第8章:少女達の復讐と一人だけの王国

08-01:「何か様子が変だ」

「おい、お前たち。弛んでるぞ、まだテロリストは船内に残ってるんだ」


 ギルの寮周辺で警戒している警備兵たちのリーダーであるガルシア曹長は、花壇に腰掛けている部下をそう注意した。


「でもさっき通信を傍受したら、もう粗方、船外へ放り出したって言ってましたよ」


「半数以上、排除したんでしょ? 今さらここまで攻め込んできませんって。だってほら、皇子さまが呼びつけても誰も来てないじゃないですか」


 警備兵たちは口々にそう言った。


「その船内通信だって、まだ完全に回復していないんだ。警戒態勢は続行中。こういう状況が一番危険だぞ。さぁ立て。警戒を続けろ」


 幾度も実戦を経験してきたガルシア曹長は、若い警備兵を叱責した。


 その時だ。


 ガルシア曹長のヘルメットに内蔵されたセンサーが異常を伝える。ガルシア曹長は反射的に叫んだ。


「無力化ガスだ!! 総員、防護マスクを……」


 言い終える前に意識を失い倒れ込む。


 しかしガルシア曹長の警告もあり、他の警備兵たちは間一髪、防護マスクを着け警戒態勢を取った。すぐさまバイザーにセンサーからの情報が表示された。


「XNGガスだ! 管制室へ報告!! こちら中央区画のギル皇子寮を警備中の部隊。XNGガスによる攻撃を……」


 やはり言い終える前に、今度は銃撃が始まった。ガスだけでは無く発煙手榴弾も使用されたようだ。周囲が煙幕に包まれる。


「煙幕の方に敵がいるはずだ。警戒しろ」


 警備兵の一人がそう叫ぶが、突入してきたテロリストたちは、その反応を想定していた。


 煙幕に包まれていない背後からも銃撃が始まった。


「くそ、挟まれたか。管制室、応援を頼む!! ギル殿下の寮に敵襲だ!!」


 警備兵は通信機にそう叫ぶが、新たな通信妨害が始まったようで、管制室からの応答は無かった。


          ◆ ◆ ◆


「何か様子が変だ」


 ギル皇子を警護するセキュリティガードの一人、ジョン・スミスが慎重に窓へ歩み寄り、カーテンの隙間から外を窺いそう言った。


「警備兵の連中も来ねえし、何をやってるんだ。まったく」


 ギルは先程から落ち着き無くリビングをうろうろしている。


「船内に侵入したテロリストは概ね排除したとピネラ中尉から連絡がありましたし、これで安心していいのでは……」


 何とかしてギルの寮にたどり着いていたたジマーマン学園長がそう言った。


「それ以降、その中尉殿から連絡がねえじゃないか。第一、テロリストを宇宙船外へ放り出したって、一体全体どうやったんだ?」


 ギルはミロが指揮を執っていることは知らない。


 学園長もミロと入れ違いに管制室を出たので、状況は把握していないのだ。


 またミロも自分からギルに教える事は好まなかった。それ故にピネラ中尉にも口止めをしていたのだ。


 しかしギルもまったくの暗愚というわけではない。手際よくテロリストを排除した事や、呼びつけたはずの警備兵たちが結局、自分の寮周辺に集まらなかった事実。そしてピネラ中尉が経過報告をしてこないのが気になっていた。


 ミロか? あいつが指揮を執っているのか? 


 ギルにもそこに考えが至る程度の知恵はあった。


「また通信妨害が始まっています。テロリストを完全に排除出来ていないのは確かだと思われます」


 船内連絡用の電話回線や通信機をいじっていたセキュリティガードの一人イワン・イワノフがそう報告した。


「アーシュラも帰ってこないし……。会長は無事なのだろうか」


 事態を知らない、知る由も無いキースが心配そうな顔でそう言うと、アマンダは思い詰めた表情でギルに向かって言った。


「あの良かったら、私が管制室まで行って、話を聞いてきましょうか?」


「そうだな……」


 そう答えるが、ギルは上の空のまま。アマンダの提案は右から左へと通り過ぎているのは確かだ。


「行くなら私が行こう。テロリストに遭遇する可能性がある」


 タロウ・サトウがそう言った。その時、外から銃声と爆発音が響いた。

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