05-12:「映画のようにはいかんものだな」
「装備チェックは済ませたな。よし、行くぞ!」
ボディアーマーを装備した
「バッファロー2、学生が死んでます!!」
ボディアーマーにアサルトライフルで武装したバッファロー4は、ドックを見回すなりそう叫んだ。
「そりゃ襲撃艇の下敷きになれば学生は死ぬ。教師も死ぬ、坊主も死ぬ。俺たちだって死ぬ。同じ事だ」
バッファローチームの兵士は血だまりを蹴り立ててドックの出入り口へ向かう。そこでは避難してきた学生や生徒を安全な場所へ誘導しながら、学園宇宙船の警備兵が応戦している所だった。激しい銃撃が浴びせかけられる中、バッファローチームは慎重に様子を伺っていた。
「へい! びびってんのか、坊や!」
バッファロー6がが一番後にいたバッファロー4をからかった。
「いや、でも……。クライアントはあまり派手にやるなと言ってるのでは……」
「そうしているつもりだ。派手にやるならまずミサイルか対艦レーザーでもぶち込む」
突入の指揮を執っているバッファロー2は出入り口からの銃撃に、襲撃艇の影に隠れるように仕草で指示しながらそう答えた。
「手榴弾で出入り口の兵士たちを始末する。伏せろ」
言うなりバッファロー1は手投げ弾のピンを抜いて投げようとした。その手首を何者かの狙撃が弾いた。バッファロー2は思わず呻いてうずくまった。どうやら先程の狙撃ライフルによるもののようだ。
床に転がった手投げ弾に思わずバッファロー4は後ずさるが、バッファロー6は何事も無いように、それを拾い上げた。
「おいおい、坊や。昔の映画と違って、最近の手投げ弾はAIが仕込んであるから、ピンを抜いただけじゃ、投擲と判断されないと爆発しないんだぜ。今時のゲーマーのガキだって知ってる事だ」
そう言うとバッファロー6はまた手投げ弾をドックの出入り口へ向かって投げた。次の瞬間、耳障りな金属音が鋭く響いた。ほとんどの人間は何か起きたか分からなかったが、狙撃ライフルの弾丸がわずかに手投げ弾の下面を掠めた音だ。
弾丸は兵士の誰にも当たらず、そのまま床に弾痕を作る。最初から手投げ弾を狙ったのだ。その衝撃で手投げ弾は緩い曲線を描いて、投げられた方へ戻って行った。投擲中に銃弾が掠め、投擲手の方へ戻って行く。そんな偶然など想定していなかった内蔵AIは、この現象を正当な投擲動作と判断した。
「え……」
ボディアーマーのヘルメットに表示された情報はバッファロー6に、落ちてきた物体が危険であると伝えていた。そしてそれを理解したのがバッファロー6の脳細胞が行った最後の仕事であった。
「バッファロー4からバッファローリーダーへ。バッファロー6は作戦続行不可能。バッファロー2は負傷なれど作戦続行は可能と思われます」
襲撃艇の陰に逃れて手投げ弾の爆発から逃れたバッファロー4はすぐにそう報告した。
「こちらバッファローリーダー。了解した。すぐに俺も向かう」
◆ ◆ ◆
「なかなか映画のようにはいかんものだな」
ドックをぐるりと取り囲むキャットウォーク。そこではホークアイが狙撃ライフルの銃口を下げたところだった。本当は手投げ弾を撃ち返して襲撃艇ごと爆破してやるつもりだったのだが、生憎と燃料タンクや弾薬には誘爆してくれなかったようだ。兵士一人の頭を吹き飛ばしてやるのが精一杯だ。
もっとも爆発していたら俺も危なかったか……。
そう考えてホークアイは苦笑した。
しかし変だな。襲撃艇から出てきた兵士たちを見てホークアイは考えた。襲撃艇はグラズノフCV-116。収容人数を考えるとパイロットも含めて乗っていたほぼ全員がボディアーマーを装備して出てきたようだ。
突入してきた二機のうち、一機の兵士は最大収容人数に一人足りないが、どうやら先程の狙撃は無駄では無かったのだろう。
「おい、きみ! もうドック内にこちらの生存者はいない。撤収するぞ!」
警備兵が背後のドアから声を掛けてきた。
デカい声を出すな。そう言う前にホークアイは隠れていた場所を離れた。すぐさまそこを兵士たちの銃撃が襲った。
ホークアイがドアをくぐると警備兵たちは急いでそれをロックした。
「ドックの入り口もロックしたが、突破されるのは時間の問題だ。隊長に指示を仰いで体勢を立て直せねば」
そう言う警備兵に狙撃ライフルを返しながらホークアイは気になった点を報告した。
「それなら一つ付け加えておいてくれ。あの兵士たちは襲撃艇に護衛を残すつもりはないようだ」
さすがに警備兵はそのひと言でホークアイの真意を理解した。
「他に脱出ルートを確保すると言う事か。分かった。隊長殿に報告を上げておこう」
そしてホークアイが差し出す狙撃ライフルをまた戻した。
「君に任せると言っただろう。同業者というのは分かってるさ。学校には黙っててやる、それでチャラだ」
「安く見られたもんだな」
ホークアイは笑い、また狙撃ライフルを手に取った。
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