

「そうだった! 私お母さんにケーキ買ってくるって約束したんだった!」

「あー、そういえばそんな約束してたな。それで? その店って何時までやってるんだよ」

「六時半まで」

「あと三十分しかないじゃん。今すぐ出てけば間に合うか?」

「多分間に合うと思う」

「じゃあ行くか」

 

 約束したんだから仕方ないよな。

 守れるものは守らないと。


「良いの?」

「約束したんだろ?」

「ありがとう」


 彩花は直ぐに持ってきた荷物をまとめ始めた。

 

「休みの日のこの時間に制服着てるなんて珍しいよな」


 俺は制服姿の彩花に向ってそう言った。

 彩花は制服しか持ってきていないし、俺の服を貸しても良いんだけど……。


「悠太も制服着てくれれば制服デートしたって思ってくれるかもよ?」

「めんどくさいから着ない。行くぞ」


 俺達は少し早歩きをして目的のケーキ屋までやって来た。

 俺も何度か来た事のあるケーキ屋だ。何度かと言っても二回くらいだけど……。


 そしてお目当てのケーキを買い終え、そのまま彩花の家まで送ることになった。


「悠太も買っていけば良かったのに。すごく美味しいのに」

「ケーキって最初は美味しいけど最後の方とか食べれなくなることない?」

「私は甘いもの大好きだし、あそこのケーキは最後まで絶対食べれるよ?」

「……じゃあまた今度行ったら買うよ」

「じゃあ一緒に食べよ?」

「時間が合えばな」


 彩花の家まではさほど距離はない。

 もう少し歩いたら着いてしまう。


「悠太、はい」


 そう言って彩花は俺に左手を差し出してきた。


「何? なんもないけど」


 俺に差し出してきた左手には何も乗っていない。

 

「ば~か」


 そう口にして、彩花は俺の手を握った。

 そう言う事かよ。


「また泊まらせてね」

「休みの日な」

「やった!」


 あと彩花の両親さえ良ければだけど。


 しばらく歩くと、彩花の家の前にやってきた。


「ありがとう、悠太」

「じゃあ、またな」


 俺が手を振って帰ろうとすると、彩花が俺の名前を呼んだ。


「どうしたんだ?」

「最後に可愛い彼女にハグしてから帰る?」


 彩花はこうやって、今日も俺の事を揶揄ってくる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染が「私の胸揉む?」と揶揄ってきたので本当に揉んだ結果 月姫乃 映月 @Eru_ZC

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ