05-05:「女は強いな。そして恐い」
帝国学園宇宙船ヴィクトリー校の船内時間ではとうに夜半過ぎ。シャワーで男の匂いを流したアマンダが、ドアの方へ向かい掛けて足を止めた。そのまま足音を忍ばせてベッドルームへ向かう。そこではギルがだらしない格好で眠りこけていた。
もう終わってしまったことを今さら悔やんでどうなるわけでもない。しかしアマンダはまだ自問していた。
これで良かったのだろうか……。とんでもない事をしてしまったのではないだろうかと。
「畜生……」
ギルの声にアマンダはハッとして我に返った。目覚めたかと思ったがどうやら単なる寝言のようだ。
「畜生、俺を誰だと思ってる。俺は皇子だぞ、俺は……。どいつもこいつも俺を良いように利用しやがって……。畜生……、何が皇子だ。何が……」
ギルは毛布を指が白くなるほど強く握りしめ、そううなされていた。
ああ、やっぱりそうだ……。
アマンダは確信した。
この人は私と同じだ。地位や血統なんて関係ない。自分の意思など関係なく、家系の為に利用されるだけ為に生まれた子なんだ。
アマンダはギルの傍らに跪いて、その頬にキスをした。
お守りします。殿下。あなたの為ではありません。私の為に、あなたをお守りします。
アマンダは心の中でその言葉をつぶやき、ベッドルームから出ようとした。そこでギルがアマンダの足音に気付いたようだ。
目を覚ましてアマンダの背中に声を掛けた。
「おい、お前。アマンダと言ったな」
「……はい」
どういう顔をしてギルを見ていいのか分からない。アマンダは背中越しにギルへそう答えた。
「朝、カスガの代わりにパンにジャムを塗りに来い。ああ、あとそれからな。俺に同情するな。俺は馬鹿にされるのも嫌いだが、同情されるのはもっと嫌いなんだ。分かったな」
「承知しております。殿下」
アマンダは振り返り、ギルの顔を見ないよう頭を下げると、そのままベッドルームから出て行った。
そのままドアを開け、アマンダはギルの屋敷から出た。庭に置かれた監視所では三人のセキュリティガードと、学校側から派遣された警備兵が待機している。アマンダは軽く会釈してそのまま門扉の方へ向かおうとした。その背中にセキュリティガードの一人ジョン・スミスが声を掛けた。
「お嬢さん。どういうつもりか分からないが、殿下に余り関わらない方がいい」
イワン・イワノフも肯き続けた。
「うむ。これからきな臭くなる。近くにいるととばっちりを受けるかも知れない」
そして最後にタロウ・サトウが付け加える。
「俺たちは縁あってロンバルディ家に仕えているが、お嬢さんはただの学生だ。殿下に忠義を立てる義理は無いはずだ」
アマンダは足を止め視線を落としてしばし考え込む。そして微笑みを浮かべて三人のセキュリティガードに答えた。
「有り難うございます。でも私は今、本気で殿下をお守りしたいと思い始めているんです」
その笑みが無理矢理繕ったものだとセキュリティガードたちには分かった。しかし敢えてそこまでする理由が本人にあるのだろう。
「そうか」
「ならば好きにするがいい。しかしいつ去っても良いのだぞ」
サトウとイワノフの言葉に、アマンダは再び頭を下げ、そして門から出て行った。そして門扉の所で振り返った。
「明日の朝また来ます。殿下に来いと言われましたので」
それだけ言うとアマンダはシャトルバスの停留所へと小走りに去って行く。その後ろ姿を見てスミスはつぶやいた。
「女は強いな。そして恐い」
二人の同僚もスミスのその言葉に無言で肯いた。
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