08-02:死ねるか、死ねるか!!

「爆発が起きた! テロリストがこの区画まで潜入してきたようだ」


 外の様子を伺っていたジョン・スミスがそう言うと、やにわにギルが声を荒げた。


「くそ! ミロの奴め、何をやってやがる!!」


 ミロが指揮を執っていると考えていたギルにとっては当然の罵倒だが、アマンダやキース、そして学園長もその名が出てきたことに当惑を隠せない。


「伏せてください。皇子!!」


 ジョン・スミスが叫ぶと同時に、さらに激しい銃撃音が鳴り響き、窓ガラスには白くヒビが入った。


 高硬度の防弾ガラスだった為、アサルトライフルの銃弾でもそう簡単に破ることは出来ない。しかし二度、三度の銃撃に持ちこたえることが出来ないも事実だ。それにテロリストたちも当然、他の武器は用意しているだろう。


 今度は天井から何かが爆発する音が聞こえてきた。続いてテーブルの上のインターフォンが鳴る。サトウが出ると警備兵の緊迫した声が飛び込んできた。


「テロリストが寮のすぐ側まで侵攻してきました。ガス兵器の他、焼夷手榴弾を使ってきています。炎上の恐れがあります。すぐに逃げてください」


 しかし警備兵よりもセキュリティガードたちの方が冷静だった。


「迂闊に外には出られんな。そこを狙い撃ちにされるだろう」


 警備兵の話はスピーカーフォンで室内にいる他の人間にも聞えていた。


「ガス兵器の種類は分かるか?」


 スミスが尋ね、サトウが問い合わせる。すぐに返答があった。


「XGNガスだそうだ」


 セキュリティガードたちには馴染みのガス兵器であった。


 化学兵器に分類されているが、ただ人体に有害なガスを使用しただけのものではない。ナノマシンが含まれており、任意の場所に滞留させたり、あるいは一定時間が経過すると急速に分解するよう調整できる。


 少しでも吸い込めば即座に意識を失うが、よほど運が悪くなければ死亡したり後遺症が残る事は無い。


 もっともそれも状況次第だ。


「確実に仕留めるつもりだな。立てこもれば入ってきたガスで意識を失い焼け死ぬ。逃げ出せばそこを狙ってくるだろう」


 スミスの言葉にイワノフも肯いた。


「そうだな。ガレージにクルマがある。逃げるならそれしかありません。ギル皇子。あれなら外気をシャットダウンできる機能がついています」


「ああ、分かっている」


 鷹揚に肯きながらもギルは考えを巡らせていた。


 本当にミロが指揮を執っているのならば、奴は身分を明かしたはずだ。


 ギルはそう考える。


 ミロが、ミロ・ベンディット本人であるか疑いを持っていたギルだが、こうなってしまえば真偽は二の次だ。


 さて、俺はどう出る? どう出たら一番の成果を上げられるのか。


 考えを巡らせていたギルは、かねてから密かに練っていたプランを実行に移すことした。


 その選択肢を選ぶ可能性があるからこそ、学園長をこの場に呼びつけたのだ。


「よし、スミスとお前等は下に行ってクルマの準備をしろ。俺とイワノフとサトウは、武器を持ち出す。それと学園長はここへ残れ。俺たちを手伝うんだ」


 ギルはそう命じた。


「了解しました」


 セキュリティガードたちは敬礼すると即座に行動に移った。アマンダとキースは何をしていいの分からず、ぽかんとしていたが、そんな二人をギルが怒鳴りつけた。


「何をしている! すぐに下のガレージに行ってクルマの準備をしろ。自動運転装置を停止してマニュアルで操縦できるようにしたり、気密性を確かめたり、サバイバルキットを確認したり、色々とやることがあるだろう!!」


 どうやらにはアマンダとキースが含まれていたようだ。


 そうしている間にもまた屋根の上から爆発音が響き、ようやく緊急警報が鳴り響いた。アマンダとキースはその音に追われるようにガレージへ向かった。


 ギルが武器庫代わりにしているクローゼットへ向かうと同時にテーブルの上にあったインターフォンが鳴る。


 学園長が出てみると管制室からの連絡だった。


「管制室のピネラ中尉です。状況を……」


 ピネラ中尉が言い終える前に学園長は泣きついた。


「敵襲です! テロリストが来ました、一体全体どうなっているんですか。ピネラ中尉!!」


「分かりました。状況を確認中です。取り急ぎ警備兵を向かわせています。化学防護班も急行しています」


「急いでください、急いで!」


 学園長は念を押すとギルの方へ向かって言った。


「そういう事ですから、もうしばらくここで待機していてもいいんじゃないでしょうかねえ」


 学園長はどうやらここから動く事そのものが不安なようだ。


「当てにならねえな」


 クローゼットからライフルや予備の弾倉を取り出しながら、ギルは背中越しにそう答えた。


 ミロが指揮を執ってるなら俺は見捨てられるかも知れない。


 ギルはそう考えていた。


 なにしろ皇位継承戦のライバルだ。戦う相手は一人でも少ない方がいい。自分の身は自分で守るしかない。


 自分一人でどうにもならないのならば、使える手段は全て使う。学園長や自治会の役員、そしてもその手段の一つに過ぎない。


 ここで死ねるかよ。ここで死んだら、俺は政争の道具として産まれて、利用されるだけ利用されて死ぬだけじゃねえか。


 死ねるか、死ねるか、死ねるか!!


 ギルは何度もその言葉を反芻していた。

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