07-17:「お前と私でルーシアを守るのだな」

「確かにあれほどの大部隊を正面から突入させてきたのは引っかかるな。しかし陽動だとしても大がかりすぎるんじゃないか?」


 スカーレットのその問いもミロは硬い表情のままで答えた。


「俺もそれが気になっていた。大がかりすぎる。だから単なる陽動では無い。襲撃艇で突入してきた大部隊は言うならばプランAだ。それでギルを殺害できれば良し。出来なければ別案。予め潜入していた小部隊のプランBが動き出す。プランAの各部隊もプランBが別に動くなど聞いていない可能性がある。言わば二枚腰の作戦だ」


「それは考えすぎ……」


 ミロはスカーレットに最後まで言わせなかった。


「今回の作戦行動のクライアントが誰かがという事を考えるならば、作戦は二枚腰にならざる得ない。旧王朝派の中でもシュトラウスの血統を崇めているいわゆる神聖派ならばギルを殺害するだけではなく、もう一つの目的を達成しなければならない。プランAがギル殺害に成功しても、プランBはもう一つの目的達成を目指すはずだったのだろうな」


「……そうか、ルーシアの拉致」


 スカーレットがそう言うと、ミロは首肯して続けた。


「カスガ会長はもちろん、ピネラ中尉にもルーシアの身分を明かすわけにはいかない。そしてなにより生徒、学生の誰にも、テロリストの目的がギルの他にもあった。ルーシアの拉致が目的だと知られるわけにはいかない。俺はミロに約束したんだ。ルーシアが普通の少女としての幸せを掴めるようにすると」


「分かった」


 スカーレットもミロに力強く肯き返すと言った。


「お前と私でルーシアを守るのだな」


「ああ、それとポーラもだな」


 当たり前のようにそう言うミロを、しばしスカーレットはきょとんとして眺めていたが、やがて少し不服そうに唇を尖らせて見せた。


「まったく、お前という奴は……!!」


「どうかしたか?」


 怪訝な顔でミロが尋ねると同時に、エレベーターは上部都市区画に到着した。


「い~~や、何でも無い!」


 スカーレットは不機嫌そうにそう言うと、ミロを置いてさっさとエレベーターから出て行ってしまった。


           ◆ ◆ ◆


 フロッグチームは中央区画入り口まで到着していた。


 この学園宇宙船が軍艦だった頃には、ブリッヂや艦長室や高級士官の部屋が集中していたブロックだけあって、周囲のエリアとは厳重に仕切られている。


 頑丈な金属壁で囲まれており、内部に入る場合には、厳重に警戒されたゲートを通らなければならない。


 そこだけがまた別の宇宙船であるかのような印象がある。


 普段使われてない通路や、人通りの少ない区画を選んで何とかここまでやってきたフロッグチームは、警備兵の死角になる位置で様子を伺っていた。


 彼等が管制室のシステムに仕込んできた監視システム妨害用のウィルスプログラムはまだ有効のようだが、遅かれ早かれ解除されてしまうのは間違い無い。


 全ての監視システムが復旧すれば、彼等の行動は筒抜けになってしまう。その前に事を片付けなければならない。


「こちらから行きますか? 別ルートで進攻中のハイドランジアチームも、そろそろ中央区画に到着するかと思われます」


 フロッグ2から尋ねられたフロッグリーダーは答えた。


「余り長引かせるわけにもいくまい。こちらが先に仕掛ければ、ハイドランジアチームも楽になる。誰が手柄を立てるかは問題では無い。如何にして目的を達成するかが目的だ」


 フロッグリーダーはそう答えると、バイザーの望遠装置と音響センサーの感度を上げた。


 中央区画への入り口を守る警備兵たちを観察するためだ。


「おい、お前たち。まだ気を緩めるな。まだ所在の掴めないテロリストたちがいるんだ」


 一番、階級が高いと思われる警備兵が、部下にそう注意していた。所在の掴めないテロリストとやらが、自分たちのすぐ背後まで迫っているとは夢にも思ってはいまい。


「でも大体は排除したんでしょ? いくらギル皇子を狙ってると言っても、今さら突っ込んでくる馬鹿もいないんじゃないですか」


「そうそう。俺たちも間抜けなテロリストの面を拝みに行きましょう」


 ゲートを固めている警備兵たちは完全に油断している。


 人数も三人だけのようだ。本来ならばもっといるはずだが、中央区画内にあるギルの寮周辺に集められているか、あるいはプランA各チームへの対処にかり出されているのだろう。


「フロッグ6。頼む」


 フロッグリーダーが命じると、組み立て式の狙撃銃を手にしたフロッグ6が前に出てきた。


 そのまま警備兵に銃口を向けた。じっくりと狙いを定める時間は無い。いつ見つかってもおかしくないのだ。狙撃に関してはフロッグチーム内でもっとも優秀な技術を持つフロッグ6は、銃口を向けると同時に引き金を絞った。最新式のサイレンサーにより銃声はほとんどしない。


 その分、射程と威力が落ちるのは致し方ないところだろう。


 フロッグリーダーのバイザーに映る映像の中で警備兵の一人が崩れ落ちた。続いて二発目、三発目と撃ち込まれ、ゲート前にいた三人の警備兵が全て倒れた。


「よし、行くぞ!!」


 フロッグリーダーは対物手榴弾を放りゲートを吹き飛ばす。フロッグ6の銃弾に倒れた警備兵たちもまだ息はあるようだ。拳銃を向けてフロッグチームへの反撃を試みると当時に、周囲に警報が鳴り響き始めた。


 フロッグチームはその抵抗をものともせずに、ゲートを強行突破して中央区画へと侵入した。


 中央区画の内部は一見すると閑静な住宅街。警備兵の姿がちらほら見えるが、やはり気を抜いていたのだろう。反撃に移るまで一時の間があった。


「向こうだ」


 その隙に目的地への最短距離を確認してフロッグリーダーは言った。


「化学兵器を含めた全ての武器の使用を許可する。全力で障害を排除して目的を達成するのだ!! 目的はギルフォード・ロンバルディ・ベンディットの殺害である!」

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