第22話 頑張って勇気を振り絞った

 校長室からの呼び出しが終わって、俺と相羽あいば先生がやっと教室に戻ったら、中にいる全員が口を閉じたまま俺たちを見ている。そんな沈黙の中で、俺は早速教室の壇上に向かって、皆にあの噂が嘘だと伝えようとしたけど、いざ壇上に立って教室全体を見渡したら、なんか急に口が重くなった。


 こうして壇上に立ってるとか、いつぶりだろう。てかこんなに緊張するもんだったっけ?と思い出しながら俺は右後ろにいる相羽先生を見てたら、一度深く息をしてなんとか勇気を振り絞った。


「ごほんっ……皆は噂についてもう知っていると思うから、俺はこの場を借りて皆に伝えなきゃいけないことがある」

「前置きなげーよ!」

「さっさと本題に入れ!」

「そうだそうだ!」


 あ、ダメだこりゃ。多くからの眼差しが怖すぎ。あ、後ろに振り向いたらなんか相羽先生の手が震えてると見えた。こうなったら早速本題に入るしかないな。前置きしなかればよかったと今後悔した。


「よし。真面目に言うと、あの噂はデマだ。俺と相羽先生は全然噂通りの関係じゃねーし、昨日会ったのも本当に偶然でしかなかった」

「で、せっかく偶然会ってたから、二人きりでどっかに誘って、あの場に辿り着いたと?」

「いや、実際俺を含めて4人いた。俺の妹と相羽先生のご友人があの時丁度トイレに行ってたから写真に写らなかった」

「信じられんな。4人での証拠写真があれば納得できるけど」

「残念ながら俺たちは写真を一枚も撮らなかったんだ。でも、証拠か……まぁ、相羽先生の口からでも信じてもらえなさそうから、1年A組所属、春川はるかわ奈々子ななこ、俺の妹に直接聞いてみたほうがいいかと」

「え、あの子お前の妹だったの?」

「あぁ、そうだけど?」


 新学期一か月も経たないのに、なぜこのまだ名前を覚えてないくんが奈々子のこと知っているんだ?


「そうか。似てねけど苗字一緒だし、本当なのようだな」

「奈々子のこと既に知っているお前はあいつと何があった?」

「なんもねーよ。さてはお前、過保護なシスコンだな」

「過保護で悪いかよ。って脱線じゃねか。とにかく要するに、俺と相羽先生は恋仲じゃないから、その噂は本当にデマしかないんだ」

「……あの!」

「っ!」


 はっきりと説明し終わったところで、文香ふみかが突然自分の席から立ちあがって真剣な眼差しでこちらに見つめている。


「なんだ、文香?」

「……そいう関係じゃないって言ってたけど、政也くんが相羽先生の頬っぺたを触れている写真を見たら、納得できないよ」

「あ、そいえばそうだったのね」

朝倉あさくらさんが言わなかったら気づかなかったわ」


 あぁ、やっぱ皆の注目は俺と相羽先生が二人きりで外出してることだな。俺が相羽先生にあんな行動をしてしまったことなんて文香が言わなかったら気づかなかったんだろ。てか文香余計なこというんじゃねーよとツッコみたかったけど、別にやましいことしてなかったから、ここも上手く話せばノープロブレムだろ。


「そのことなんだけど、あれは本当に百パーセント俺が悪かった。あの時先生の口回りにクリームがついてるから、俺は許可なくティッシュで拭き取った。深く反省してたよ」

「あぁ、政也くんならやりかねないもんね。分かった、正直に答えてくれてありがとう、政也くん」


 呆れる顔で喋った文香がどうやら理解してくれた。って、政也くんならって何?とまた着席した文香を見て、今度は彼女がむすっと頬を膨らませる。あからさまな嫉妬心だな。


「ツッコみたいところあったが、分かってくれてありがとうな、文香。で、まだ信じてないやつもいると思うけど、俺と相羽先生は本当にそいう仲じゃないんだ。だから、ん?どうした宮田みやだ?」


 無言で手を挙げるイケメンのサッカー部エースの宮田みやだ玲央れおを見て俺は首を傾げるしかできなかった。文香関連で話しかけられた時以来ほとんど関わらなかったな。さて、どうしたんだ、サッカー部のエース?


「俺ぶっちゃけ興味ないけどさ、この件はお前らが信じようが信じないが好きにしろ。だが今より噂を広げるのやめろと春川はるかわがそう言いたかったろ。つか相羽先生のほう見ろ。彼女があんなに落ち込んでるところ見たことあるのか?ないだろ?ならこんなバカ噂の真実は春川が口にしたままに思えろや」

「宮田……お前っていいやつだな」

「うっせ。俺はさっさと授業を受けたいだけだ」

「真面目か!?」


 宮田の意外性に俺は驚きで彼をそうツッコんだ。目を見開いて驚いたヤツも結構いるな。そこまで意外ってことか。


 宮田の印象は結構変わったけど、さっき彼の短いスピーチをこの噂が広がらないよう利用させてもらおうか。


「ありがとう、宮田。で、宮田の言う通りだ。信じてもらわなくても結構だけど、この噂を広げないで欲しい。俺のせいでもあるし、退学処分は覚悟したが、何も悪くない相羽先生の印象が悪くなってしまうから、どうかこの噂を広げているのをやめて欲しい」


 そう言って、俺はさっき校長室にいた時のように深くお辞儀してたら、後ろにいる相羽先生も同じ深さのお辞儀をしてる。数秒後、「あぁ、分かったよ。取り合えず今お前を信じてみるわ」と一人の男子生徒の声がしたので、俺はまた面を上げる。


 続いて、ほかの奴らも彼みたいに賛成したという声がだんだん聞こえて、少し安心した。当然後ろの相羽先生はプレッシャーから解放されたかのように、安堵した表情を見せた。


「皆、本当にありがとう。今度マカロン作って皆に配るよ」

「ぶっははは、女子か!?」

「おー、楽しみに待ってるぞ」


 そんなこんなで、クラスがまた騒がしくなり、ピリッとした空間がもう感じてなかった。校長先生も確かに協力してるけど、実際噂が消えることができるかどうかはまだ分からん。まぁ、取り合えず一件落着……いや、まず初めて噂を流したやつを見つけてからそれを言おう。


 そしてこの後俺はすぐ壇上から下がって、自分の席に着いてから、申し訳なさそうな表情がまだ少し見えてる相羽先生が今日の英語の授業を開始する。

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