09-03:「体のいい人質ですな」
「帝国宇宙海軍の
データを確認した上でそう報告した警備兵にミロは重ねて尋ねた。
「軌道海兵隊の艦艇ではないのだな?」
「はい、殿下。軌道海兵隊のY級規模の巡洋艦は保有しておりません。海兵隊の
「なるほど、それは幸運だ」
そう言うとミロは少し笑った。さらに新たな報告が来た。
「前王朝派の後ろ盾になってるファブリカント侯爵に庇護を求めた海軍脱走者というと最近ではギャレット准将、ハフタル大佐、カンダ少佐。あるいはコリドー空域駐留第112艦隊などでしょうか」
「彼らのデータをこちらへ回してくれないか」
そう指示するとすぐさまミロの目の前にある小型ディスプレイにデータが表示された。それを見てミロはさらに自信を深めたようだ。
「どうやら我々は運にも恵まれているようだ」
そうつぶやきわずかに微笑む。
「通信、入りました。文章のみです。停船を命じています。停戦後、学生、生徒、教職員はすべて輸送艦に移乗の上、安全な場所へ退避させるとの事です。なお警備兵その他はそのまま学園宇宙船に残り、救助を待てと言っています」
「体のいい人質ですな」
ピネラ中尉の言う通りなのだろう。
「艦艇の所属及び指揮官については何も言ってきていないか?」
「はい。今の文面だけです」
通信オペレーターはそう答えた。
「挨拶もなしか。しかもこちらの事情を分かってる……」
そうつぶやきミロはさらに通信オペレーターに言った。
「一つだけ訊いておこう。そちらに充分な医療設備はあるかと尋ねてくれ。学園宇宙船のものが帝国医療機関認定グレードB+だから、最低でもA-以上の設備と医師がいるかどうかだ」
「了解しました」
コンソールに向き直るとすぐに通信オペレーターは振り返った。
「返答有りました。帝国海軍の標準設備はある事です。必要なら移乗後にすぐ必要な施設へ移送とすると言ってきました」
「帝国海軍標準の医療設備となると、せいぜいグレードC+ですな」
ピネラ中尉の言葉に肯きミロは言った。
「ああ、それでは意味が無い。移乗する手間を考えると、現在治療中の負傷者の命にも関わる」
「いかがいたしましょう。殿下」
尋ねるピネラ中尉にミロは答える。
「通信は無視。このまま前進だ。リープ閘門へ向かい、このバーナクル辺境空域を脱出する。負傷者の治療が最優先だ」
ミロの命令に管制室内の警備兵やオペレーターは不安げな顔を見合わせた。その動揺を代弁してピネラ中尉が尋ねた。
「しかし殿下。敵から攻撃を受けたら……」
「安心しろ。我々は文字通りの大船に乗っている。そもそも学園宇宙船は超大型の要塞艦を改装したもの。外部からの攻撃については頑丈だ。そして連中は生徒や学生を人質に取るのが目的。余り派手な攻撃するわけにもいかない。さらにあいつらは海軍だ。海兵隊と違い、艦に乗り込み勇ましく戦う
警備兵は帝国軌道海兵隊所属。そのプライドをくすぐられてその場の空気が緩んだ。それを逃さずにミロは続けた。
「それに向こうには引け目があるはずだ。指揮を執ってると推測される将官のデータから察するに、みな相応のプライドを持つ軍人と思われる。ならばこそ手負いの学園宇宙船に攻勢をかける事に躊躇いがあるはずだ。それこそがつけいる隙になる」
「しかし殿下。向こうも切羽詰まれば何をしてくるのか分かりません。なにしろ他に行く場所が無いが為にファブリカント侯爵に庇護を求めたのです。前王朝派には従わざる得ないのではないでしょうか?」
「つまりそれは確固たる信念に基づいた行動では無い。それならば如何ようにもなる」
ピネラ中尉の不安にそう答えると、ミロは少し微笑み付け加えた。
「このままでも問題は無い。しかし言う通りまだ万全とは言えない。運が良ければそのだめ押しがそろそろ来るはずだ」
その言葉にピネラ中尉を始め管制室の人間は顔を見合わせた。
「先程のリープ通信ですか? あれは一体……?」
尋ねるピネラ中尉にミロは意味ありげに微笑んだ。
「お互い借りを作るのは嫌な性分だからな」
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