第10話【理想】

「ごちそうさまでした」


 両手を合わせ、そう口にした後に彩花の顔を見ると、むすっとした表情を浮かべていた。


「どうかしたのか?」

「別に~、なんでもないよ」

「なんでもあるやつの言い方だろそれ」


 そう言っても彩花は「別に~」と頬杖を付きながらそう言ってくる。


「別に何もないなら良いけど」


 俺が皿を洗い場へと持っていこうとすると――


「あ、ちょ、ちょっと待ってよ」


 彩花は急いで立ち上がり俺の所へと駆け寄って来た。


「どうしたんだよ」

「むぅ」


 俺の袖を掴みながら彩花は膨れっ面をしてきた。

 何がしたいんだよこいつは……。


「悠太が全然私にかまってくれないし優しくしてくれないから不機嫌になってるわけじゃないもん」

「なるほどな。別に構ってはあげてると思うんだけど」

「全然だも~ん。悠太って私よりも好きな人いるの?」

「は?」


 唐突な質問に俺は少しだけ固まってしまった。


「どうしたんだよ急に」

「ちょっと心配になっちゃっただけ。本当は私よりも好きな人が居るから本当はその事付き合いたいって思ってるのかなって」

「……別に居ないけど」

「……本当に?」


 俺はその問いに頷いて答えた。


「じゃあさ、悠太の理想のヒロイン……彼女ってどんな女の子なの?」

「理想……か。別に理想なんて特にないけど」

「あるでしょ!? 髪の長さだったり服装だったり甘えてほしいのか甘えさせてほしいのかとか」

「うーん……髪はどちらかといえば短いより長い方が好きだけど」

「ふ~ん」


 そう言って彩花は自身の髪を触り始めた。

 彩花は綺麗な栗色のミディアムヘアだ。

 もしかして気にしてしまったか? でもミディアムも短いわけじゃないと思うんだけど……俺の中ではボブまでの事を短いと思っているからな……。


「別に伸ばそうなんて思わなくても良いからな? 短いからって嫌いになるわけじゃないし」

「べ、別に私の自由だから良いでしょ?」

「まぁ、それはそうだけど」

「他にはないの?」

「ない」

「ないの⁉」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る