08-14:「発進を阻止しろ!」
「銃声が聞こえただと?」
「はい、フロッグリーダー。赤外線センサーだと三、四人がこの通路にいた痕跡があります」
合流したチームの指揮を執るフロッグリーダーにそう報告があった。
しかしフロッグリーダーはそれよりもエアロックが閉じており、その先にある避難船デッキで発進準備が整っている事を優先した。
「まずいぞ、姫殿下を乗せたままで避難船を出発させるわけにいかない。まずそちらを阻止する。エアロックを破壊しろ! 時間が無い、急げ!」
彼らは当然、ミロがルーシアを救出などとは知らない。フロッグリーダーは慌てた。
兵士たちは急ぎながらも慣れた手つきでエアロックに爆弾を設置して爆破、破壊した。
◆ ◆ ◆
「ギル皇子、あのシュトラウス家の娘さんは……」
避難船デッキに一人で入ってきたギルに学園長は怪訝な顔でそう尋ねる。しかしギルは苛立った様子で言った。
「うるさい! それよりも発進準備は出来ているのか?」
「ええ、出来ていますが。それよりも……」
その時、エアロックの扉が吹き飛んだ。思わず身をすくめる学園長を置き去りに、ギルは自分の為に用意された避難船へ駆け寄りタラップを昇った。
「おい、学園長先生よ。あんたはここまでで充分だ。その辺に隠れろ。テロリストが来るぞ! 命乞いすれば殺されはしないだろう」
「ちょっと待って下さい、皇子! ギル皇子、出てはいけません!」
発進準備中に学園宇宙船がリープストリームに突入した事を知った学園長は、ギルを説得しようと声をからして叫んだ。
しかしその声もなだれ込んできたテロリストたちの銃声にかき消される。
「ひえええ!」
情けない悲鳴を上げて学園長は退避室に逃げ込んだ。
何らかの不都合で人が取り残されたまま、エアロックが開かれた場合に避難する為の部屋だ。
狭い上に酸素は数時間分、水や食糧も用意されていないが、そもそも長時間使用する前提で作られてないので、これで充分なのである。
◆ ◆ ◆
「いま退避室に逃げ込んだの誰だ?」
「確認しました。ジマーマン学園長です。ギルはあの避難船に逃げ込みました」
兵士はシリンダー型の小型宇宙船を指さした。全長は十メートルも無い。一目で短距離飛行用で
「姫殿下は確認出来たか?」
「出来ませんでした! 同行しているのかどうかも未確認です」
報告にフロッグリーダーは逡巡した。
本当にあの避難船にルーシア・シュトラウスが乗っているのだろうか。しかし考えている時間は無い。
乗っていたら何もかもが無駄になってしまうのだ。
「発進を阻止しろ! 何がなんでもだ! 但し避難船そのものは破壊するな。特に操縦室への攻撃は注意しろ!! 姫殿下が同乗している可能性がある!!」
◆ ◆ ◆
テロリストたちはギルの乗る避難船を猛然と攻撃してきた。
ルーシアが乗っているものだと勘違いしてるのだろうと察しが付いたが、ギルにしてみればどちらでもさして変わらない事だ。
テロリストたちの目的はルーシアの拉致とギルの殺害。ルーシアが乗ってないと分かれば、操縦室を直接狙ってくるはずだ。
いずれにせよこのまま避難船デッキにいたら殺される。避難船のエンジンはすでに起動していた。
ギルは避難船を上昇させた。その時、通信機からピネラ中尉の声が聞こえていた。
「ギル皇子、こちら管制室のピネラ中尉です。発進してはいけません、ギル皇子。学園宇宙船は現在……」
ギルは無言で通信機を切った。
この学園宇宙船も自分の居場所では無かった。
今さら誰の言う事も聞かない。聞く気も無い。ウィルハム宇宙港へ逃げ帰ってどうなるわけでもないが、もうこの学園宇宙船には用がないのも確かだ。
とにかく今は脱出しよう。そう考えたギルは避難用宇宙船を上昇させた。しかし外部へのハッチが開かない。本当ならば宇宙船が接近すれば自動的に開くはずなのだが、内部に人間、即ちテロリストがいる為、機械的にその安全を優先して開かないのかも知れない。
「おらおら! お前ら邪魔だ!!」
ギルは避難用宇宙船を狭いデッキの中で右に左に振り回して、ノズルからの噴射でテロリストたちを排除しようとする。
それが功を奏したのか。テロリストたちの一人が撃ったグレネード弾が狙いを外し、避難船の横を掠めるとそのままハッチへと命中した。
爆発の衝撃でハッチが外れかけたのがギルの目に入った。
「でかしたぜ!」
ギルは思わずそう叫ぶと避難船を直接ハッチへぶつけた。
それを見てテロリストたちも入ってきたエアロックに戻って身を潜めた。
安全装置は自動的にデッキ内に生身の人間が残っていないと判断。ハッチが開き始めた。
だがそれも束の間。突然、デッキ内に危険を知らせる赤いランプが灯り、空中に『WARNING』の文字が表示される。
それと同時に開きかけていたハッチも、また閉じようとしているではないか。
いずれも学園宇宙船がリープストリームに突入した為に表示されていたもの。気ばかり急くギルは、そんな事に考えが及ぶ余裕など無かった。
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