09-04:「ローボ・ロッホか!!」

 Y級巡洋艦アソーレスと麾下の駆逐艦三隻は対艦レーザーによる砲撃を開始した。


「学園宇宙船、通信を無視! さらに前進しており、止まる気配はありません!」


「前方に回り込み、威嚇砲撃を行え! しかし直接当てるなよ、人質は一人でも多い方がいい!」


 ホプキンスがそう命じる。


 不可視のレーザーは学園宇宙船の外壁ぎりぎりを掠める時に、その構造材を気化させて閃光を発した。


 だがそれでも学園宇宙船は止まろうとはしない。


 指揮官席のギャレット司令は汗ばむ手で肘掛けを握りしめていた。出来れば無傷で拿捕したかったがそうもいかないようだ。


 アソーレス以下の艦隊と乗員はあくまで海軍所属。


 敵艦に突入して交戦、奪取するだけの戦力は持ち合わせていない。


 そもそもバーナクル辺境空域に到着する以前に、突入した部隊による学園宇宙船内は混乱しているはずだったのだ。


 だが、どうした事だ。


 こちらへ向かって前進してくる学園宇宙船からは内部の混乱など微塵も感じさせない。


 威嚇砲撃にも怯む様子は無い。


 如何に巨大で鈍重な艦と言えども、内部の式命令系統に混乱があれば、その挙動に異変が見て取れるものだ。


 長年の経験からギャレット司令はそれが分かっていた。


 しかし目前の学園宇宙船は彼等など存在しないかのような威圧感で迫ってきている。


 それはまさに威風堂々という言葉が相応しい。これでは脅しているのがどちらなのか分からない程だ。


 落ち着け、優位に立っているのは我々だ。


 ギャレット司令は自分自身にそう言い聞かせる。


 学園宇宙船は内部に潜入した兵士の戦闘でダメージを受けている。


 如何に頑丈と言えども、申し訳程度の対空砲では巡洋艦や駆逐艦相手に渡り合えない。いざとなれば艦砲射撃を加え無力化。しかるのちに兵員を移乗させ、姫殿下一人だけを確保しても申し訳が立つはずなのだ。


「さらに砲撃を加えよ! 少しくらいなら当てても構わん!! 平行して繰り返し停船を命じろ!! 学生に舐められてどうする!!」


 ギャレット司令は自らを鼓舞するようにそう命じた。そこにレーダー手から新たな報告が入った。


「司令、リープストリームから艦艇が降下してきたようです。複数、確認されましたが、まだ総数は不明。艦種、所属も不明です」


「引き続き観測しろ。おかしいな、デルガドから増援の連絡は無かったはずだが……」


 アソーレスブリッジクルーは、ギャレット司令に首を傾げる暇さえ与えぬ程に優秀だった。

 すぐさま艦種を判別した。


「艦種、分かりました。帝国海軍駆逐艦Z級1173。公式データの艦籍はロスト扱いですが、これは……」


「『紅い狼』! ローボ・ロッホか!!」


 ディスプレイに表示されたZ-1173の姿にギャレット司令は指揮官席から思わず立ち上がってしまった。真紅に塗られた駆逐艦に見覚えがあったからだ。


 狼の紋章を持つ真紅の海賊船。


 ローボ・ロッホ。


 今や知らぬ者がいないと言っても過言ではない宇宙海賊だ。それだけでも充分に驚くべき事だが、ギャレット司令は個人的にもローボ・ロッホには因縁があったのだ。


「確認しました。さらにP級宙雷艇二隻確認。あ、また来ました。Z級駆逐艦をさらに一隻確認。他、詳細不明の大型艦を三隻確認。いずれも装甲装備の上、武装しています。海賊船と思われます!!」


「なんだと……!」


 次々とリープストリームから降下してきた駆逐艦は学園宇宙船を発見するや急接近していく。


 攻撃する様子は無い。学園宇宙船と舳先を並べリープ閘門へ進路を向ける。それは確実に学園宇宙船を護衛する体勢に入っていた。


「なぜ海賊が学園宇宙船を護衛するのだ……」


 ホプキンスは唖然としてそうつぶやいた。

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