第23話 賑やかな昼休み
「はぁー」
昼休み時間になった直後、想定通り俺はクラスの連中に質問攻めされた。人は好奇心に抗えないから、仕方ないだろとは思うけど、どんな質問、または尋問を訊かれても当然嘘のない答えを出した。そしてやっと解放された時はすぐいつものランチスポット、学校屋上の小屋の隣に腰を下ろしてそんな長いため息を吐いた。
「だ、大丈夫ですか?
「あははは、さっきのため息は大丈夫って感じじゃなかったね~」
「お前、自分の兄が困ってるのに、なぜそんなに嬉しそうなんだ……まぁ、そうだな、俺は大丈夫じゃないよ、
先に来ていた文乃ちゃんが心配そうな表情で俺を見つめているが、一方俺の妹、
「なぁ、奈々子。お前少し文乃ちゃんを見習えよ」
「いきなりイモハラ!?」
「何イモハラって」
「イモウトハラスメント」
「あるかんなもん」
「ふふっ、お二人は本当に仲が良かったですね」
「まぁね!でもあたしとふみちゃんも仲良しだよー」
と元気な声色で言った奈々子が文乃ちゃんをハグして、彼女の頬に自分の頬を擦り付ける。こうして見ると本当に微笑ましいな。文乃ちゃんもまんざらでもなさそうだし……うん、ご馳走様。
「おう
左側からいきなり名前が呼ばれて、反射的に視線をそっちに移ったら、
「ごめんね、政也くん。
卓たちの後ろから現れた文香がなぜか申し訳なさそうな表情で事情を説明した。
「いや、なんで謝るんだお前は」
「秘密基地教えたから?」
「子供か!?……まぁ、ここは別に秘密の場所じゃないから誰にも教えたって大丈夫だぞ。てか俺昼休みいつも屋上にいるって前から卓たちに言ってたしな」
「え、そうなの?」
「あはは、そうだよ。実はもう知ってた。ごめんな、朝倉さん」
「まぁ、大丈夫だ卓。お前がなぜ遠まわしに文香に聞いてたか分からんが、どうせ文香も丁度こっちに行くところだったと思うしな。な、文香?」
「うん、まぁそうだけど」
「でも今日が初めてかな、お前ら3人揃ってこっちに来るのは……で、一体用件はなんだ?まさかとは思うけど……」
「あぁ、そのまさかだよ」
「……とりあえず皆座ろうか」
午前中の授業で俺はこの3人に噂を流した本人のこと知っているかと聞いてたけど、まさかこんな短時間で答えが出たとは……
そして、最初にその噂を流したやつは新聞部所属の
「皆は噂を流した人を探してたの?」
「まぁ、そんなところ」
「もう見つけたっぽいけど、その人に何かするつもり?」
「いやまぁ、大したことないよ、文香」
「暴力は―」
「しないからな」
「そ、そう……ならいいわ」
文香といい校長先生といい、なんで皆は俺が暴力を振るうとか思ってるんだ。俺って実はそんなに暴力を振るう人って見えたのか?
「にしても、よくこんな短時間で本人を見つけたな。一体どこ情報?」
「まぁ、凄い人から情報をもらったよ」
「凄い人って?」
「ったく、素直にカノジョから情報をもらったって言えばいいじゃねーか、卓」
「竹尾、お前な……まぁ、彼女からもらった情報だよ」
少し竹尾にからかわれた卓が恥ずかしがっているからか顔を赤らめた。そいや卓彼女いるって前から知ってたけど、正直誰だかまだ知らない。卓は自分の彼女についてあまり話さないからな。
「彼女を凄い人と呼ぶって、自慢か」
「違えぇよ。実際女子バレー部の部長でこの学校の副生徒会長やってるんだよ」
「は?」
白状した卓に俺は目を見開いて驚いた。まさか副生徒会長が卓の彼女とは。その彼女のこと俺は正直顔意外に名前と学年ぐらいしか知らなかった。彼女は3年生で、名は
その人について、彼氏である卓にいろいろ言いたいことあるけど、今はそいう場合じゃないからやめておこう。
「どうした政也?そんな驚いた顔して」
「いや、流石に驚いたわ。まさか副会長がお前のカノジョとは」
「本当ね。まさかあの桜木先輩が沢村くんのカノジョだなんて」
「政也も朝倉さんもそんなあからさまに驚くなよ。なんか俺が彼女と釣り合わないみたいじゃないか。自身失くしちゃうよー」
「い、いいえ!そんなことは私全然思ってないよ!?」
手を振りながら文香が否定しようとした。嘘バレバレすぎんだよお前は。でもそんな慌てふためいた文香を見て、卓は小さく笑い声を出した。
「前から思ったけど、朝倉さんって素はこんなんだね政也?」
「あぁ、可愛いだろ?」
「かっ!?」
「あっさり本人の前で可愛いと言えるお前を尊敬するわ」
「大げさな。そいや桜木先輩のこと知っているのか文香?」
「うん、たまに
「あぁ、そっか……」
副会長の座にいながらバレー部の部長やってる。生徒会室にほぼ顔を出さない理由はきっと部活が優先だからだろ。エマ先輩以外の生徒会役員も同じ理由で生徒会の仕事をほったらかして、そのせいでエマ先輩が苦労して皆のカバーをしてる。
「政也くんこそ桜木先輩のこと知ってるの?」
「ん?いや、顔と学年ぐらいしか知らないな」
「よく生徒会室にいるのに?」
「ん、そうだよ。てか桜木先輩が生徒会室にいる自体見たことないな」
「そ、そっか」
「あれ?お前ってよく生徒会室にいるのか政也?」
「あぁ、たまにエマ先輩の手伝いとかかな」
「「は?」」
竹尾と拓、二人揃って同じリアクションをしてたが、よく思い出すとこの3人まだ知らなかったな。てかその二人の間で一番驚いたのは拓だけど、もしかしてエマ先輩が好きなのか?……いや、エマ先輩が好かれるなんて当たり前の事ぐらいモテるからこれは愚問か。
「お前ってマジ何人愛人を作るつもりなんだ?」
「愛人ってお前な…」
「で、桜川先輩とはどいう関係だ?」
「いやただの先輩後輩だが……」
「本当か?」
「まぁまぁ、好きな子が誰かに取られそうになったからってそんなに政也を責めんなよ、拓」
「す、好きじゃねーし」
「いや、どう見ても好きだろ」
「いやだから好きじゃなくて、憧れなんだよ」
「憧れ?」
「そうだよ……ほら、桜川先輩ってめっちゃ二次元キャラっぽくないか?あんな美貌で淑やかな性格、しかもモテモテなのに彼氏いないとか、ラブコメによく出てくるヒロインの素質があると思わないか?」
急に早口になった拓を見て、俺たちは同時にため息を吐いて呆れた。拓のオタクのレベルはここまでだったとは思わなかった。
「……お前らなんで呆れとるんだ?」
「いや、よく分かったなと思っただけだ。お前の言い分は理解しているが、お前が言っていたその素質なら、文香も二次元キャラっぽいってことか?」
「そう言われると確かに……いや、でもこれはやめておくわ」
俺を見ながらそう言った拓に、俺は首を傾げ、「ん?どうした」と分からないふりをしてた。こいつが言いたかったことちゃんと理解しているからな。そして話題になってた文香本人を見て、なぜか彼女は顔を赤らめた。まぁ、こちらもそっとしておこう。
「そいや今更だけど、お前ら昼食は?」
「ん?あぁ、さっきお前がクラスの連中に問い詰められた間に済ませたよ」
「私も」
「あぁそっか。通りで手ぶらってわけか。まぁ、残り昼休み時間がわずかだし、俺も早めに弁当食うか」
弁当箱のフタを開け、「いただきます」と言ってから、俺はいつもより早めなペースで弁当を食べる。そいや春日部の件はどうするかな……
今日の放課後、すぐ2年D 組に足を運ぶか、それともどっかで待ち伏せをするか……まぁ、どちらにせよ今日は必ずあいつを捕まって、どうするかはあとで決めるわ。
「なぁ、政也」
「ん、なんだ竹尾?」
「あれ、大丈夫なのか?」
何がと返事して、竹尾が指さす所に視線を向けたら、奈々子がまだ文乃ちゃんをハグしてる。おい、まさか卓たちが来てからずっとああなのか?結構長話してたと思うけど……
「奈々子、そろそろ文乃ちゃんを解放したらどうだ?」
「いやだもん」
「お前飽きもせずよくほぼ毎日してるよな……」
「だってふみちゃんに抱きしめるの気持ちいいよ?そうだ、兄ちゃんもそろそろ交ざったら?」
「でっきるか」
「あら、残念」
「わ、私は大丈夫ですよ、政兄さん……こうされるの別に嫌じゃないですから……」
「そ、そうか。まぁ、奈々子がやり過ぎたら拒絶していいからな」
「……はい」
そう返事した文乃ちゃんだけど、なぜか不満な顔をしてるから俺は首を傾げながら解釈しようとした。
「なぁ、政也」
「なんだ竹尾?」
「今更だけど、そちらのメガネ子って誰なん?兄さんって呼ぶけど、セカンド妹か?」
「本当に今更だな。見て分からないか?文香の妹だよ」
「え?」
そんな答えを聞けて、竹尾が朝倉姉妹を比べ始めて文香と文乃ちゃんを繰り返して見てる。
「よく妹さんを見ると、確かに朝倉さんに似てる。こっちは隠れ美人属性か……」
「いきなりオタク関連のことを言うのやめろ、拓」
「あはは、確かに朝倉さんに似てる……でもまぁ、お前はこれから大変そうだな、政也」
「何のことだ?」
と卓に返事して、あいつは「ったく、もう分かった癖に」と答えた。すまんが、正直分からんぞ、卓。本当は詳しく聞きたいところだったが、昼休み時間が迫るから、俺はまたもぐもぐと昼食を再開することにした。
親友の元カノに好かれるのは嫌ですか? 黒沢マサ @kurosawamasa
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