05-13:「こりゃ帰りは混みそうですね」
「おかしいな。なんだこりゃ」
学園宇宙船ヴィクトリー校の管制室で正規乗員はコンソールを操作しながら首を傾げた。
「どうかしましたか?」
学園長の問いにその乗員は振り返り答えた。
「はい、宇宙港の桟橋からは離れたのですが、速度が落ちません。むしろ徐々にあがっています。このままでは……」
そう言いかけた時だ。別の乗員が声を挙げた。
「先程、確認した未確認機ですが、本船に引き続き接近中です。形状は宇宙港所属のタグボートと同じですが、船籍番号はデータベースにありません。通信にも答えません」
警備隊隊長のピネラ中尉がいれば両者の間に何かの関連性を見いだしたかも知れない。しかし生憎とピネラ中尉は要員の再配置を行う為、席を外していたのだ。
「今は未確認機の方に注意しましょう。新手の敵かも知れません」
そして新たな報告が飛び込んできた。
「宇宙港との通信が断たれました。接近中の未確認機により通信妨害が行われているようです」
「すぐに復旧して下さい!」
「分かっています。今やっていますが、向こうも対応してるようです。根本的な解決手段がないと、長時間の通信は回復できません」
「ああ、なんという事だ。これでは宇宙港と連絡を取り合って対処する事が出来ないではないか……!」
頭を抱える学園長は学園宇宙船の動きの事などすっかり忘れてしまった。
◆ ◆ ◆
「
ハーシュハイザーの所属する
「おいおい、
戦闘の状況は暗号化され送信、各チームで情報が共有されている。当然、バッファローチームの状況もイールチームに伝わっている。襲撃艇の操縦席で行われるやり取りに、ハーシュハイザーはボディアーマーを着けながら聞き入っていた。
「大丈夫なんですかねえ。警備隊はそれほど重武装じゃないはずでしょ」
「びびったかい」
「はい、まぁそうです」
素直に答えるハーシュハイザーに先輩兵士は呆れた。
「お前、少し考えてからものを言った方がいいぞ」
「そうですか、自分なりに考えてるつもりですけどね」
肩をすくめるハーシュハイザーをイールチームのリーダーが叱責した。
「イール5! おしゃべりが過ぎるぞ!! まもなく本機は目標に到着する。すぐに戦闘に入る心構えを怠るな!!」
「イエスサー!」
敬礼するとハーシュハイザーはヘルメットを付け直した。それを確認してイールリーダーは全員に訓示した。
「我々の目的は突入した部隊の回収である。その為、作戦が終了するまで
「イエスサー!」
襲撃艇のコンテナに整列した兵士は一斉にそう答えた。その人数は正副操縦士とリーダーを合わせても七人。突入するチームの半分ほどである。
作戦を終えて脱出する兵士を収容するスペースを確保する為、人数はどうしても減らさなければならない。これでもギリギリ。さらにコンテナ内の予備タンクや本体の装甲、骨組みも外して、全員無事に帰還しても何とか乗り込めるに改装してある。もっとも最新の報告では数人かそれ以上の余裕が出来そうな雲行きだ。
「
操縦席からそう報告があった。
「状況はどうだ?」
「反撃はほとんどありませんでした。学園宇宙船内部もかなり混乱しているようです」
「よし、この混乱に乗じて我々
イールリーダーの話を聞いていたハーシュハイザーは恐る恐る尋ねた。
「……あの、ちょっと気になるんですが」
「またお前か!」
イールリーダーは呆れたものの、質問する事は拒絶していないようだ。ハーシュハイザーはそう判断して尋ねた。
「学園宇宙船に突入せず、外部で待機した方がいいんじゃないですか? まだ学園側の対空砲火や護衛艇は出てきていません」
イールリーダーは首肯してから答えた。
「良い質問だ。まず第一に……」
その時、操縦席の小さな窓からでも、それと分かるほど強烈な閃光が飛び込んできた。
「対空砲火始まりました。学園宇宙船の護衛艇も接近してきています」
「よぉ~~し! うまく護衛艇と学園宇宙船の間に入り込め。お互い被害を出すような事は出来ないはずだ」
イールリーダーは操縦席にそう命令するとハーシュハイザーの方を振り返り付け加えた。
「向こうも馬鹿じゃないからな。こうして反撃が……」
そう言いかけた時だ。襲撃艇に衝撃が走り、ハーシュハイザーやイールリーダー、他の兵士たちも狭いコンテナで振り回された。
「どうした? 状況報告!!」
兵士の一人が外部カメラを操作して外部の様子をコンテナ内の立体ディスプレイに表示した。出し抜けにボディアーマーとヘルメットを着用した兵士の上半身が映し出される。身につけているマークやナンバーから察すると、どうやらフロッグチームに所属していた兵士のようだ。
「フロッグチームの襲撃艇が対空砲火の直撃を食らいました! 被害は現在、調査中です」
操縦席から報告が来た。
「アレックスだ、早く助けないと……! ボディアーマーをつけてるし、まだ間に合う!!」
外部カメラに映った兵士と知り合いらしい男が叫んだ。しかしイールリーダーはそれを無視した。
「調査はいい、一刻も早く安全に学園宇宙船に突入する事を優先しろ!」
「了解しました」
アレックスなる兵士と知り合いらしい男は、イールリーダーに不服そうな顔を向け、口を開き掛けたがすぐに止めた。イールリーダーの言う通りだと分かったからだ。
外部カメラの向こうでは、アレックスから徐々に離れていく所だったが、腰から下は何もなかったのだ。
「こりゃ帰りは混みそうですね」
そうぼやくハーシュハイザーにイールリーダーは言った。
「お前は歩いて帰ってもいいんだぜ」
「いいですね。最近、運動不足ですから」
そう答えながらもハーシュハイザーは、イールリーダーが学園宇宙船に突入、待機する理由を『第一に……』と言っていたのを思いだしていた。つまり他にも理由があるのだろうか。だがそれを確認している余裕は無さそうだ。
「突入します!」
操縦席からの声にイールリーダーは叫んだ。
「全員、何かに掴まれ!」
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