09-02:「気を使わせて済まない」
すでに学園宇宙船はリープストリームを抜け、十数光年先のバーナクル辺境空域に到着していた。
◆ ◆ ◆
「ルーシアは一旦、意識を取り戻したが、興奮しているそうなので、今は鎮静剤で眠っている。特に怪我はしてないという話だ」
ミロの隣りに座るなり、スカーレットはそう耳打ちした。
「ポーラは危険な状態だが容体は安定している。キースは予断を許さない。まだ手術が続いてるが、学園宇宙船内の医療設備だけでは限界がある」
「そうか……」
ミロは小さく肯いた。その後も沈黙を保っているのは、話を続けろという意思表示とスカーレットは判断した。
言いにくい事を報告する。
「ブルースとアマンダ・ブレアは銃弾を受けてほぼ即死だったそうだ。その他、港内だけでも生徒、学生教職など学園関係者にに大体五〇人以上の死傷者が出ている。警備兵の被害、突入したテロリストの死傷者は現在確認している」
スカーレットはミロの頼みで被害状況の確認に回っていたのだ。同時にルーシアの容体を確認してくるという要請もあった。
「カスガ会長だが、今はキースに付いている。しかしかなりショックを受けている。当面は会長としての活動は無理だろう。自治会長の暫定代表はマックス・ムーアに頼むと言付けを受けてる。本人も了承済みだ」
スカーレットの報告にミロは管制室の隅で、居心地悪そうにシートに座っているムーアへと視線を巡らせた。
神経質そうな眼鏡の男子学生は、ミロの視線に気付くとぎこちなく首肯を返してみせた。
ミロもムーアに肯き返すと、スカーレットへ向き直った。
「かなりの被害があったな」
そうとだけ言った。そんなミロにスカーレットも肯くしかなかった。
学園宇宙船はすでにリープストリームから出ていた。
無論、超光速飛行中に
それを考えるとうかつには
結局、学園宇宙船はテロリストにハッキングされたデータ通りに場所へ向かわざる得なかったのだ。
辺境空域の定義は主要な恒星系から遠いという地理的な要素だけで決まるのではない。
主要な恒星系へ繋がるリープストリームに乗れるリープ閘門がいくつあるかが重要となっている。
バーナクル辺境空域にはリープ閘門が一つだけしか存在しない。
典型的な辺境空域だ。
その一つも繋がっている主要な恒星系と言えば、現皇帝グレゴールに対して距離を置いているファブリカント侯爵領サーク星域だけなのである。
バーナクル辺境空域に到着するまでの四時間と、到着してからの時間で管制室は綺麗に片付けられていた。
特にミロの座るシートは、どこからかそこそこ見栄えの良いものを調達してきたらしい。
スカーレットはそのシートに座るミロにちらりと視線を送ると小声で言った。
「そういえばさっき、なんで起こしてくれなかった?」
やにわにそう言い出すスカーレットにミロは怪訝な顔だ。
「男に寝顔を見られるのは、結構恥ずかしいんだぞ。気がついていたのなら、起こしてくれたもいいではないか」
どうやら先程の居眠りの件のようだ。スカーレットは少し唇を尖らせて抗議した。そんなスカーレットにミロは真顔で答えた。
「気にするな、ヨダレはたらしてなかったし、寝言も言っていなかった。いびきもかいてない」
「そういう問題ではない!」
むきになってスカーレットは反論した。ミロは苦笑して答えた。
「分かった分かった。今度からそうする」
「本当だな。約束だぞ」
そう言ってシートに座り直した。しばしの後、ミロはスカーレットに小声で言った。
「気を使わせて済まない」
「……な?」
スカーレットはミロの言葉に頬を赤く染めた。
「ば、馬鹿! そういう事は分かっていても口に出さないものだ。意味が無くなってしまうだろう。まったくお前はデリカシーのない奴だな!!」
そんな二人のやり取りを微笑みながら見ていたピネラ中尉だが、部下の報告に厳しい表情を取り戻した。
「ミロ殿下。接近する艦艇を確認しました。メインディスプレイに出します」
「頼む」
ミロも真剣な表情になった。メインディスプレイに出たのは三隻の軍艦。
大きさ、形状から察するに巡洋艦一隻、駆逐艦三隻。
背後には夜の星空を映す水面のような空間、リープ閘門が広がっているのが分かる。
そのリープ閘門近くにも見慣れぬ形状の宇宙船が一隻、待機していた。
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